バスと電車と足で行くひろしま山日記 第98回【遠征編】近江富士(三上山)=滋賀県野洲市)
御上神社の鳥居と近江富士こと三上山
東海道新幹線で東京に向かうと、京都を過ぎ、琵琶湖の東岸を北上して野洲川を越えたあたりで、右手に端正な姿の山が見えてくる。その美しい山容から「近江富士」とも呼ばれる三上山(432メートル)だ。以前から新幹線に乗るたびにいつかは登ってみたいと思っていた。天候に恵まれたゴールデンウイーク、こどもの日の5日、念願の近江富士登山に挑戦した。
▼今回利用した交通機関
御上神社駐車場まで往復マイカーを利用
御上神社でお守りをいただき出発
三上山は古代から山そのものを神として崇める御上神社の神体山として敬われてきた。やはり御神体とされている奈良の三輪山(467メートル)と同様に、山頂付近には神様が降臨したとされる磐座(いわくら)がある。御上神社の社伝では、第七代孝霊天皇の時代に天之御影神(あめのみかげのかみ)が三上山に降臨。当初は山上に神社があったが、奈良時代初期の718年に藤原不比等が勅命を得て西側の麓の現在地に社殿を造営して遷座したという。
国道8号から見た近江富士こと三上山
御上神社の駐車場に車を置き、神社の授与所へ。ご神体に登らせていただくので500円の入山初穂料を納め、境内で伐採されたヒノキで作られたお守り「三上山登拝 道中安全」をいただく。ポシェットに結んで出発だ。
御上神社の楼門(国指定重要文化財)。本殿は国宝に指定されている
国宝の御上神社本殿
御上神社でいただいたお守り
表道の急登から妙見堂跡へ
国道8号を渡り、住宅街を10分ほど歩く。登山道は表道(表登山道)と裏道(裏登山道)があるが、せっかくなので表道から登ることにしよう。イノシシの侵入を防ぐゲートを開けて登山道に入る。
表道(表登山道)の入り口
山容の美しさは登山道の険しさにつながる。地形図の等高線をほぼ直角に横切る形で上るため、最初はきつい上りだ。息を切らしながら標高差50メートルを一気に登ると、石灯篭の立つ平地に出た。建物の基壇の跡もある。標高は約180メートル、地形図では寺院の記号が載っている。調べてみると、ここにはかつて妙見堂と呼ばれる寺院があったのだそうだ。
最初からきつい上り
表道の案内板
妙見堂は、江戸時代に一帯を治めていた三上藩第4代藩主の遠藤胤冨(たねとみ)が1807(文化4)年に「妙見宮」として建立した。本尊は北極星を神格化した妙見菩薩立像。明治時代に名称を「妙見堂」に改め、多くの参詣者を集めたという。1995年に山の中腹から麓へ移転したが、後継者がなかったことなどから2024年3月、閉眼供養が行われて廃寺となった。昨年、地元の野洲市歴史民俗博物館で妙見堂の関係史料を集めた郷土史展「三上山の妙見さん」が開かれ、高さ6.5センチの小さな本尊・妙見菩薩立像などが展示された。
これまでの山行で、山頂や山中にあった寺院の跡をいくつも見てきた。厳島の弥山など少数の例外を除けば、車道のない場所に立つ寺院を維持するのは容易なことではない。200年余りの歴史を閉じた妙見堂の来し方に思いをはせた。
廃寺となった妙見堂の跡地
岩の割れ目を抜ける
妙見堂跡を過ぎると、道は再び傾斜がきつくなる。標高290メートル付近まで来ると、割岩との分岐に。左の道を行けば通常の登山道だが、せっかくなので割岩を目指す。このあたりから岩稜地帯となる。岩の間をよじ登ると、割岩の前に出た。高さ3、4メートルはあろうかという2つの巨岩の間に人ひとりがやっと通れるくらいの隙間が空いている。ここを通り抜けるのだ。
さすがにザックを背負ったままでは無理なので、ザックを下ろして手にもって割れ目に入り込む。横向きになって背中をこすりつけながら進む。体型的に少々心配したが、なんとか通り抜けることができた。
割岩に向かう
この隙間を通り抜ける
急登の岩稜から展望ポイント、頂上へ
割岩を越えると登山道に合流、岩稜の急登が続く。滑りそうな場所にはしっかりした手すりが設けられていて心強い。振り返ると眺望が開け、青空の下に野洲の町並み、琵琶湖。その向こうには比叡山と比良山系の山々が連なっている。疲れも吹き飛ぶ絶景だ。
岩稜には手すりが取り付けられていた
標高350メートル付近からの眺望。琵琶湖の向こうのひときわ高い峰が比叡山
ここまで来たら残りはわずか。岩場を慎重によじ登り、展望台になっている大岩(ここで昼食をとっている人もたくさんいた)の上を通り、約20分で山頂に着いた。山頂の磐座の上には御上神社の奥宮が祀られている。無事登頂できたことを感謝して手を合わせた。
奥宮の少し上に広場がある。眺望はないが、ここで昼食をとることにした。
頂上直下の急登
展望台からの眺め。昼食をとる人たちがたくさんいた
山頂に立つ御上神社の奥宮
裏道から従峰を周回して下山
下山は裏道を通ることにした。南面を下る道はかなりの急傾斜だ。スリップに注意しながら30分ほどかけて下ると女山につながる鞍部に着いた。
女山の山頂。眺望はなし
新幹線から見ると独立峰に見える三上山だが、麓から見上げると主峰の男山と従峰の女山(めやま 270メートル)の二峰が連なっている。せっかくなので登っていこう。鞍部から緩やかな道を歩くこと5分ほどで女山の頂上に。周囲は樹林に囲まれて展望はきかないので写真だけ押さえて引き返す。20分ほど下ると裏道の防獣ゲートに出た。「猪被害で大変困っています」の看板。きっちり閉めて後にした。山道歩きはトータル2時間ほど、駐車場からの往復距離は計2.8キロ、天気もよく快適なトレッキングだった。
裏道の防獣ゲート
近江富士こと三上山(左)と従峰の女山
2026.5.5(火)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」