バスと電車と足で行くひろしま山日記 第38回河平連山(こうひられんざん)(大竹市、廿日市市)

大型で非常に強い台風14号が近付いていた。9月17日からせっかくの三連休だったが、18日、19日は台風の直撃が予想され、山どころではなさそうだ。もし行けるとしたら、17日の土曜日しかない。天候の不安定さを考えると遠出やロングトレイルは避けたいところだ。大竹市の北側、三倉岳行者山の間にあり、低山ながら見どころが多いと評判の河平連山(こうひられんざん)に行ってみることにした。

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ
行き)JR山陽線(おとな片道510円)/横川(8:35)→玖波(9:09) 大竹交通大竹・栗谷線バス(おとな片道280円)/玖波駅(9:10)→松ヶ原農協(9:21)
帰り)JR山陽線(おとな片道510円)/玖波(15:09)→横川(15:42)

 


秋を感じる花とキノコ


天気予報は終日曇り。家を出たときは小雨がぱらついていたが、青空も見えていたので決行することにした。JR玖波駅から大竹・栗谷線バスに乗り換える。三倉岳に登った時にも利用したコミュニティ路線だ。登山口は南の松ヶ原と東の大里ヶ峠の2カ所。今回は松ヶ原を選択することにし、10分余り乗車して松ヶ原農協バス停で下車した。集落は大竹市の飛び地になっているが、周囲は目指す河平連山も含めて廿日市市のエリアだ。

松ヶ原のハイキングコース案内看板 松ヶ原のハイキングコース案内看板

集落内の舗装路を歩き始めると、小雨がぽつぽつと。雨具を使うほどではないので、回復を信じて歩を進める。道端には鮮やかな赤い彼岸花(ひがんばな)が咲いていた。そういえば名前の元になった彼岸の中日まで1週間ほど。個人的には仏教で天界の花を意味する異名の「曼殊沙華」(まんじゅしゃげ)の方が趣味だ。
登山道に入ると、立派なキノコが出現。傘の中央が赤橙色、周囲が黄土色で、見るからに毒キノコっぽいと思ってスルーしたが、後で調べてみるとタマゴタケという優秀な食用キノコらしい。濃厚なうまみがあるらしいが、専門家のお墨付きがないと採取して食べる気にはちょっとなれない。紅葉はまだ先だが、季節は確実に進んでいる。

道端に咲いていた彼岸花 道端に咲いていた彼岸花 タマゴタケ。毒キノコかと思った タマゴタケ。毒キノコかと思った

巨岩と記念碑


河平連山はもともと松ケ原地区の無名の里山だったが、1993年に地元の人たちが協力して9つの峰をめぐるハイキングコースとして縦走路を整備したのだそうだ(2010年発行「新・分県登山ガイド33広島県の山」=山と渓谷社=による)。国土地理院のweb版地図にも山名や登山道は載っていないが、各峰には0号峰~9号峰の名前が付けられており、登山道や標識もしっかりと整備されていて迷うことはない。ハイカーや地元の小学生たちが作った俳句や川柳を記した銘板が沿道に掲げられていて楽しませてくれる。
登り始めから約20分、馬ヶ峠を過ぎると傾斜が急になる。「前方天狗岩」という看板のある支尾根に出ると、稜線近くに巨岩が見えた。馬ヶ峠から約20分で縦走路の鞍部に出た。道は左右に分かれており、まずは「0号・1号峰」のある左へ向かう。まもなく途中から見た天狗岩への分岐。標高差にして30メートルほど南斜面を下ると、斜面に高さ3、4メートルはあろうかという天狗岩が現れた。巨岩の上に巨人が置いたように巨岩が乗っている、前方には傘山(標高649.6メートル)越しに安芸灘が見える。休憩にもよいロケーションだが、まだ始まったばかり。先を急ごう。

馬ヶ峠。ここから急な登りになる 馬ヶ峠。ここから急な登りになる 左手上に天狗岩 左手上に天狗岩 鞍部に到達。左へ向かう 鞍部に到達。左へ向かう 天狗岩。不思議なバランスを保っている 天狗岩。不思議なバランスを保っている

縦走路に戻り、数分歩くと「浅田大尉記念碑」の案内標識。矢印に従って今度は北斜面を下ると、「浅田砲兵大尉殉職之碑」と刻まれた自然石の記念碑があった。大正12(1923)年7月、福岡県の大刀洗飛行場から広島に向かっていた複葉の偵察機が方向を誤って0号峰の岩壁に激突。殉職した飛行士を地元の村の人たちが悼むために建立したものだ。そういえば、以前登った佐伯区の窓ヶ山にも太平洋戦争中に乗機が衝突して亡くなったパイロットを祀った小さな祠があった。電子航法機器がなく、有視界飛行に頼っていた時代には悪天候で位置を見失う事故も少なくなかったのだろう。

飛行機事故で殉職した浅田砲兵大尉を悼む石碑 飛行機事故で殉職した浅田砲兵大尉を悼む石碑

山高きが故に…


再び縦走路に戻る。巨岩の脇にロープが張られた急斜面を登りきると、0号峰。案内板に「飛行機衝突岩」とある。ここが事故現場だ。さらに数分歩くと急に視界が開けた。連山西端の八畳岩だ。息をのむような景観だ。3つの岩峰が印象的な三倉岳や傘山は指呼の間、羅漢山吉和冠山など西中国山地の名山たち、厳島経小屋山、瀬戸内海までが見渡せる。いつの間にか雲は途切れ、青空も広がっている。テーブルのように平たくなっている岩は2つに分かれており、どちらでもゆっくり休むことができる。お弁当にも最適だが、時間はまだ11時。お昼に合わせるなら大里ヶ峠の東登山口から登った方がいいだろう。

0号峰への急な上り 0号峰への急な上り 0号峰。衝突事故の現場 0号峰。衝突事故の現場 八畳岩。前方は傘山 八畳岩。前方は傘山 岩峰が際立つ三倉岳。右後方は羅漢山 岩峰が際立つ三倉岳。右後方は羅漢山 吉和冠山と寂地山 吉和冠山と寂地山 経小屋山(右)。その向こうは厳島と大野瀬戸 経小屋山(右)。その向こうは厳島と大野瀬戸 八畳岩からのパノラマ写真 八畳岩からのパノラマ写真

八畳岩の上で寝そべっていると、「山高きが故に貴(たっと)からず」という言葉が脳裏に浮かんだ。「樹(き)あるを以(もっ)て貴しと為す」と続く。本来は、外見がよくても内容が伴わなければ立派とは言えない、という意味。教訓調なのは江戸時代の寺子屋などで教科書として使われた「実語教」に載っていたので仕方ないが、最近はNHKの「にっぽん百低山」でも前段部分が使われており、低山の魅力を語る言葉として流布している。ほぼ無名の、標高510メートルほどの里山でこれほど魅力的な展望地に出会えるとは、うれしいサプライズ。これだから山歩きはやめられない

 


クモの巣との闘い


秋口からの里山歩きで困るのはクモの巣だ。コガネグモやジョロウグモが登山道にも遠慮なく大きな巣を張っている。似島の時もそうだったが、油断して歩いていると、思い切り顔に巣が引っかかる。登山者の少ない山(今回は誰とも会わなかった)は要注意なのだ。とくに道幅が狭く、両側から木の枝が迫っているような場所が危ない。クモも生きるために一生懸命なのだろうが、申し訳ないと思いつつも登り始めからトレッキングポールを前方に振り回してクモの巣を破りながら歩いた(これはこれで結構疲れる)。知らない人が見たら「何やっているんだろう」と思うだろうなあ。

クモの巣を除けば縦走は快適。2号峰の手前には見どころ「宮島大鳥居展望の地」。修復工事中のため残念ながら赤い大鳥居の姿は望めなかったが、今年中には足場が撤去されるという情報もある。4号峰には水神釜と呼ばれる岩がある。昔は干ばつの際にこの岩のくぼみにたまった水を混ぜると雨が降ると信じられ、雨乞いの儀式が行われていたという。

2号峰の手前にある宮島大鳥居展望の地 2号峰の手前にある宮島大鳥居展望の地 4号峰と雨乞いの儀式をした水神釜 4号峰と雨乞いの儀式をした水神釜 縦走路から0号峰を振り返る 縦走路から0号峰を振り返る

5号峰(554.8メートル、河平山)は三等三角点のある連山の主峰。樹林に囲まれてそれほど眺望はないが、腰かけて休むにはぴったりの岩があるのでここで昼食にした。6号峰には「三県一望之地」の説明板。広島、山口と島根だろうか。7号峰、8号峰付近からは渡ノ瀬ダムのダム湖も見える。湖面は黄緑色に濁っていた。

連山主峰の5号峰(河平山) 連山主峰の5号峰(河平山) 三県一望(?)の6号峰 三県一望(?)の6号峰 渡ノ瀬ダムとダム湖 渡ノ瀬ダムとダム湖 8号峰。あとは下山 8号峰。あとは下山

後はひたすら下山。「樽川の三段滝」は水量こそ少なかったが、なかなか美しい姿だった。

樽川の三段滝。水量は少ないが優美な姿 樽川の三段滝。水量は少ないが優美な姿
雑木林を抜けて 雑木林を抜けて
大里ヶ峠の東登山口に下山 大里ヶ峠の東登山口に下山

バス便なく駅までロード歩き


13時20分、大里ヶ峠の東登山口に無事下山した。近くにバス停もあるのだが、JR玖波駅方面行きのバスは3時間20分以上も待たねばならない。玖波駅までは約6.8キロ、歩けば約1時間15分。選択肢はない。歩くことにした。
松ヶ原の集落からは、頭(こうべ)を垂れ始めた稲穂が実る田んぼの向こうに河平連山が広がるのどかな風景も望むことができた。日差しが戻り、気温が上がる中での長いロード歩きは少し辛かったが、基本下り基調だったのと、道路脇のクリの木から落ちてきた立派な栗の実を拾えた楽しみもあって何とか歩き通した。総歩行距離は12キロだった。

松ヶ原地区から見た河平連山 松ヶ原地区から見た河平連山 帰りの道路に落ちていた立派な栗 帰りの道路に落ちていた立派な栗

 

2022.9.17(土)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

ライター えむ
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
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