バスと電車と足で行くひろしま山日記 第49回安芸アルプス㊤(広島市安芸区・海田町・熊野町)

みはらし広場から見た洞所山(中央左) みはらし広場から見た洞所山(中央左)

昨年3月に登った日浦山(ひのうらやま)を紹介した回(第24回)で、瀬野川を挟んで東側に連なるご当地アルプス「安芸アルプス」に触れた。「機会があれば体調と気候が良い時にトライしてみたい」と、思い切り後ろ向きのコメントをした。その理由は、総延長が20キロ近くあり、広島市近郊の日帰りルートでは「広島南アルプス」(㊤第21回、㊦第22回)をしのぐ最長クラスになるためだ。何度かプランニングをしつつも先送りしてきたが、年も改まったタイミングで一念発起トライすることにした。安芸アルプス7座(坂山・鉾取山・原山・天狗防山・洞所山・城山・金ヶ燈篭山)の縦走記を上下2回に分けて紹介する。

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ

行き)JR山陽線(おとな片道330円)/横川(8:03)→(8:08)広島(08:11)→(8:31)瀬野


瀬野に残る旧山陽道の風情


JR瀬野駅で電車を降り、国道2号を横切って瀬野川に並行する旧道を歩く。江戸時代には江戸を中心に整備された東海道や中山道などの主要な五街道に付属する脇街道だった山陽道(西国街道、中国路とも)の一部だった。道路沿いの瀬野の町並みには旧街道の雰囲気が残る。榎ノ山川を渡る橋の手前の三差路に「旧山陽道落合の一里塚跡」と彫りこまれた石碑が立てられていた。1981年に地元のライオンズクラブにより建立されたとある。その横には「右 四日市 左しわ(志和) みち」と刻まれた自然石の道標があった。四日市は現在の東広島市西条にあった旧山陽道の宿場の名前なので、こちらはかなり古いのかもしれない。

旧山陽道落合の一里塚跡 旧山陽道落合の一里塚跡

旧街道を離れて瀬野川を渡り、登山道に向かう。住宅街の坂道を上り、東広島バイパスの高架をくぐるとルート最初のピーク、坂山(499.5メートル)に通じる神原登山口だ。トレッキングポールを伸ばして山登り態勢に入る。水道局の配水施設を過ぎると本格的な山道になる。この時間帯の西斜面は日光が差さない。暗い谷間を上っていく。沢沿いのきつい直登が続き、「忍」の一字で足を運ぶ。約40分で「坂山・鉾取山山頂へ」と書かれた標識が現れ、緩やかな道を左に向かうとほどなく明るい稜線に出た。さらに10分ほど歩くと坂山の頂上に着いた。

神原登山口 神原登山口 坂山への登山道は急登が続く 坂山への登山道は急登が続く 最初のピーク・坂山の山頂。右手奥にうっすら見えるのは白木山 最初のピーク・坂山の山頂。右手奥にうっすら見えるのは白木山

ボランティアの手で整備された縦走路


山頂は簡易ベンチも置かれていて休憩にはもってこい。立ち木で遮られている方向もあるが、見晴らしもまずまずだ。ただ、天気はいいのだが、前日朝に降った雨の影響なのか、もやっていてあまり遠くまでは見通せない。瀬野川を挟んで立ちあがる蓮華寺山・高城山(第35回)、その向こうの呉娑々宇山(第16回)、白木山(第18回)の山並みが連なっているあたりまでは眺めることができた。

ここからが本格的な縦走のスタートだ。縦走路はよく整備されていて快適に歩くことができる。安芸区役所地域起こし推進課に事務局を置くボランティアグループ「あきく魅力探見隊」(https://www.city.hiroshima.lg.jp/site/akiku/228005.html)が日常的に整備を担っているそうだ。登山道はこまめに倒木を処理したり草刈りをしたりしないとすぐに荒れてしまう。こうした取り組みをしてくださる人たちのおかげで山歩きを楽しむことができる。道迷いを防ぐ標識の多くもメンバーの手作りだそうで、登山者としては感謝するほかない。安芸区役所が作成した安芸アルプスのガイドマップ「あきく魅力の山歩道(さんぽみち)」のダウンロードはこちらhttps://www.city.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/125185.pdf

ボランティアの手で整備された歩きやすい縦走路 ボランティアの手で整備された歩きやすい縦走路 「安芸アルプス縦走路」の案内板 「安芸アルプス縦走路」の案内板

ルート最高峰への急登


小ピークを経由して舛越峠まで下る。平原登山口からの登山道との合流地点だ。ここからルート最高峰の鉾取山(711.1メートル)までの標高差は約300メートル、しかも急登が続く。息を切らしながら足を運ぶ。標高530メートル付近には、王子製紙の社有林であることを示す看板が設置されていた。環境保全林として維持しているのだろうか。

王子製紙の社有林を示す看板があった 王子製紙の社有林を示す看板があった

遊歩道の分岐を過ぎ、舛越峠から約40分かけて山頂に着いた。周囲は樹林に囲まれてまったく眺望がない。少し下った標高676メートル地点に広島市街地方面の眺望が楽しめる「みはらし広場」があるのというので、早々に山頂を後にする。

下ること10分で広場に到着した。「ルート随一の展望地」といわれるだけに、広島市街地や広島湾方面の視界は開けているのだが、もやがひどく、ぼんやり霞んで見えるだけの残念な状況だった。正面にはこれから向かう洞所山、591メートル峰が並んでいる。天狗防山はどこがピークなのかわかりにくい。

広場には入り口や窓にすべてシャッターが取り付けられた「みはらし小屋」という休憩施設もあった。「シャッターを開けてご自由にお使いください」とあったが、使用後にはすべてシャッターを閉めなければならず、気軽には使いにくい。入口のシャッターを開けかけて(重い)あきらめた。ただ、悪天候時には避難小屋代わりに使えるので便利かもしれない。

鉾取山の頂上。展望はなし 鉾取山の頂上。展望はなし みはらし広場から見た広島市街地。天気はいいのだけれど透明度はさっぱり みはらし広場から見た広島市街地。天気はいいのだけれど透明度はさっぱり 洞所山(中央左)をみはらし広場から望む。左遠方に絵下山がかすかに見える 洞所山(中央左)をみはらし広場から望む。左遠方に絵下山がかすかに見える 広場の隅にあったシャッター付きの休憩小屋 広場の隅にあったシャッター付きの休憩小屋

 


巨大鉄塔の立つ山


次は原山(671.9メートル)だ。山頂にNTTの無線中継所など巨大な鉄塔が2基建てられているので遠くからでもよく目立つ。見はらし広場から10分ほど下ると舗装道路に出る。左に少し歩き、右手に上る山道に入る。「あきく魅力探見隊」の人たちが設置してくれたのだろう、小ぶりな「原山↑」の道標があり、迷うことはない。ここから原山山頂までは10分ほどだが、地味にきつかった。頂上は残念ながら展望はない。三角点は二つ目の鉄塔の脇にひっそりと設置されていた。

原山からはほぼ真西に稜線を下る。傾斜はそれほどでもないが、鞍部までの標高差は約160メートル。ここから591メートル峰の山腹をトラバースして天狗防山に向かった。

巨大な無線鉄塔の立つ原山 巨大な無線鉄塔の立つ原山 原山への分岐。ここにも手作りの標識が 原山への分岐。ここにも手作りの標識が 原山の山頂 原山の山頂

ここが山頂?


天狗防山(512メートル)はちゃんと山名がついているのだが、ピークがわかりにくい山だ。要は安芸中野方面にせり出した尾根の先端部分なのだが、手前にある無名の591メートル峰の方がよほどしっかりした山容だ。

地図で見ると天狗防山の山頂は成岡登山口に向かう道の途中にある。実際歩き始めると、どうということはない林の中の登山道の真ん中に「天狗防山 512メートル」の標識があった。「え?ここが山頂」と思わず声が出てしまった。登山アプリYAMAPのGPS地図を見てもここで間違いない。

登山道に突如現れた天狗防山の山頂を示す標識 登山道に突如現れた天狗防山の山頂を示す標識

ちょうどお昼時だが、ここで昼ごはんは寂しい。この先に西側の展望が開けた場所があるというので、先に進む。数分で全面がさびてしまった案内板のある展望地に到着。展望地とはいっても見えるエリアは限られるうえ、もやで視界はよくない。だが、さっきの「山頂」よりはましだ。久しぶりにバーナーを持ち込んでカップヌードルを作った。冬の山で食べるカップヌードルは下界の何倍もおいしい。

天狗防展望地からの眺め。もやっている 天狗防展望地からの眺め。やはりもやっている 久しぶりにカップヌードルのランチ 久しぶりにカップヌードルのランチ

食べ終えて距離を見てみると、9キロ弱。ずいぶん歩いたように思ったが、まだ半分も来ていない(!)。時刻は12時40分。眺望のきく広島南アルプスと違ってゴールは見えない。先は長い。(㊦に続く)

 

2023.1.8(日)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

 

《付記》

「安芸アルプス」を1日ですべて歩き通すには、かなりの体力と時間が必要だが、短縮ルートを選ぶこともできる。鉾取山をメインにするなら、JR中野東駅をスタートして平原登山口から鉾取山に登り、原山、天狗防山を縦走して成岡登山口に下り、JR安芸中野駅にゴールするとよい(逆も可)。標準コースタイムは休憩時間を除いて約5時間、総延長9キロのコースとなる。

ライター えむ
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
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