バスと電車と足で行くひろしま山日記 第73回白鳥山・松子山(東広島市)

地元以外ではあまり知られていない里山にもなかなかすばらしい山がある。第71回「幸福」の山(https://hread.home-tv.co.jp/post-349773/)の取材のためJR山陽線で福山に向かっていた時、西条駅を過ぎたあたりで車窓から南側を見ていたら、穏やかな山容の連山が目に入った。登山アプリ「YAMAP」の地図によると、白鳥山(しらとりやま 450メートル)と松小山(まつこやま 524.4メートル)を結ぶ縦走路があるようだ。さらに調べてみると、最初のピークになる白鳥山の山頂には、古事記・日本書紀に登場する英雄・日本武尊(やまとたけるのみこと、古事記では「倭建命」と表記)を祀った白鳥神社もあるという。興味を引かれて記紀伝説の山に向かった。

 

白鳥山山頂に立つ白鳥神社。古事記、日本書紀に登場する英雄・日本武尊が祀られている

 

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ
行き)JR山陽線(おとな片道680円)/横川(8:41)→(9:28)西高屋
帰り)JR山陽線(おとな片道590円)/西条(15:36)→(16:17)新白島

 

 


丁石が導く参道を往く


西条側からも登れるが、ここは白鳥神社の地元でもある西高屋側から入山することにした。JR西高屋駅で下車。駅舎は南北自由通路を備えた橋上駅舎の完成に向けて工事中だ。

駅を出て県道59号を東に300メートルほど歩いて踏切を渡り、白鳥山へ向かう。高屋中学校の横を通って住宅街を抜けると、道路端に「白鳥社丁石(十五丁)」の説明板と自然石で作られた標柱が立っていた。江戸時代に設置されたもので、神社までの距離十五丁を示しているという。1丁は約109メートルだから15丁だと約1.6キロになる。この丁石は、元々北側の丘陵地に立っていたが、太平洋戦争中に開発のため移されたのだそうだ。この先に日本武尊伝説の「羽休の松跡」があったのだが、気付かなかった。

 

白鳥神社への距離を示す丁石と説明板

 

道端に白梅が咲いていた

 

集落の里道を通り抜けていくのだが、YAMAPのルートが少し不正確で困った。散歩をしていた地元の人に教えてもらい、「白鳥神社参道」の看板を見つけて進む。道路脇に「白鳥社八丁(約870メートル)」の丁石。正面に見える電波塔の立つ山が白鳥山だ。牛舎の脇を通り、山陽自動車道の上にかかる橋を渡ると登山口。駅からここまで2.2キロの道のりだ。

 

白鳥山(左のピーク)。その右隣りがルート最高峰の松子山

 

白鳥神社への参道

 

白鳥神社まで八丁(約870メートル)の丁石。電波塔の立つ鋭鋒が白鳥山

 

牛舎を出た和牛が休んでいた

 

山陽道にかかる陸橋を渡って登山口へ

 


山上の古社と古墳跡へ


ここからは参道とはいえ山道になる。上り始めから5分で「白鳥社へ五丁(545メートル)」の丁石。その先に天狗の横顔が刻まれた「天狗岩」があった。「四丁」の丁石の西側の谷には2018年の西日本豪雨災害で発生した土石流の跡があり、砂防堰堤が築かれていた。

 

白鳥神社まで五丁(約550メートル)。参道は山道に

 

天狗の横顔が刻まれた天狗岩

 

2018年の西日本豪雨水害で発生した土石流の跡。参道のすぐ西側だった

 

土石流跡に建設された砂防堰堤

 

標高約400メートルの鞍部まで上ると石鳥居が立っていた。さらに進み、「一丁」の丁石からは最後の急登。小雪が降ってきた。祠のある岩屋を見送り、歩を進める。登山口から約30分、白鳥神社に着いた。

 

標高400メートル付近に立つ石鳥居

 

残りは一丁(109メートル)。最後の急登を上る

 

平坦な白鳥山山頂に立つ白鳥神社

 

拝殿に掲げられた立派な注連縄

 

山上は広い境内地になっており、拝殿、本殿のほか、神楽殿もある。南側から上ってくる車道沿いには、明治時代に社殿が再建されてから90周年を記念して1999年に建立された大鳥居や石灯籠が立ち並んでおり、地元の人たちの篤い信仰ぶりが伺える。

 

日本武尊を祀る本殿

 

伝承によると、死後白鳥となった日本武尊が麓にあった松(「羽休の松跡」)で羽根を休めていたところ、白犬が吠えたので驚いて現在の白鳥山に向けて飛び去った。さらに雉(きじ)が鳴いて驚かした。以来、白鳥山の山上に日本武尊を祀り、地元の郷村(東広島市高屋町郷地区)では白犬を飼わず、白鳥山には雉がいなくなったのだという。

「廣島縣神社誌」によると、日本武尊の父である12代景行天皇の在位中に全国に白鳥神社を立てさせ、このうち安芸国に建てられたのが白鳥神社とされている。

ただ、山上には元々古墳(白鳥古墳)があり、神社はその上に立てられていた。明治時代の社殿修築時に銅鏡(三角縁神獣鏡、神獣鏡)や鉄剣(素環頭太刀)、碧玉勾玉が出土しており、東広島市立中央図書館に展示されている。出土品からして相当な権力をもつ豪族の古墳だったことが想像されるが、遺構は完全に失われており、説明板の記述で往時を想像するしかない。

 

神社の由緒を記した石碑

 

白鳥古墳から出土した銅鏡=東広島市立中央図書館に展示

 

素環頭太刀。白鳥古墳から出土した=東広島市立中央図書館に展示

 

南側の車道に立つ大鳥居と石灯籠群

 


わずかな眺望の最高地点


白鳥神社を後に、車道を歩くこと数分、縦走路の入り口が見えてきた。説明板には「白鳥山系縦断道出入口」と重厚な名前が付けられている。ここの標高は450メートル。これから向かうルート最高地点の松子山との標高差は70メートルほどしかない。道も良く踏まれていて歩きやすい。少しわかりにくい分岐もあるが、赤テープをたどれば問題ない。「出入口」から15分ほどで松小山の頂上に着いた。

 

縦走路の入り口立つ説明板

 

松小山の頂上

 

残念ながら樹林に囲まれて眺望はほとんど楽しめない。南側が少し開けていて野呂山方面を望めるが、眺望といえるほどではない。ちなみに山名の読み方は「まつこやま」としたが、地元出身の知人に聞くと「まつごやま」と呼んでいたそうだ。かつてはマツタケが豊富に取れたそうだが、いまは見る影もないという。今回は下山後に昼食を取るつもりだったので、早々に山頂を後にした。

 

南側の一部だけ眺望があった

 


超快適な「縦断道」


ここから先は小ピークの上りを除いて基本下りなのだが、これまでに行った県内の山の中でも1,2を争うほど快適な歩きやすい道だ。登山口まで直線で約2.5キロだが、標高差は250メートルほどしかない。一部ロープの張られた急斜面もあるが、よく整備された緩やかな道が続く。登山道というよりも遊歩道と言った方がぴったりくる。下山が楽しいと思える山はそうそうあるものではない。地図に「展望岩」とある岩場でまったく展望がなかったのは御愛嬌だ。

 

縦走路は県内の山ではトップクラスの歩きやすさ

 

地図には「展望岩」とあるが…展望はない

 

これだけ歩きやすい道が維持されているのは、日頃から整備をしてくださるボランティアの方がいるに違いない。そう思って歩いていると、長い棒の先に小さな三角形の金具を取り付けた道具を持った人とすれ違った。どう見ても登山を楽しみに来ている風情ではない。さらに進むと、道の中央付近から脇に排水用と思われる溝が掘られているところがいくつもあった。掘られた跡はまだ新しい。登山道が雨の流路になってしまうとあっという間に路面が削られて荒れてしまう。こうした排水路があれば、斜面に水が排出されるので傷まない。多分さっきすれちがった男性の仕事だろう。感謝。

 

雨水を排出できるよう溝が切られていた。ボランティアのお仕事

 

東西条小学校横に下りてくると、登山者の杖となる竹や棒が置かれていた。トレッキングポールを持たない登山者への配慮だろう。温かい気持ちになって登山を終えた。

 

東西条小学校裏の登山口には杖が備えられていた。親切

 

無事下山。紅梅が咲いていた

 


下山後のおたのしみは


下山するとちょうどお昼時。洋食店「くろんぼ屋」(東広島市西条本町)に行ってみることにした。以前ひろしまリードでも紹介されていた(https://hread.home-tv.co.jp/post-200759/)、西条の有名店だ。20分ほど歩いて酒蔵通りを抜けて店に着くと3人ほど並んでいたが、10分も待たずに入店できた。名物のビーフカツを注文。量が多いと聞いていたのでハーフ(1000円)にした。通常のビーフカツと違って薄切り肉に衣をまとわせて少しカレー風味が入った特製ソースがたっぷりかかっている。山歩きの後おいしくいただいた。

 

昼食は西条の有名店「くろんぼ屋」で

 

名物のビーフカツ。この量でハーフ

 

〈おまけ〉

白鳥古墳の出土物は東広島市立中央図書館に展示されているというので見学に行った。図書館の西側には三ツ城(みつじょう)古墳群があり、その出土物や模型も展示されていた。古墳群は公園として整備されており、最大の1号古墳は鍵穴型の前方後円墳で、全長約92メートル、前方部先端の幅約66メートルもある広島県内最大級の古墳だ。5世紀前半に築造された、安芸国の大豪族の墓だったと考えられている。後円部の上部からは埋葬施設を見ることができる。

 

三ツ城古墳1号墳の後円部

 

広島県内最大級の三ツ城古墳1号墳の説明板

 

2024.3.9(土)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

ライター えむ
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
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