バスと電車と足で行くひろしま山日記 第48回 厳島・弥山2023(廿日市市)

弥山の山頂から見た初日の出 弥山の山頂から見た初日の出

元日に厳島・弥山(標高535メートル)の山頂で初日の出を迎えるようになってどれくらいになるだろう。もともと実家が商家で商売繁盛の霊験あらたかとされる弥山の三鬼大権現を信仰していたこともあり、元日に弥山にお参りするのは幼いころからの慣例だった。一時途絶えた時期もあったが、ここ20数年ほどは年末に帰郷できなかったり、コロナ禍で交通機関の終夜運転がなかったりした年を除いて、弥山登山と三鬼堂、厳島神社への初詣を続けている。日の出まで山上で寒さに震えながら待つのが常なのだが、今年は思いのほか暖かな初登山となった。

▼今回利用した交通機関 *時刻は年末年始ダイヤ、フェリーの到着時刻はおおよそです。

行き)    JR山陽線(おとな片道330円)/臨時列車「宮島号」西広島(4:08)→宮島口(4:27) JR西日本宮島フェリー(おとな片道180円)/宮島口(4:40)→宮島(4:50)

帰り)    松大汽船(おとな片道180円)宮島(10:30)→宮島口(10:40) JR山陽線(おとな片道330円)/宮島口(10:47)→西広島(11:06)

 


臨時列車は1本増発


厳島へは終夜運転されるJR山陽線の臨時電車とフェリーを乗り継いで行く。昨年は午前1時台から同3時台まで3本だったが、今年は1本増発されて4本になっていた。新型コロナの感染者数は高止まりしているが、初詣客は昨年より増えると見込んでのことだろう。廿日市市の日の出時刻は午前7時16分。太陽は東にある能美島の向こうから昇ってくるので少し遅れるとしても、山頂までの標準コースタイム(登山口から1時間40分、桟橋から約2時間)を逆算すると午前4時27分に宮島口に着く電車一択だ。車内は混んでいて、かつての日常が戻りつつあることを実感する。

増発された午前4時台の臨時列車に乗る 増発された午前4時台の臨時列車に乗る フェリーも終夜運航 フェリーも終夜運航

厳島の桟橋からは海沿いの厳島神社の参道を歩く。神社の手前では、修復されたばかりの鮮やかな朱色の大鳥居が海中に立っている姿を間近に見ることができた。昨年は工事用の足場に覆われて見ることはできなかったが、やはり美しさと迫力は格別だ。

時間の関係で参拝は下山後にすることとし、登山口に向かった。

夜明け前の海上に浮かび上がる大鳥居 夜明け前の海上に浮かび上がる大鳥居

大聖院コースで山頂へ


弥山に登るには3つの公認ルートがあるが、例年通り一番整備されていて利用者の多い大聖院コースをたどる。LEDのヘッドライトはとても軽くて明るい。夜間の登山では必須装備だが、通常の登山でもアクシデントで下山が遅くなった時には本当に頼りになる。コンパクトでザックに常時入れていてもじゃまにはならないので、安全のためぜひ携行することをお勧めする。

大聖院コース入口の鳥居 大聖院コース入口の鳥居

大聖院に向かう石段左の登山口をスタートしたのが午前5時10分。上り始めると体も目覚めてきてピッチが上がる。クリスマスの頃に降った雪はすっかり融けていて、歩きやすい。あちこち凍り付いていた昨年の弥山登山とはえらい違いだ。途中のチェックポイントまでの所要時間は、休憩所のある里見茶屋跡(標高170メートル)までは15分、大元コースと合流する仁王門(標高430メートル)まで45分。山頂には午前6時13分に着いた。所要時間は1時間3分。標準コースタイムが1時間40分なので結構なハイペースだった。

里見茶屋跡から見た大野瀬戸と大鳥居 里見茶屋跡から見た大野瀬戸と大鳥居 標高430メートル付近に立つ仁王門 標高430メートル付近に立つ仁王門

 


弥山の『かぎろひ』


万葉集に収められた柿本人麻呂の有名な歌がある。

東(ひむがし)の 野に炎(かぎろひ)の 立つ見えて

かへり見すれば 月傾(かたぶ)きぬ

飛鳥時代、現在の奈良県宇陀市の阿騎野で詠まれた。炎(かぎろひ)は通常、春の陽炎のことをいうが、この歌では冬の明け方に差す曙光(しょこう)のことを指している。朝日が昇る直前、東の山の背後の空が赤く染まるさまを「かぎろひ」と表現したのだという。

弥山で初日の出を待っていると、東の能美島から太陽が顔を出す直前に美しい曙光に出会うことが多い。時代も場所も情景もまったく異なるので「かぎろひ」といっていいのかどうか自信はないが、夜明け前の東の空をいつもこの歌を思い出す。曙光には「ものごとの前途に見え始めた明るいきざし」の意味もある。年の初めに必ず弥山登山を目指したくなるのはそのためかもしれない。

登頂から日の出までは約1時間。今年は例年になく冷え込みも穏やかで、紺色だった空に鮮やかな赤味が差していく見事な「かぎろひ」と初日の出をゆっくりと楽しむことができた。(動画もご覧ください)

弥山の山頂広場。空はまだ暗い 弥山の山頂広場。空はまだ暗い 午前6時26分、明るさを帯びてきた東の空 午前6時26分、明るさを帯びてきた東の空 東の空に現れた曙光。「弥山のかぎろひ」と名付けたい 東の空に現れた曙光。「弥山のかぎろひ」と名付けたい 2023年の初日の出 2023年の初日の出 山上で初日の出を見る人たち 山上で初日の出を見る人たち

 


厳島神社の大行列


混みあう山頂を後にして三鬼堂にお参り。ご祈祷の後はお坊さんの法話を聞くのが慣例だが、「私の話を聞くよりも、このすばらしいお日様の光を浴びてください」とひと言。安芸灘を見下ろせる縁側に出て陽光を浴びていると、新しい年に向かうエネルギーをいただけたような気がした。

三鬼堂の縁側から安芸灘を望む。陽光が暖か 三鬼堂の縁側から安芸灘を望む。陽光が暖か

下山は紅葉谷コースへ。昨年は路面が凍り付いてロープウエーの獅子岩駅に向かう人たちで渋滞していたのでやむなく往路と同じ大聖院コースを引き返したが、今年は問題なし。スムーズに下山できた。

下山後は厳島神社へ。ところが入口に着いてびっくり。入場待ちの長い列が延びているのだ。その長さは約200メートル。石の大鳥居を越え、商店街の入り口近くまで達していた。どれだけ待たされるのかとびびったが、毎年の慣例をここまで来てあきらめるわけにはいかない。覚悟して並んだが、意外に進行はスムーズで、20分ほどで昇殿し、無事参拝を終えることができた。

元日の青空に映える厳島神社の社殿と大鳥居 元日の青空に映える厳島神社の社殿と大鳥居

2023.1.1(日)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

    ♢

少し遅くなりましたが、みなさまあけましておめでとうございます。2023年も「電車とバスで行くひろしま山日記」をよろしくお願いします。今回は二度目の厳島・弥山初日の出登山でした。回を重ねて公共交通機関で行くことができる未紹介の県内の山も少なくなっています。今年は車を利用したり、県外に遠征したりするケースも増えてくるかもしれませんが、引き続きご愛読ください。

ライター えむ
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
LINE はてブ Pocket