バスと電車と足で行くひろしま山日記 第69回 雪の深入山(しんにゅうざん 広島県安芸太田町)
以前から一度は雪山に登ってみたいと思っていた。とはいえ、本格的な指導を受けたわけではないし、アイゼンやピッケルが必要な山となると敷居が高い。スノーハイクプラスアルファくらいの感覚で行ける安全な雪山といえば、深入山(1152.5メートル)だ。なだらかな山容、登山口との標高差も350メートルほどで、春から秋にかけての登山シーズンなら、気軽に1000メートル峰の山頂に立てる山として家族連れや初心者に人気がある。前回深入山に登ったのは、春真っ盛りの2022年4月3日だった。(https://hread.home-tv.co.jp/post-150617/)寒波に見舞われたばかりの「雪の深入山」はどんな顔を見せてくれるのだろうか。
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▼今回利用した交通機関 石見交通新広益線(おとな片道1790円)
行き)広島バスセンター(10:00)→(11:26)いこいの村入口
帰り)いこいの村入口(15:39)→(17:03)広島バスセンター
*石見交通ホームページ・時刻表(http://iwamigroup.jp/publics/index/6/)
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ワカンとスノーバスケットを購入
深入山はかつてスキー場があった場所だけに、深雪も覚悟しなくてはならない。それなりの雪対策装備は必要だ。足が雪に沈みこまないようにする用具の選択肢としてはワカンとスノーシューだ。ワカンは日本古来の雪上歩行具「輪かんじき」の略称で、現在はアルミ製が一般的だ。スノーシューは西洋かんじきとも呼ばれ、フレームが大きくワカンよりも雪上の浮力が高い。ワカンは浮力こそスノーシューにかなわないものの、軽くて持ち運びしやすく樹林帯の中での取り回しがよい。値段もスノーシューの半分から3分の1程度だ。使用頻度も考えてワカン(16500円)を選択。併せてトレッキングポールの沈み込みを防ぐ歯車状の部品スノーバスケットも購入した。
当日の広島は曇り。中国山地の天気予報も思わしくない。バスに乗って30分ほどすると雨模様になり、安芸太田町に入ると雪。戸河内インタチェンジを下りると湿った重そうな雪が降りしきる。心配したが、いこいの村入口のバス停に着く頃には雪も上がった。
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バス停からスタートの東登山口までは舗装路を7~8分ほど歩く。元ゲレンデだった雪原は、雪遊びの家族連れで賑わっていた。
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ワカンを登山靴に装着していると、子どもが近寄ってきて「これ、なあに?」と質問。「雪の上で足が沈まないようにする道具だよ」と答えたら「ふーん」と興味津々の様子だった。
10分ほどで準備を終えて登山を開始した。
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踏み跡をたどるも…
当たり前のことだが、無雪期と違って登山道はわかりにくい。登山アプリ・YAMAPの地図でルートを確認するのだが、やはり先行登山者の踏み跡(トレース)が参考になる。スノーシューの跡があったので、これをたどっていく。足跡は一度踏み固められているので、ワカンで歩くのも楽だ。
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しばらく上っていると、どうも登山道からずれているような気がしてきた。そういえば、2年前に来た時は東登山口へ下山したのだが、樹林の中を通った記憶がある。いまは雪原の真っただ中だ。よく見ると、スノーシューの足跡が途中で消え、スキーの跡に変わっている。そうなのだ、足跡は登山者のものではなく、バックカントリースキーやスノーボードを楽しむ人たちが付けたものだったのだ。後でわかったことだが、山頂から滑降するスキーヤーたちもいるそうだ。
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すでに登山道と谷一つ離れてしまっていたのでそのまま上る。途中から踏み跡も消え、新雪部分ではワカンを履いていても50センチくらい沈み込む場所もある。「雪山は全身運動ですからね」と言っていた好日山荘のスタッフの言葉を思い出す。振り返ると自分が雪面につけてきた踏み跡(というか苦闘の跡)がくっきり。息も絶え絶えに雪と格闘し、上り始めから約30分で何とか本来の登山道に合流することができた。
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吹雪の山頂へ
標高は約1000メートル。急に天候が悪化してきた。雪が強まり、真っ白な山体と空の境界もはっきりしなくなってきた。少し進むと、南登山口から上ってきたと思われるスノーボードを担いだグループとすれ違った。視界は悪いが、山頂へはまっすぐ上るだけだ。山肌が雪に覆われていて直登できるので意外に早い。10分ほどで登頂した。
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山頂の天候は吹雪といっていいほど。好天なら360度のパノラマが楽しめるのだが何も見えない。昼食の時間だが、ここで食べるのはとても無理だ。西側に50メートル下ったあたりに東屋があったのを思い出し、そちらに向かう。
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東屋には先客が3人。吹きさらしの構造なので床に雪が積もっていたが、屋根がある分だけましだ。雪山ではおにぎりは凍って食べにくいことがあると聞いていたので、サンドイッチと菓子パンをもってきた。保温水筒に入れた紅茶で体を温めた。
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下山は快適なスノーハイク
さて下山だ。西ルートは傾斜が緩やかで歩きやすい。東屋を出てしばらくは着雪した低木に覆われた道を進む。ひたすら深雪と格闘した上りと違い、幻想的な風景を楽しめる。油断すると枝に頭をぶつけて雪のシャワーをかぶることになる(実際かぶった)。
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標高1050メートル付近からは周囲は高木になる。路面の雪は程よい厚みで、ワカンで踏むと「キュッ、キュッ」と気持ちよい音を立てる。快適なスノーハイクだ。西登山口への分岐となる標高960メートルあたりに来ると林が途切れて視界が開ける。このあたりが一番強く雪が降っていた。(動画もご覧ください)
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東屋を出てから約1時間、南登山口まで達すると天候も回復してきた。ずっとガスの中だった深入山の全容を眺めることができた。
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ここで14時40分。帰りのバスの時間まで1時間を切っている。前回は下山後に「いこいの村ひろしま」の人工温泉に入って汗を流すことができたが、今回は断念。「いこいの村」の屋根の下でワカンやトレッキングポールをまとめてザックにくくりつけてバス停へ向かう。帰りのバスを待っている間にようやく天候が回復し、青空も見えてきた。初めての雪山、楽しい経験でした。
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2024.1.28(日)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」