バスと電車と足で行くひろしま山日記 第40回廿日市中央アルプス(廿日市市)
連載第21回広島南アルプス㊤と第22回広島南アルプス㊦でも紹介した「ご当地アルプス」。いくつものピークを結ぶ長い縦走路をもつ地元の山々をアルプスになぞらえて名前を付けている。歩き通すのはなかなかにしんどいが、達成感も大きい。今回は廿日市市の内陸部から海岸部まで連なる「廿日市中央アルプス」だ。広島南アルプスほどポピュラーではないが、大野権現山(699.1メートル)を皮切りに、ひと足早い紅葉や奇岩をめぐり、厳島を一望できる絶景を楽しんで知られざる滝見物で締めくくる盛りだくさんのコースだ。
▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ
行き)①JR山陽線(おとな片道240円) 横川(7:04)→宮内串戸(7:20)
②広電バス佐伯線(おとな片道400円) 宮内串戸駅(7:32)→佐伯工業団地入口(7:53)
帰り)①おおのハートバス(おとな150円) 更地(15:23)→JR阿品駅(15:39)
②JR山陽線(おとな片道330円) 阿品(15:49)→横川(16:09)
マイナーコースで主峰を目指す
ルートの主峰となる大野権現山の正式な名前は権現山。県内にはいくつもの「権現山」があるので(第37回阿武山・権現山参照)、旧町名を冠して大野権現山と呼ばれている。メインの登山ルートは自然公園「おおの自然観察の森」から登るのだが、マイカーがないとおおのハートバスの西教寺停留所から6キロ近いロード(しかも標高差400メートル以上の上り!)を歩くしかない。前回の第39回寂地山でたっぷりロード歩きを「堪能」したので今回はパス。登山アプリYAMAPで調べると、北側からだとバス停から1.5キロほど舗装路を歩けば登山道に取り付けることがわかった。アプリの地図では細い線で描かれているマイナーコースだが、長いロード歩きよりはよっぽどましだ。
JR宮内串戸駅前から西中国山地の登山でいつもお世話になっている広電バスに乗る。気候もよくなってきたせいか、車内はシニア登山者(筆者もその一人)でほぼ満席だ。佐伯工業団入口バス停で下車。ここで下車した登山者はほかになし。北側から見る大野権現山は、ピラミダルな山容が印象的だ。工業団地と住宅団地の中を30分ほど歩くと登山口。標識はないのでYAMAPの地図が頼りだ。
三角形の山容を見せる大野権現山三角形の山は…
登り始めは緩やかな道が続く。前日の雨で路面がところどころ小川のようになっているが、問題はない。途中の倒木に立派ななめこのようなきのこが生えていたが、食用か有毒かの鑑別はできないのでもちろんパス。
なめこのようなきのこ15分ほどで鞍部に着くと、道は左に。ここからいきなり急登が始まる。樹林帯の斜面をまっすぐ上る、いわゆる直登だ。そう、三角形のきれいな山の上りはきついのだ。こんな時は何も考えずにひたすら歩を進めるに限る。マイナールートとはいえ踏み跡はしっかりついており、要所には赤テープもあって迷うことはない。スタートは寒いくらいだったが、一気に汗が噴き出す。途中、大峯山(1050メートル)や吉和冠山(1339メートル)などの著名な山たちを望める岩場で休憩を取り、約1時間で大野権現山に登頂した。山頂の小さな広場には標識と崩れかけた祠(ほこら)。東の岩場に移動すると眺望が開け、西中国山地や廿日市市・広島市西部の市街地の眺めを楽しめた。
大野権現山へ登る途中にある岩場からの展望。大峯山や吉和冠山が見える 大野権現山の山頂 山頂の岩場。岩の上からの展望は良好
ベニマンサクに会いに行く
縦走ルートならこのまま尾根伝いに歩くのだが、最も早い紅葉を見せるベニマンサクが色づいているという情報があったので、いったんベニマンサク湖畔のおおの自然観察の森に下りる。標高差は250メートル、自然公園エリアなので大野権現山への上りに比べるとよく整備されていて歩きやすく、40分ほどで到着。湖畔をさらに10分ほど歩くとベニマンサク広場だ。
ベニマンサク湖へ下る分岐 ベニマンサク湖 ベニマンサク広場の案内看板 赤く色づいたベニマンサクの葉。ハート形をしているベニマンサクはハート形の葉をつけるマンサク科の落葉低木。ほかの広葉樹がまだ緑の時期に深紅色の紅葉を見せてくれる。ここは全国的に見ても希少な自生地として知られており、県の天然記念物にも指定されている。市内にある宮浜温泉の日帰り温泉施設の名前(「べにまんさくの湯」)にもなっているので、一度紅葉している姿を見てみたいと思ったのだ。
広場の周囲や横を流れる小川に沿ってベニマンサクが生育している。まだ紅葉は一部だが、紅色の葉が緑を背景に鮮やかに浮かび上がる。木によってはえび茶色に近い濃い色のものもあった。
濃い色に紅葉した葉も
おむすび岩からがまんの縦走へ
道を引き返して稜線への登りに向かう。標高差200メートルの登り返しだ。ミズゴケの繁茂する湿地帯を抜け、40分ほど歩くと名物のおむすび岩に出た。その名の通り、三角形のおむすびそっくりの岩が、大きな岩の上に微妙なバランスで乗っかっている。厳島や周防大島、三倉岳などが見渡せる抜群のロケーションだ。時刻は11時20分、少し早いがお昼にしよう。せっかくなのでリアルおむすびとのツーショット写真を撮影した。
おむすび岩に到着 おむすび岩と厳島、大野瀬戸 リアルおむすびとのツーショット 尾根から見た大野権現山。後方は羅漢山ここから先は公園エリアの外になる。歩く人が少ないせいか、道も細く、荒れ気味だ。アップダウンも結構厳しい。烏帽子山(えぼしやま 631メートル)からルートを離れて少し下り、烏帽子岩を見物に行く。名前の通り、古代以来の男性のかぶりものである烏帽子を連想させる姿だ。
烏帽子岩ルートに戻り、歩く。正直、つまらない道が続く。早く下山したいという思いに駆られるが先は長く、ペースも上がらない。がまんの縦走が続く。時折、眺望が開けるポイントがあるのが救いだ。入野山(596メートル)を経て今回最後のピークとなる船倉山(545.6メートル)に着いたのが13時50分。スタートから約6時間が経過していた。
入野山頂上 船倉山に向かう途中の尾根から廿日市市、広島市方面を望む 船倉山頂上厳島を一望、知られざる名瀑へ
廿日市中央アルプスを全うするなら南隣の高見山(559メートル)のピークハントもするべきなのだが、今回はあまり知られていない滝を訪れたいと思い、下山にかかる。花崗岩質の山道は滑りやすく、慎重に下る。標高410メートル付近の岩場では、厳島の全容が一望できる。目を凝らすと、覆いの一部が外された厳島神社の大鳥居も望むことができた。
厳島の全景 厳島神社と大鳥居つづら折りの道を下りきると分岐があり、右に曲がって川沿いを数分遡ると立派な滝に行き当たった。白糸の滝だ。段差は40メートルほどあるだろうか。小さな川(中山川)だけに普段は水も少ないのだろうが、前日の雨のおかげか水量は豊富で、方向を変えながら何段にも分かれて流れ落ちる様子は見ごたえがある。白糸の滝といえば、対岸の厳島や呉市が有名だが、この滝は知らなかった。個人的に「知られざる名瀑」に認定したい。(動画もご覧ください)
白糸の滝 白糸の滝上部滝見物の後はひたすら下山。海の見える杜美術館の脇を抜け、広島岩国道路、山陽新幹線の高架をくぐっておおのハートバスのバス停に着くと間髪を入れず15時23分発のバスが到着。これを逃すと1時間近く待たなければならないし、長距離(14.6キロ)を歩いてきたので宮島口まで歩くのもしんどいところだったので助かった。
下山後に船倉山を振り返る
2022.10.8(土)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》
《メモ》「廿日市中央アルプス」には、大野権現山を登った後、おおの自然観察の森から帆柱山(530メートル)、中津岡山(530.3メートル)、ロックガーデン、奥滝山(550メートル)をめぐるルートもある。こちらは公園の駐車場がスタート・ゴールになるのでマイカーがないと厳しい。
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」