バスと電車と足で行くひろしま山日記 2022年テーマ別ランキング総集編
2022年も残りあとわずか。2021年9月の臥龍山(北広島町)からスタートした当コラムも前回までに本編47回、県外の遠征編3回、まとめ記事などを合計すると計55回を数えた。今年を振り返ってみると、広島県内の山に計33回登ることができた。今回は2022年に登った本編の山々のうち、テーマ別に個人的ランキングをつけて振り返ってみたい。
読者に人気のあった山
webメディアに掲載した記事はアクセス数を測ることができる。「ひろしまリード」でもデイリー、ウイークリー、マンスリーの3つの指標でアクセスランキングを公開している。アクセスの多かった回は人気の山と考えていいだろう。登山人口からいっても広島市近郊の山が上位に来るのは当然か。
①広島南アルプス
石山のピークから見た火山と武田山最も支持を集めたのは、㊤㊦2回に分けて紹介した広島南アルプスだ。㊤は1位、㊦は4位だった。広島市街地の西方を画し、北端の武田山(410.5メートル)から南端の鈴ヶ峰(東峰312メートル)までハイキングでも人気の山が多い。全行程を歩き通すと20キロ近いロングコースだが、時間や体力に応じてさまざまなコースを設定できる。アクセス抜群なのも人気の理由だろう。個人的には㊤で取り上げた、武田山からルート最高峰の火山(488メートル)を経て大茶臼山(413メートル)にゴールするルートがオススメ。
広島南アルプス㊤ https://hread.home-tv.co.jp/post-143882/
広島南アルプス㊦ https://hread.home-tv.co.jp/post-146313/
②呉娑々宇山(ごさそうざん 681.8メートル)
日浦山から見た呉娑々宇山ランキング2位。広島市街地の東方にどっしりとした姿を見せている。700メートル近い標高があり、特徴的な山名とともに存在感は抜群だ。コラムでは水分峡を発着点にしたが、安芸区畑賀側の水谷峡からも登山道がある。眺望ポイントは旧岩谷観音上の岩峰と山頂近くのバクチ岩。水分峡から山頂まで行くと累積標高差が860メートルくらいになるので、時間がなければ旧岩谷観音上の岩峰の往復でも十分楽しめる。
呉娑々宇山 https://hread.home-tv.co.jp/post-128519/
③絵下山(えげさん 593メートル)
絵下山の山頂から広島デジタル放送所を望む山上に巨大なテレビ塔を載せているので、どこから見てもよく目立つ。登山ルートは複数あるが、矢野天神バス停から中世の城跡(矢野城跡)や毛利氏に滅ぼされた野間氏をまつる神社をたどりながら絶景の頂上広場に至るコースがいい。頂上広場から見る広島市街地の眺望は一級品だ。車道が通じているので夜景の名所としても人気がある。矢野の市街地から高尾山城跡、明神山(502メートル)を経て上る道もあるが、急傾斜の連続なのであまりおすすめしない。頂上広場は実際には山頂ではなく、最高点は車道と山道を10分ほど歩いたところにある。コラムでは天狗城山まで縦走したが、子ノ岳~市光山の尾根伝いの道は、今年歩いた中でも最も快適な縦走路だった。
絵下山 https://hread.home-tv.co.jp/post-161984/
絶景を楽しめた山
山登りの楽しみの一つは山上からの眺望だ。すばらしい眺めを楽しめる条件はいくつかあるが、頂上が樹林に囲まれていないことは当然として、独立峰だったり、岩峰だったりすると条件は良くなる。急斜面の山は上るのはしんどいが、麓との高度差を実感できるので満足感は大きい。
①大峯山(おおみねやま 1050メートル)
下川上集落から大峯山を見上げる広島市域の最高峰にして雄大な山容の独立峰。山頂付近は岩稜になっており360度の大展望が楽しめる。登山した日は絶好の晴天だったこともあり、瀬戸内海の島々から十方山(1318.8メートル)や吉和冠山(1338.9メートル)、羅漢山(1108.9メートル)など西中国山地の著名な山々を望めた。山頂の北側の「回り縁」という岩場は絶壁の上に突き出しており、下をのぞけばスリル満点だ。岩場自体は平坦なのでお弁当タイムには最適だ。人気の名山だが、バス停から登山口まで距離があるのと(車があれば問題なし)、登山口から標高1000メートル付近まで急登が続くのでそれなりの覚悟が必要だ。
大峯山 https://hread.home-tv.co.jp/post-170137/
②河平連山(こうひられんざん 最高峰は河平山:554.8メートル)
八畳岩と0号峰元々は無名の里山だったが、地元の人たちの尽力で登山道が開かれ、9つのピークを巡るハイキングコースが整備された。標高も大したことはなく、連山ゆえあまり眺望は期待していなかったのだが、西端の0号峰の先にある八畳岩からの眺めはすばらしかった。三倉岳(701.6メートル)や羅漢山、吉和冠山、厳島などを望めるのは大峯山と同じなのだが、距離が近いので迫力がある。「山高きが故(ゆえ)に貴(たっと)からず」を実感した。ただし、大竹交通のコミュニティバスは便数が少なく、6時間ほどの登山を終えて下山しても適当な便がない。JR玖波駅まで7キロ近く歩いたのは結構つらかった。
河平連山 https://hread.home-tv.co.jp/post-196207/
③灰ヶ峰(はいがみね 736.8メートル)
呉市街地を一望する1902年の市制施行から120年を迎えた呉市の市街地北方にそびえる。名の知られた山だが、山頂まで自動車道が通じていて「車で行く山」というイメージが強いせいなのか、野呂山(839.1メートル=膳棚山)とともに山と渓谷社の「分県登山ガイド 広島県の山」には収録されていない。市街地から急斜面を上った山頂には旧海軍の呉軍港を守る高射砲陣地の基礎を転用した展望台があり、眺望は抜群だ。梅雨の最中の登山だったが、幸い山頂ではガスも晴れ、四国の山並みまで見通せた。ブログなどを見ると、灰ヶ峰を始め、呉市の市章の由来となった呉市街地を取り巻く九つの峰をめぐる縦走もできるようだが、相当なアップダウンと距離があるのでかなりの体力と覚悟がいりそうだ。
灰ヶ峰 https://hread.home-tv.co.jp/post-174890/
ビギナー向けの山
広島は登りやすい山が多い。それでも登山口と山頂の標高差が800メートル以上もあるような山(白木山)に初心者が挑むのは厳しい。なだらかで景観を楽しみながら上れ、それなりに達成感、満足感を得られるビギナー向けのオススメ3山を選んだ。
①雲月山(うんげつざん 911.2メートル)
雲月山登山ガイドでもよく紹介される美しい草原の山。北広島町と島根県浜田市の境界にあり、草原の景観は春の山焼きによって保たれている。砂鉄の採掘で改変された地形が微妙な曲線を描いているのが興味深い。訪れたのは晩秋でススキの穂も枯れかけていたが、山焼き後に草の新芽が生える5月以降の緑も見てみたいものだ。
駐車場は2カ所あり、上の駐車場の雲月峠登山口から上り始めると、最初のピークの岩倉山までの標高差は70メートルほど。少し急な坂だが、15分もあれば登れる。いったん下り、高山を経て雲月山まで行っても30分ほどだ。草原の山だけに稜線歩き中の眺望もすばらしい。広島県側はユートピアサイオトスキー場のある高杉山(1148.7メートル)や天狗石山(1191.9メートル)、島根県側は石見高原を望める。天気が良ければ伯耆大山まで見えるそうだ。フルコースを歩いても3キロ、雲月山との往復ならぐっと楽になる。ビギナーやファミリーにはイチオシだ。
雲月山 https://hread.home-tv.co.jp/post-217153/
②深入山(しんにゅうざん 1152.5メートル)
青空にそびえる深入山雲月山同様、春に全山の山焼きをする草原の山。最短ルートの草尾根コースをたどれば南登山口から約1時間で頂上に立てる。優しい山容の通り、初心者でも楽しめる山だ。山頂は文字通り360度の展望が楽しめる。コラム初回で取り上げた臥龍山はすぐ目の間。南西方向には県内最高峰の恐羅漢山(1346.2メートル)や第3位の十方山(1318.8メートル)が見える。県北部の西中国山地では、バスを利用しても長いロード歩きをすることなく登山できる数少ない山の一つだ。麓には日帰り入浴のできる「いこいの村ひろしま」やキャンプ場、遊歩道、多目的広場もあり、ファミリーで楽しむのにも向いている。
深入山 https://hread.home-tv.co.jp/post-150617/
③二葉山~尾長山~牛田山(最高地点は牛田山=260.7メートル)
尾長山頂上付近から二葉山と仏舎利塔を望む市街地に最も近く、歴史と文化財、自然が満喫できる縦走路だ。JR広島駅から徒歩10分弱の広島東照宮がスタート。徳川家康を祀った社に参拝し、東照宮の境内社でもある金光稲荷神社の参道を上って二葉山へ向かう。山上には戦時中の高射機関砲陣地跡や原爆死没者を供養する仏舎利塔(正式名称は「二葉山平和塔」)があり、低いながらも眺望は良い。住宅街を抜けて尾長山に向かうあたりから本格的な山歩きの雰囲気の道になる。牛田山の山頂には城跡や貝塚があり、牛田に下山すると広島市内唯一の国宝・不動院も見学できる。全コースを歩き通しても6キロほど。アップダウンもそれほど厳しくないうえ、万一の時はどこからでも下山できるのでビギナーや久しぶりの登山の足慣らしにも最適だ。
とってもしんどかった山
楽しみの多い山歩きだが、しんどい思いが勝ることもある。バス停や駅から登山口まで(その逆も)長いロード歩きを強いられたり、登山道が荒れていて歩きにくかったりすると、モチベーションは下がる。苦しくても眺めがよければ癒されるのだが、それすらないと本当につらい。そんな時は「難路を制覇した。よくやった」という自己満足に浸ることで自分を慰めることになる。
①寂地山(じゃくちさん 1337メートル)
国道434号から寂地山を見る麓の寂地峡にある「日本の滝百選」にも選ばれた名瀑を見ようと選んだ山。吉和冠山に連なる山塊はなかなかの迫力だ。滝のすばらしさは期待通り、澄んだ水の美しさも格別だった。が、バス停から登山口まで約7キロの長いロード歩きにまず消耗。登山口から山頂までの標高差は850メートルもあるうえ、ほぼ全ルートが樹林の中。山仕事のために掘られた木馬トンネルや水車小屋の跡など興味深い遺構もあるのだが、山頂も含めてほとんど展望がきかず、癒されるポイントがない。帰りのバスの時間まで余裕がなく、速足で下山せざるを得なかった。20キロを超すコースを設定したのは自分なので仕方がないのだが、登山コースとしてはあまりおすすめできない。キャンプ場はよく整備されているので、車で行ってキャンプと滝見物を楽しむのがいいかもしれない。
寂地山 https://hread.home-tv.co.jp/post-201501/
②廿日市中央アルプス(最高地点は大野権現山=699.1メートル)
おむすび岩大峯山の回で「いつか紹介します」と宣言した手前、スルーはできないので挑戦した。普通なら大野権現山から尾根伝いに歩くのだが、この時は県天然記念物のベニマンサクの紅葉を見ようと「おおの自然観察の森」にいったん下山。再び縦走路に上り返したこともあってかなり体力を消耗した。おむすび岩の展望は最高なのだが、ここから烏帽子山、入野山、船倉山へと続く道は歩く人も少なく油断すると迷いそうになるポイントがいくつもある。登山アプリYAMAPのGPS地図は必携だ。加えてルートの大半は眺望のない林間の道。船倉山からの下山路は荒れて滑りやすく、神経をすり減らした。厳島の全島を望めるポイントや知られざる名瀑などの見どころもあったのだが、縦走路を歩いている時間の大半は「早くゴールに着かないかな」と考えていた。車があればおおの自然観察の森まで行って大野権現山とおむすび岩を巡るといいだろう。
廿日市中央アルプス https://hread.home-tv.co.jp/post-203534/
③厳島秘境編(前峠山=423メートル、岩船岳=466.3メートル、ニクイ=502メートル)
岩船岳厳島と言えば最高峰の霊山・弥山(みせん 535メートル)や厳島合戦の古戦場・駒ヶ林(509メートル)が有名だが、南西部は観光客もほとんど訪れない。弥山に登るには、公認3ルートと呼ばれる「大聖院コース」「紅葉谷コース」「大元コース」があるが、南西部の山々の登山道はあまり整備されておらず、歩く人も少ない。その分「秘境感」はたっぷりだ。もちろん観光ルートではないので、それなりの準備が必要だし、体力も要求される。大元公園から公認ルートを横目に「非公認」の前峠山へ。無名の山だが、なかなか上りごたえがある。本当につらかったのはこの後、先峠からの岩船岳への往復だ。片道4キロ、峠近くから望むと山頂はずいぶん遠くに見え、心が折れそうになる。歩き始めてみると結構なアップダウンがあり、どんどん体力を削られた。岩船岳山頂近くの岩場からの眺望は見ごたえがあり、昼食の場所としても絶好だったのだが、先は長い。先峠への復路、ニクイへの上りは苦行に耐える修行僧の気分だった。最後は「ここまで来たのだから」と弥山にも登頂して紅葉谷コースを下山したが、総歩行距離17.5キロ、9時間近い山行は厳しいものだった。
花を楽しんだ山
春から秋にかけての山歩きは、さまざまな山野草に出会えるのも楽しみのひとつだ。季節によっては、花目当てに訪れる登山者も少なくない。なかでも印象に残った3山を紹介する。
①十方山(じっぽうざん 1318.8メートル)
トラス橋が架かる遊歩道山頂の笹原と「十方が見える」といわれる眺望が有名な山だが、登った4月の下旬という季節もよかったせいか、たくさんの花々に出会えた。駄荷のバス停から登山口までの約40分のロード歩きは普通なら苦痛なだけだが、鮮やかな黄色のヤマブキ(山吹色の語源)やラショウモンカズラ、マムシグサのほか、名前のわからなかった花も含めてさまざまな花が道路沿いに咲いて目を楽しませてくれた。
ヤマブキ(県道296号沿い)登山道に入ってからはタチツボスミレやサクラスミレ、ニシキゴロモ、イワカガミ。ショウジョウバカマ、ムシカリ(オオカメノキ)などが次々と姿を現し、飽きることがない。登山口と山頂の標高差は約800メートルあり、県内でも有数の「登りがいのある」山だが、麓の瀬戸の滝も含めて楽しめた登山だった。
十方山 https://hread.home-tv.co.jp/post-160333/
②道後山(どうごやま 1271メートル、1等三角点は1268.4メートル)
道後山訪れたのは10月中旬。花の季節も終盤だったが、多くの花々に出会えた。アカモノやマユミ、アキノキリンソウ、ホソバノヤマハハコ、マツムシソウ、ウメバチソウが目を楽しませてくれた。「花の百名山」で知られる劇作家・田中澄江が新たに選定し直した「新・花の百名山」には道後山が紹介されている。山を代表する花としてアカモノのほか、アケボノソウがイラスト付きで挙げられていたが、残念ながら見つけることはできなかった。公共交通機関で来ることは不可能(最寄りのJR芸備線備後落合駅から13キロ、同線道後山駅からは16キロ)だが、車で月見ヶ丘駐車場まで行けば山頂との標高差は200メートルほど。2時間程度で楽に往復できるのでビギナーや家族連れのハイキングにも最適だ。
道後山 https://hread.home-tv.co.jp/post-205923/
アカモノ
③鎌倉寺山(かまくらじやま 613メートル)
鎌倉寺山全景自生するシャクナゲを見るために行った山。見頃と踏んだ5月22日は絶好の登山日和だった。花だけを目指すなら正面の登山道を上るのがセオリーだが、広島のロッククライミング発祥の地とされる岩稜の尾根道を体験してみたくて南登山口からのコースを選択した。難路ではあったが、慎重に行動すればそれほど危険はない。すばらしい眺望の「馬の背」などのビューポイントも楽しめる。槍ヶ峰と権兵衛山の間の稜線で、樹林の中にこの日初めてシャクナゲを見つけた時は、ピンク色の花と背景になっている木々の緑との対比の鮮やかさに感動した。鎌倉寺山頂付近はシャクナゲが群生していてまさに桃源郷。花見の登山者がたくさん訪れてにぎわっていた。機会があればまた来てみたいと思った。
鎌倉寺山 https://hread.home-tv.co.jp/post-163948/
満開のシャクナゲが山上を彩る
2022年もご愛読ありがとうございました。今年の最終回は1年を振り返る「総集編」でした。いかがだったでしょうか。12月に入ってからは週末天候に恵まれない週も多く、後半は寒波に見舞われたこともあって新規の更新がままならなかったことをおわびします。2023年がみなさまにとって良い年になりますように。
《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」