バスと電車と足で行くひろしま山日記 第68回 厳島・宮島三山周回(ニクイ~駒ヶ林~弥山)(廿日市市)

日本三景「安芸の宮島」こと厳島の山といえば、霊峰・弥山(みせん 535メートル)が最も有名だ。この島には標高500メートルを超える山がほかに二峰ある。駒ヶ林(509メートル)とニクイ(502メートル)だ。2024年最初の広島の山行は、宮島三山とも呼ばれる三峰と奥の院を周回するひと味違った世界遺産の島登山に向かった。

 

駒ヶ林山頂から見た弥山

 

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ
行き) JR山陽線(おとな片道330円)/横川(07:04)→宮島口(07:26)
JR西日本宮島フェリー(おとな片道300円)/宮島口(07:40)→宮島(07:50)
*フェリー料金は宮島訪問税100円を含む
帰り) JR西日本宮島フェリー(おとな片道200円)宮島(15:45)→宮島口(15:55)
JR山陽線(おとな片道330円)/宮島口(16:04)→西広島(16:23)

 

 


厳島神社から大元公園を経て登山開始


例年は元日の夜明け前から弥山に登り、山頂でご来光を拝んできた。その模様は本コラムでも「第14回厳島・弥山」(https://hread.home-tv.co.jp/post-126750/)と「第48回厳島・弥山2023」(https://hread.home-tv.co.jp/post-232058/)でも紹介した。今年は年末年始に広島を離れたため、少し遅めの登拝となった。

 

JRフェリーで厳島へ渡る。宮島訪問税100円が運賃に加算される

 

船上から厳島を見る。左が弥山、中央が駒ヶ林。ニクイはこちらからは見えない

 

海上に浮かぶ大鳥居

 

まずは厳島神社に参拝

 

厳島神社の参拝を終え、大元公園へ向かう。弥山には3つの公認登山ルートがある。大聖院コース、紅葉谷コース、そして大元コースだ。宮島観光協会のホームページには「宮島の山は急峻で迷い込むと危険な山でもあります。安全な3コ-スをご利用下さい」と書かれている。今回はニクイ→奥の院→駒ヶ林→弥山という一般向けでないバリエーションルートなので大元コースの案内標識(☜)を見送り、大元川左岸の標識のない山道に入る。第45回厳島秘境編(https://hread.home-tv.co.jp/post-220869/)でも通ったルートだ。その時は前峠山(423メートル)にも登ったが、今回はパス。まっすぐ前峠を目指す。

 

大元コースとの分岐。右の山道へ入る

 

公認ルートではないが、踏み跡はしっかりしている。登山靴など一通りの装備をしていれば危険はないが、スニーカーやジーンズなどの軽装はNGだ。

約40分で前峠に到着。標高は330メートルほどだ。ここから三剣山(490メートル)経由で駒ヶ林に行くルートもあるが、急斜面の荒れ道で一般向きではない。最初の目的地はニクイなのでそのまま峠を下る。

 

前峠

 

前峠から多々良林道への下りはシダに覆われた道

 


最初の500メートル峰から奥の院へ


シダに覆われた道を標高差にして100メートルほど下り、多々良林道を横切って再び先峠への上りにかかる。先峠までは約120メートルの標高差だが、斜面を直登するのでそこそそこきつい。先峠まで20分、さらに尾根伝いに約150メートルを上って約25分で最初の500メートル級ピーク、ニクイ山頂に着いた。この変わった山名の由来は前にも調べてみたがよくわからない。どなたかご存じの読者がいらっしゃれば教えてください。

 

ここが先峠

 

最初の500メートル峰・ニクイの山頂。眺望はなし

 

ニクイへの登山道にはドングリがたくさん落ちていた

 

頂上は樹林に囲まれてまったく眺望がないので写真だけ撮って先を急ぐ。下山中にこの後向かう弥山を望めるポイントがあった。

少し滑りやすい急坂を下ること約20分で開けた盆地のような場所に出た。いくつかのお堂がある。ここが麓にある真言宗御室派の大本山大聖院の奥の院だ。周囲をニクイ、駒ヶ林、弥山に囲まれ、静謐な雰囲気だ。登山靴を脱ぎ、弘法大師の像が祀られているお堂に上がらせていただいて参拝した。

 

奥の院への下りの途中、弥山が見えた

 

奥の院。堂内には弘法大師の像が祀られていた

 


巨大な岩の駒ヶ林山頂


奥の院から仁王門のある鞍部まで約100メートルを上り返す。ここからは整備された道になる。上りは段差の大きい石段で、歩きやすいとはいえない。途中、青と緑の上着を着せてもらった石仏に出会った。優しい表情に心が温かくなった。

 

仁王門へ向かう途中に鎮座していた石仏。心温まるお顔だった

 

鞍部まで15分。休むことなく駒ヶ林に向かう。山頂まではさらに10分ほどだ。ここは戦国時代に毛利元就が中国地方の覇者に駆け上がるきっかけになった厳島の戦いの舞台の一つだ。1555年、主君大内義隆を殺して大内家の実権を握った陶晴賢(すえ・はるかた)は2万の大軍で厳島の毛利方の宮尾城を攻めた。標高わずか27メートルの要害山上の小城はよく持ちこたえ、元就の軍勢は夜半に風雨をついて包ヶ浦に上陸。陶軍を背後から奇襲して大勝した。敗勢の中、陶方の武将弘中隆包(ひろなか・たかかね)は駒ヶ林に立てこもって勇戦したが、兵糧攻めに遭って敗死。陶も追い詰められて島内で自刃した。

駒ヶ林の山頂は幅10メートル、長さ35メートルもある巨大な花崗岩の岩床になっている。岩の上に立つと弥山が指呼の間。展望台に上っている人たちの姿も確認できる。南側に目を転じれば、先ほど登頂したニクイ、その向こうに岩船岳(466.3メートル)が連なっている。北側は樹林に遮られているが、北端まで行くと眼下に大野瀬戸や対岸の廿日市の街並みが広がる。視線を上げれば大野権現山(699.1メートル)をはじめとする「第40回廿日市中央アルプス」(https://hread.home-tv.co.jp/post-203534/)で紹介した山々や経小屋山(https://hread.home-tv.co.jp/post-104908/)を見渡せる。この日は視程があまりよくなかったが、条件が良ければ吉和冠山(https://hread.home-tv.co.jp/post-112701/)など西中国山地の山々も見ることができる。

 

駒ヶ林の山頂直下に立つ説明板

 

巨大な花崗岩が露出した駒ヶ林の山頂

 

時刻は11時30分。少し早いが、岩の上に腰を下ろし、弥山や瀬戸内海を眺めながら昼食にした。ランチの場所としては弥山の頂上よりも条件が良いと思う。多くの登山者がここで食事を楽しんでいた。

 

眼前に立つ弥山。山上の展望台に立つ人たちの姿も見えた

 

ニクイ(左)と岩船岳

 

駒ヶ林山頂から北西を望む

 


弥山から博奕尾の戦跡へ


食事を終えて最後の500メートル峰、弥山に向かう仁王門を抜け100メートルほど上ると、外国人観光客の女性が登山道沿いの岩の上で写真を撮っていた。頼まれてシャッターを押してあげる(iPhoneなのでこの表現が適切かどうか)。「美しい景色ですね」(英語)とうれしそうに話していたので、駒ヶ林の景色のすばらしさも紹介しておいた(通じたかな?)。

弥山登頂は12時40分。登山者だけでなく、ロープウェーを利用したと思われる軽装の人たちも多い。何度来てもこの眺めは格別だ。踏破してきたニクイ、駒ヶ林も一望だ。

 

弥山に通じる仁王門

 

にぎわう弥山の山頂

 

ひとしきり眺望を楽しんでから頂上を後にし、50メートル下の三鬼堂へ。堂内に上がり、年始のご祈祷をしていただいた。

下山は大聖院コースや紅葉谷コースが一般的だが、せっかくなので厳島合戦の戦跡を通るマイナールートを選んだ。消えずの火がともる霊火堂前の広場から宮島ロープウェーの獅子岩駅に向かう。駅舎の横から山道に入り、獅子岩線に沿って歩く。少し荒れ気味の道だが、右手に行き来するゴンドラと広島湾の多島海景観を見ながらの下山は楽しい。

 

消えずの火がともる霊火堂

 

宮島ロープウェーと広島湾の多島海。ゴンドラは観光客で満員

 

榧谷(かやたに)駅のホームの下をくぐって尾根に上がり、後はひたすら下る。途中、いかにも直進できそうな分岐があるが、だまされてはいけない。シダの迷宮に入り込んで道を見失う(経験あり)ので、赤と黄色のテープを頼りに左へ降りる。包ヶ浦への分岐を過ぎてしばらくすると博奕尾(ばくちお)の説明板が立っていた。

 

迷いやすい分岐。左へ降りるのが正解

 

毛利元就は包ヶ浦に上陸した後、この尾根まで上ってきた。地名が博奕尾だと聞くと「博奕も打つもの、この戦はもはや打ち勝った」と将兵を励ましたという。毛利軍はこの尾根から駆け下りて陶軍の背後を襲った。説明板の手前に陶軍が布陣した塔ノ岡を見下ろせる場所があり、元就の戦術の確かさを実感した。

 

博奕尾の手前から塔ノ岡と市街地を見下ろす

 

博奕尾の故事の説明板

 

公認ルートを下山すれば1時間ほどの行程だが、距離の長いマイナールートということもあって1時間40分ほどかかって宮島桟橋にたどり着いた。総歩行距離は12キロ、アップダウンが多かったので累積標高差は1068メートル。結構足に来ました。

 

2024.1.6(土)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

ライター えむ
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
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