バスと電車と足で行くひろしま山日記 第45回 厳島秘境編(前峠山~岩船岳~ニクイ)(廿日市市)

「安芸の宮島」こと厳島は、世界遺産・厳島神社のある北部の海岸近くを除くと、南北9キロ、東西4キロのほぼ全島が山と森林に覆われた自然豊かな島だ。霊峰のたたずまいを見せる最高峰の弥山(529.7メートル)や、毛利軍と陶軍が激突した厳島合戦(1555年)の古戦場でもある駒ヶ林(509メートル)は山頂からの眺めもよく、行楽シーズンには多くの観光客やハイカーが訪れる。一方で、南西部の山岳地帯は人も少なく、観光地とは思えないハードな山歩きとなる。今回は前峠山(423メートル)、岩船岳(466.3メートル)、ニクイ(502メートル)などあまり知られていないピークを巡るロングコースをたどった。名付けて厳島秘境編。

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ
行き) JR山陽線(おとな片道330円)/横川(6:45)→宮島口(7:07)
松大連絡船(おとな片道180円)/宮島口(7:15)→宮島(7:25)
帰り) JR西日本宮島フェリー(おとな片道180円)宮島(16:25)→宮島口(16:35)
JR山陽線(おとな片道330円)/宮島口(16:43)→横川(17:05)

 


スタートは大元公園


秋の行楽シーズンも終盤。週末とあって多くの観光客が訪れる時期だが、早朝だけに桟橋から厳島神社へ通じる道も閑散としている。修復工事を終えて工事用足場が取り外された大鳥居が海上に浮かび、海面が青空を映して美しい。宮島水族館の前を通り、約20分で大元公園に着いた。海岸近くにありながらモミの原生林が茂る珍しい植生なのだそうだ。

厳島から上る朝日 厳島から上る朝日 海に浮かぶ厳島神社の大鳥居 海に浮かぶ厳島神社の大鳥居

園路を山手方向に歩いていくと、左手を指す「弥山登山道(大元コース)」の標識がある。ここは右に向かい、渓流の右側に取り付けられた前峠山の登山道に入る。このルートは標識もなく、YAMAPアプリの地図と木に巻かれた赤テープが頼りだ。踏み跡はおおむねはっきりしているが、シダに覆われて不明瞭になっているところもあり、確認しながら歩を進める。傾斜が次第にきつくなり、30分ほどで中腹の展望岩に到着。大野瀬戸や厳島神社を見下ろす眺めはすばらしい。さらに急登が続き、ロープが張られた岩場を上り終えるとほどなく前峠山の頂上に着いた。

大元公園の案内標識。左へ行くと駒ヶ林を経て弥山へ 大元公園の案内標識。左へ行くと駒ヶ林を経て弥山へ 頼りになる赤テープ 頼りになる赤テープ シダに埋もれた登山道 シダに埋もれた登山道 前峠山中腹の展望岩から見た大野瀬戸 前峠山中腹の展望岩から見た大野瀬戸 前峠山の頂上。展望はなし 前峠山の頂上。展望はなし

樹林に囲まれた山上は展望がきかないのですぐに下りにかかる。弥山から続く尾根を経て多々良林道出合いまで標高差約180メートルを下る。このあたりは周囲に人家も見えず、秘境感が強まる。多々良林道を横切ると再び上り。先峠までの標高差は110メートルだ。前峠山で足を使ったので結構しんどい。この調子で最後までもつのだろうかと少し不安になる。

秘境感漂う前峠山からの下山路 秘境感漂う前峠山からの下山路 多々良林道との出合 多々良林道との出合

 


先峠からの長い道の先に


先峠に着いたのは午前9時40分。登山開始から約1時間40分だ。ここから岩船岳までは尾根伝いに片道約4キロ、往復8キロもある長い道のりになる。高低差もかなりある。歩き始めて20分、前方に岩船岳が見えた。「うーん、遠い」。林間の道は退屈で、ちょっと気持ちが萎えそうになる。自らを励まして歩き続けた。大川越分岐にはこのあたりが呉軍港の要塞地帯だったことを示す旧海軍の石柱が残されていた。

岩船岳に向かう道 岩船岳に向かう道 岩船岳(左)。先は長い 岩船岳(左)。先は長い 大川越分岐にかけられていた手製の地図 大川越分岐にかけられていた手製の地図

岩船岳は頂上の前に2つの小ピークがあり、巨岩が積み重なっている。2つ目のピークの手前には、船の山名の由来になったともいわれる岩もあった。2つ目のピークの南側には展望のきく大岩があり、牡蠣いかだの浮かぶ大野瀬戸の後ろに経小屋山、遠く羅漢山まで見渡せた。

岩船岳の上りから後方を振り返る。右がニクイ 岩船岳の上りから後方を振り返る。右がニクイ 岩船岳の由来になったともいわれる奇岩 岩船岳の由来になったともいわれる奇岩 岩船山山頂手前のピークから見た経小屋山。左奥に羅漢山、右奥に吉和冠山 岩船山山頂手前のピークから見た経小屋山。左奥に羅漢山、右奥に吉和冠山

午前11時20分。岩船岳山頂に到着。三角点付近は樹林に囲まれて眺望はないが、南側の岩場に移動すると視界が開けた。安芸灘が広がり、阿多田島、大黒神島、小黒神島、能美島などの芸予諸島の島々が点在する。南側には米軍岩国基地と共用する岩国空港。雲が多く、景色がぼんやりしているのは残念だったが、長距離歩きの疲れを癒してくれるには十分だ。

岩に腰を下ろし、海と島のパノラマを楽しみながら昼食をとった。最近愛用しているのはファミリーマートの「SPAMむすび」。塩味の効いたランチョンミートが汗をかいた体にうれしい。30分ほどゆっくり休憩した。

岩船岳の山頂。展望なし 岩船岳の山頂。展望なし 岩船岳から阿多田島を見下ろす 岩船岳から阿多田島を見下ろす

 


第3の500メートル峰へ


この後はいったん先峠まで戻り、厳島では3つ目の500メートル峰であるニクイに登頂。奥の院、御山神社を経て、せっかくなので弥山に登って紅葉谷に下山し、紅葉を楽しんで帰ろうという算段だ。
岩船岳からの下りでは、踏み跡通りにたどると道を間違うポイントがある。上りの時にはわからないので注意が必要だ。YAMAPの地図には迷いやすいとして注意ポイントが表示されている。アプリが手元にない時は目印の赤テープを見落とさないようにしたい。
約1時間半で先峠まで戻る。ここからニクイ山頂までは標高差約150メートルだ。既に歩行距離は11キロを超えており、さすがに疲れがたまっている。大した坂ではないのだが、休み休みでないと登れない。約20分で何とか登頂した。
厳島では弥山、駒ヶ林に次ぐ第3の500メートル峰なのだが、ほとんど知られていない。「ニクイ」という変わった名前の由来もよくわからない。山頂はこれまた林の中で展望なしなので早々に下山にかかった。

ニクイ山頂。ここも展望なし ニクイ山頂。ここも展望なし

 


静寂の奥の院から賑わいの弥山へ


ニクイから急坂を下ること約10分で奥の院に。弘法大師が修行をしたとされる場所で、小さなお堂がある。堂内に上がらせてもらってお参りする。観光ルートから外れているのでとても静かだ。次は20分ほど歩いて御山神社へ。平清盛が厳島神社本社を造営したときに奥の宮として建てたといわれており、朱の社殿3社が並び、厳島神社と同じ市杵島姫・田心姫・湍津姫の三女神が祀られている。

ニクイから奥の院に下りる途中から見た弥山 ニクイから奥の院に下りる途中から見た弥山 静寂の奥の院 静寂の奥の院 社殿が「品」の形に並ぶ御山神社 社殿が「品」の形に並ぶ御山神社 御山神社下の岩壁から能美島、小黒神島方面を見る 御山神社下の岩壁から能美島、小黒神島方面を見る

本日最後のピーク、弥山へ向かう。大聖院ルートの登山道に合流すると、がぜん人が増える。スニーカーなどの軽装の人たちが多く、登山スタイルの当方は浮き気味だ。山頂までは約15分。やはりここからの眺めは別格だ。山上には欧米系の外国人観光客も多く、インバウンドの復活を実感した。
紅葉谷コースを約30分で下山すると、紅葉谷公園は紅葉を楽しむ人たちで大賑わい。雲っていたので少し鮮やかさに欠けたのは残念だったが、今シーズン、多分ラストとなる紅葉を楽しんでからフェリーで帰途についた。総歩行距離は17.5キロ。よく歩きました。

にぎわう弥山山頂 にぎわう弥山山頂 紅葉谷公園の紅葉 紅葉谷公園の紅葉

 

2022.11.19(土)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

ライター えむ
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
LINE はてブ Pocket