バスと電車と足で行くひろしま山日記 第7回 吉和冠山(廿日市市)

迫力のクルソン仏岩

 

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ

行き)
①JR山陽線(おとな片道240円)/横川(7:04)→宮内串戸(7:20)
②広電バス佐伯線(おとな片道400円)/宮内串戸駅(7:32)→さいき文化センター(8:05)
③吉和さくらバス(おとな片道150円=全線均一料金)/さいき文化センター(8:20)→冠高原入口(8:45)

 

帰り)
①吉和さくらバス/潮原温泉(15:31)→さいき文化センター(16:02)
②広電バス佐伯線/さいき文化センター(16:32)→宮内串戸駅(17:07)
③JR山陽線/宮内串戸(17:26)→横川(17:43)
*バスの到着が遅れて17:10の乗り継ぎには間に合わず
*吉和さくらバスは11月15日以降新ダイヤになり、発着時間が変更になる。

 


太田川の「最初の一滴」を求めて


太田川は西中国山地に源を発し、柴木川や滝山川など多くの支流を合わせながら100キロ余りを流れ下って広島湾に注いでいる。広島市の三角州を生み、水を供給し、かつては物流の役割も果たした「母なる川」だ。

その源があるのが県内第二の高峰、吉和冠山(1339メートル)だ。今回は、登山とともに太田川の源流の「最初の一滴」を訪ねてみたい。

 

冠高原の入り口。名残の紅葉が広がる 冠高原の入り口。名残の紅葉が広がる

 


スタートは冠高原


広電バスで行けるのは津田まで。そこから先は廿日市市のコミュニティバス「吉和さくらバス」を利用する。冠高原入口で下車し、登山口の松の木峠まで歩道を歩く。

11月に入って紅葉は終わり気味だが、道路沿いにはまだまだ鮮やかな木々が残り、途中、クリも落ちていた。スキー場のあった冠高原には広い駐車スペースがあり、マイカー登山の人たちの車が数台止められていた。

歩道にクリが落ちていた 歩道にクリが落ちていた

 

松の木峠は標高776メートル。山口県との県境で、数十メートル先は岩国市だ。山口県最高峰・寂地山(標高1337メートル)に向かう分岐までの標高差は約500メートル。序盤はアップダウンもあるが、ほぼひたすら登り。森の中の登山道は枯れ葉が積もり、ふかふかで歩きやすいが、結構息が上がる。右側に広葉樹、左側は針葉樹の森が続く。

松の木峠の登山道入り口 松の木峠の登山道入り口

 

一面に落ち葉が積もった道を行く 一面に落ち葉が積もった道を行く

 

広葉樹の森は日差しが差し込んで明るい。時折はらはらと枯れ葉が落ちるさまは、夭折の日本画家・菱田春草(1874~1911)の名作「落葉」の世界を思わせる。一方の針葉樹の森は暗い。登山道が針葉樹の森を通っているところでは、道を見失いそうになる錯覚を覚えた。

明るい広葉樹の森 明るい広葉樹の森

 

山頂に雨量計ドームがある羅漢山(1109メートル)が見えた 山頂に雨量計ドームがある羅漢山(1109メートル)が見えた

 


源流との出会い


約1時間40分で寂地山分岐に到達。冠山に向けて10分ほど歩くとクマザサに覆われたブナ林の平地に出た。ここが太田川源流の森だ。標識に従って少し南に歩くと金属製の「太田川源流の碑」が現れた。背後のプレートに源流地点の標高は1223メートルとある。

太田川源流の碑 太田川源流の碑

ここには水の流れも何もないが、この下の「フカ谷」と呼ばれる谷に「最初の一滴」が流れているはずだ。
川の源流を目指すのであれば、下流から沢登りをしていくのが常道なのかもしれないが、沢を遡行する技術も装備もないので上から攻めてみようという考えだ。
源流碑から笹の藪をかきわけて進み、少し下ると沢の地形が現れた。明らかに水が流れていた形跡はあるのだが、雨の少ない季節のせいか、カラカラだ。
ひたすら沢沿いに下る。水たまりはあっても流れはない。ネットで見た過去の源流探訪記事では、標高1185メートル付近で水流を見つけたとあったが、耳を澄ましても水音は皆無だ。

水のない沢を下る

水のない沢を下る

約20分、標高1150メートルくらいまで下ったところでようやく見つけた。
岩の間からわずかに水が染み出し、枯れ葉を伝って一滴ずつ滴り落ちている。その下方にはわずかな水流も見て取れた。この水滴が広島を潤す太田川になるのだと思うと感慨深い。

(動画) ついに見つけた太田川の「最初の一滴」

 


懸崖上の展望台


登山道に戻って山頂を目指す。傾斜もそれほどきつくなく、20分ほどで山頂に立てた。眺望はいま一つなので先に進む。吉和冠山を特徴づける切れ落ちた崖の真上がちょっとした広場になっているのだ。青空でないのは残念だが、遮るもののない見事な眺めが広がる。正面に十方山(1328メートル)、その左に県内最高峰の恐羅漢山(1346メートル)。両山の間には先日登った臥龍山(1223メートル)も見える。約30分、ゆっくり食事休憩をとった。

吉和冠山頂上 吉和冠山頂上

 

懸崖上の展望台からの眺め 懸崖上からの眺め

 

下山は汐谷コースへ。途中の分岐からクルソン仏岩に向かう。10数メートルはあろうかという堂々たる岩だ。

仏教では、釈迦如来が世に現われるまでに出た過去の仏を「過去七仏」といい、四番目に現れたのが拘留孫仏(くるそんぶつ)とされている。なぜ四番目の仏の名が冠せられたのかはわからないが、近くの蝋燭(ろうそく)岩に登って吉和冠山とクルソン仏岩を合わせて写真に収めるのはお約束だ。曇り空だったのと、紅葉がほぼ終わっていたので寒々とした絵になってしまったのは残念だった。

迫力のクルソン仏岩 迫力のクルソン仏岩

 

蝋燭岩から見た吉和冠山とクルソン仏岩 蝋燭岩から見た吉和冠山とクルソン仏岩

 


下山後はラドン温泉


バス停のある国道186号の手前に立つのが「潮原温泉 松かわ」。バスの時間まで50分ほどしかないのでゆっくりはできないが、汗を流していかない手はない。日帰り入浴料はおとな700円。同館HPによると、ラドン濃度は療養泉の基準(8.25マッヘ)の14倍以上だという。浴場は5階で、眺めのいい露天風呂やラドン温泉に効果的だという蒸し風呂もある。清掃も行き届いていて気持ちいい。じっくり入浴していきたかったが、バスに乗り遅れると2時間半待たなければならないのでさっさと上がって帰途についた。

ラドン温泉の展望風呂がある「潮原温泉松かわ」 ラドン温泉の展望風呂がある「潮原温泉松かわ」

 

登山の足になってくれた吉和さくらバス 登山の足になってくれた吉和さくらバス

《メモ》
国土地理院の地図には「冠山」と表記されているが、県内にはほかにも冠山があるので以前から呼びならわされている吉和冠山を使った。

2021.11.6(土)取材 ≪掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください≫

ライター えむ
還暦。50代後半になってから本格的に山登りを始めて4年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
LINE はてブ Pocket