ALS患者が、分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」で叶える夢

難病や重い障害などで外出が難しい人たちが操作する分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」。6月21日、そんな分身ロボットが接客するカフェが東京・日本橋にオープンしました。

 

OriHimeを開発したオリィ研究所 吉藤オリィ所長
「分身ロボットカフェのメンバーたちは全国各地から参加し、東京で働くというふうなことができるわけなんですけれども、移動できない、体が動かなくなったとしても、その後もう一度働きたくなる場所であったりとかそういった選択肢を持つことができる」

分身ロボット・OriHime(オリヒメ) 分身ロボット・OriHime(オリヒメ)

広島県三次市で暮らす長岡貴宣さん(58)も視線で入力できるパソコンを使い、デビューに向けて準備を進めています。
長岡さんが闘うALS=筋萎縮性側索硬化症は、体の筋肉が徐々に動かなくなる難病です。
根本的な治療法はまだありません。

去年11月、誤嚥防止のため声帯を閉じる手術を受け、声を出せなくなりました。

『喋れなくなった人でも接客できるように…』

声を出すことのできないメンバーは長岡さんが初めてです。

長岡貴宣さん(58) 長岡貴宣さん(58)

長岡さんは2020年3月まで高校教師でした。
尾道市の県立御調高校で教頭を務めていた2016年にALSと診断され、人工呼吸器なしでは余命2年から5年と告げられたといいます。

長岡貴宣教頭(当時)
「死ぬっていうマイナスの方のことじゃなくて、生きることっていうのをこれからも考えていきたいなと思います」

 

休職せざるをえなくなり、閉ざしかけた心を開くきっかけになったのが、生徒の協力により実現した分身ロボット「オリヒメ」での卒業式出席でした。
カメラ・マイク・スピーカーが搭載されたオリヒメを使えば、インターネットを通して、離れていても「あたかもそこにいるように」会話などの意思疎通ができます。

長岡貴宣教頭(当時)
「まあ一人で勝手に下向いているわけにはいかんなっていう、そこからですよね」

 

2019年8月、人工呼吸器を付けるため気管切開の手術を受けましたが、声を出すための特殊なバルブを付けて講演活動を続けました。

長岡貴宣教頭(当時)
「福祉の「祉」という字はこれも(「福」と同じく)幸せ、幸福という意味。ということは福祉っていうのはみんなの幸せを考えること」

 

長岡さんが伝え続けるのには理由があります。
自宅で暮らそうとするALS患者の前に立ちはだかる「ヘルパー不足」。特に地方で深刻な課題になっているからです。

長岡貴宣教頭(当時)
「呼吸器をつけるとその後は常にたんを取ってもらうというのが始まるので、ほんとにずっと見ていてもらわなきゃいけないので、そういういわゆるヘルパーさんが必要になってくるんですけれども、なかなかこれが全国の課題で」

 

広島県三次市での人工呼吸器をつけた患者の在宅支援は長岡さんが初めてでしたが、対応できるヘルパーが三次にいなかったため、広島や福山からの派遣に頼らざるをえませんでした。

長岡貴宣教頭(当時)
「(広島県北では)大体が病院に入るか、施設に入るか、それか7割はこの病気の人たちは呼吸器をつけない選択をします」

 

希望する人すべてが自宅で療養できるようにするには、病気について知ってもらい、ヘルパーになりたいという人を増やす必要があるのです。
その後、市外からの派遣に頼っていたヘルパーに、准看護師の資格を持つ三次市の女性が加わってくれました。

 

三次市在住のヘルパー荒瀬淳子さん
「誰に対しても『どうしてだと思う?』新人のヘルパーが来たときでも『何の意味でやってるの?』って必ず。ちゃんと考えてからせえよというのを教えてくれてるんだと思うんですよ。それは大事だと思って。教員は抜けませんよね、先生」

 

新型コロナの影響で講演会が開けない今、長岡さんは、オンラインでのシンポジウムなどに参加するようになりました。
話すことは前もって視線入力ができるパソコンに打ち込んでいます。用意する原稿は3~4パターン。その場の状況や雰囲気に合わせて選択し再生します。

長岡貴宣さん
「それは病気になる前の授業の準備と同じ。僕らはいつも生徒たちの反応を考えて(準備した)」

長岡貴宣さん 長岡貴宣さん(58)

さらに長岡さんにはこれから参加する分身ロボットカフェで取り組みたいことがあります。
全国の特別支援学校の生徒に職業体験をしてもらうというものです。

長岡さん自身も、久しぶりの採用通知を分身ロボットカフェから受け取り、とてもうれしかったといいます。

 

長岡貴宣さん
「(特別支援学校には)初めから働くことを諦めている子たちもいると思うので、彼らにぜひ採用通知を送ってあげたい」

 

長岡さんは、教師としての熱い情熱を胸に、きょうもパソコンをみつめています。

 

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