バスと電車と足で行くひろしま山日記 第70回 氷雪の吉和冠山(広島県廿日市市)

前回初めての雪山となる「雪の深入山」(https://hread.home-tv.co.jp/post-343549/)に挑戦した。小さなトラブルもあったが、ワカンを装着して雪上を歩くスノーハイクは楽しかった。冬山シーズンもあと少し。せっかく雪山を経験したので、もう1カ所くらい雪を楽しんでみたい。天気も何とか持ちそうだ。そこで、電車とバスを乗り継いで登山口まで行くことができる広島県第2の高峰・吉和冠山(1338.9メートル)にトライしてみることにした。

 

山頂の懸崖の上から十方山、恐羅漢山方面を望む

 

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ

行き)JR山陽線(おとな片道240円)/横川(7:04)→宮内串戸(7:20)
広電バス佐伯線(おとな片道400円)/宮内串戸駅(7:32)→さいき文化センター(8:05)
吉和さくらバス(おとな片道150円=全線均一料金)/さいき文化センター(8:25)→潮原温泉(8:57)
帰り)吉和さくらバス/潮原温泉(15:48)→さいき文化センター(16:20)
広電バス佐伯線/さいき文化センター(16:32)→宮内串戸駅(17:07)
JR山陽線/宮内串戸(17:26)→横川(17:43)

 

 


コンパクトな軽アイゼンを持参


深入山登山から1週間。雨が降ったり冷え込んだりしたので、いったん融けた雪が再び固まって凍り付いているところも多いと予想。ワカンに加え、5年前に購入して一度も使ったことがなかった軽アイゼンを持っていくことにした。

この軽アイゼンはモンベル製のスノースパイク。登山靴の土踏まず部分に装着するコンパクト仕様ながら、縦横にグリップが効く8本の爪を備えている。コンディションによってワカンと使い分けようという算段だ。

バス便は西中国山地方面へ行くときにはいつも利用しているのだが、概ね空いている。ところが、この日はJR宮内串戸駅前のバス停には乗車待ちの行列ができていた。広電バスの車内も座れない人が出るほど。コンパクトな吉和さくらバスは大混雑だ。家族連れの会話を聞いていると、どうやら目的地は、めがひらスキー場のようだ。

潮原温泉で下車した時にはまだ青空も見えていたが、次第に雲が厚くなってきた。夕方から天気が崩れる予報だが、汐谷ルートを往復する最短コースなので下山するまでは何とか持つだろう。歩き始めはアスファルト道路の路肩に雪が残る程度だったが、事業所を過ぎて林道に入ると路面にザラメ状の雪が目立つ。ワカンを履くほどの積雪ではないので、軽アイゼンを装着して歩き始めた。

 

バスを降りて登山口に向かう。まだ青空が広がっていた

 

汐谷登山口に通じる林道は雪と氷に覆われていた。軽アイゼンを装着

 

軽アイゼンは土踏まずの部分に装着する

 


汐谷沿いの道は氷結


第7回で吉和冠山に登った時(https://hread.home-tv.co.jp/post-112701/)は冠高原・松の木峠から入山したので、汐谷ルートを上るのは初めてだ。

橋を渡って汐谷に入ると、川沿いの登山道は雪と氷に覆われていた。氷結した部分は、いかにも滑りそうだが、軽アイゼンの爪はがっちりグリップしてくれる。ただ、爪のない靴底の前の方で蹴ろうとすると、つるっと滑る。しばらく歩くうちにコツがつかめてきた。快調にペースを上げる。岩場の下では、情報から落下してきたと思われる大きな氷柱が路面に残っていた。もし直接当たったら大変だ。

 

汐谷登山口にかかる橋

 

登山道は凍り付いていた。スリップ注意

 

氷柱の下がる岩壁

 

汐谷の登山道に落下していた氷塊

 

約40分で渓流沿いの道を抜け、木段を上がって工事中の林道を横切ると本格的な山道になる。ここからは雪が増え、道がはっきりしなくなる。スマホを何度も取り出して登山道から外れていないか確認しながら進んだ。

 

工事中の林道を横切り本格的な山道へ

 


急斜面を上りクルソン仏岩へ


20分ほど歩くとクルソン仏岩への分岐にたどり着いた。特徴的な吉和冠山の山容を撮影できるポイントは、登山ルートの中ではクルソン仏岩あたりしかない。天気がもっているうちに撮影しようと、先に向かうことにした。

木に巻いた赤テープに「クルソン岩→」と書いてあるのは親切だ。ここから岩のある尾根までは急登の連続。スリップに気を付けながら急斜面を上ること約20分、前方の尾根上に巨大な岩が見えてきた。クルソン仏岩だ。高さは16メートルもある。漢字では拘留尊と表記する。釈迦とそれ以前に出現した六仏を過去七仏といい、拘留尊仏は四番目に現れた仏のことだ。

 

クルソン仏岩への案内

 

クルソン仏岩の根元を左に迂回し、ロープを頼りに岩をよじ登ると眼前にクルソン仏岩、右手奥に吉和冠山が見える。右側が切れ落ちた烏帽子のような特徴的な山容は、太古の火山噴火で噴出した安山岩質溶岩で形成されたものだ。山腹は雪に覆われて迫力がある。ここの標高は約1130メートル。360度の眺望が開けており、見ごたえがある。パノラマ写真などを押えてゆっくりしていると20分近く過ぎてしまった。先を急ごう。

 

クルソン仏岩と吉和冠山

 

雪をまとった吉和冠山。右側が切れ落ちた特異な山容はよく目立つ

 

吉和の集落を見下ろす

 

羅漢山が見えた

 

今回の雪氷対策装備。軽アイゼンの効果は絶大

 

下から見上げたクルソン仏岩

 


雪の斜面を往く


クルソン仏岩を後に尾根を進む。雪も少なく歩きやすい。小ピークを越えて標高差にして30メートルほど下るとメインの登山道と合流、山頂へ向かう。登山ルートのある東斜面はたっぷり雪がついている。先行登山者の歩いた跡をトレースしていくのだが、だんだんと不明瞭になっていく。先週の深入山(https://hread.home-tv.co.jp/post-343549/)の時と同じように地図上の登山道からは外れてしまう。というより、広い斜面では夏の登山道はあまりあてにならないのだが、ここまで来たら迷うことはない。ひたすら上るのみ。雪面は固く締まっているとはいえ、時に50センチ以上も足が沈み込む。格闘すること約1時間、山頂に到達した。

 

クルソン仏岩から続く尾根は雪も少なく歩きやすい

 

疎林の中の急斜面を上る

 


霧氷に彩られた山頂


頂上の標識周辺には先客が3人。すでに昼食を終えたようで、下山の準備をしておられた。懸崖の上まで行くと、周囲の樹木には霧氷がついていて美しい。正面には十方山(第28回、https://hread.home-tv.co.jp/post-160333/)や市間山・立岩山(第62回、https://hread.home-tv.co.jp/post-321138/)が鎮座している。風がほとんどないのはありがたい。

 

冠山に登頂。先客は3人

 

懸崖上から北東方向を望む

 

霧氷に彩られた樹木

 

十方山(正面左)。右手に市間山・立岩山

 

山頂標識まで戻り、昼食にする。今回は温かいカップ麺を食べようとガスバーナーを持参した。いつもはカップヌードルだが、カップスター味噌にしてみた。雪の季節に山上でいただく温麺は格別だ。保温水筒で持参した紅茶もおいしい。約1時間、ゆっくり休憩した。

 

山上で食べる温かいカップ麺はごちそう

 


天気の崩れ早まる


そうこうしているうちに小雪が舞ってきた。時刻は13時。予報より天気の崩れは早くなりそうだ。荷物をまとめて下山にかかる。下山は登山道に関係なく森林帯の入り口に向けてほぼ一直線に下る。雪面を思い通りに歩くのは楽しい。約1時間で登山口の橋まで下りてくると、雨が降ってきた。路面の雪氷が消えたところで軽アイゼンを外す。結局ワカンはザックに縛り付けたまま使うことはなかった。

 

雪原を思い通りに下る

 

氷結した登山道も軽アイゼンのおかげで安全に下ることができた

 

下山開始から約1時間で登山口の橋に帰着

 

帰りのバスの時間まで1時間以上あるので、バス停にほど近い潮原温泉松かわ(https://ushiobara.co.jp/)へ。適度に加温されたラジウム温泉で、展望露天ぶろや蒸し風呂も完備されている。外はすっかり雨模様。冷えた体を温めて帰途についた。

 

《メモ》国土地理院の地図には「冠山」と表記されているが、県内にはほかにも冠山が複数あるため以前から呼びならわされている吉和冠山を使った。

2024.2.3(土)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

ライター えむ
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
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