バスと電車と足で行くひろしま山日記 第47回 鷹ノ巣山・カンノ木山(東広島市)
日が短くなる冬の登山は早めの下山が肝心だ。冬至(2022年は12月22日)に向かう今の時期は尚更で、できれば15時くらいには山道を抜けていたいところ。となると朝は早く出発する必要がある。だが、この日は午前中の天気予報が思わしくなかった。午前11時くらいまでは降水確率40~50%。お昼くらいから晴れマークも出ているのだが、そんな時間にスタートしていては山中で日が暮れてしまう。迷ったが、冬期になると登れる山も少なくなるので決行することにした。今回は東広島市の北部、県央地域の最高峰・鷹ノ巣山(921.8メートル)と双耳峰のカンノ木山(891.9メートル)。
▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ
行き)①JR山陽線(おとな片道590円) 横川(6:28)→西条(7:12)
②芸陽バス豊栄~西条線(おとな片道820円)*高美が丘・近畿大経由 西条前駅(7:34)→久芳(8:22)
帰り)①芸陽バス(おとな片道740円) 福富支所東(14:25)→寺家駅(15:02)*東広島医療センター経由
②JR山陽線(おとな片道590円) 寺家(15:09)→新白島(15:47)
雨具を着てロード歩き
JR西条駅に着くと今にも泣きだしそうな空模様だ。バスを待つ間にレインウエアを身につけ、足元にはスパッツを装着する。バスに乗っている間に小雨が降り始めた。約50分で登山口となる県央の森公園の最寄りとなる久芳バス停についた。最寄り、とはいっても、バス停から登山口までは約5キロ、標高差300メートルを上るロードを歩かなければならない。行く手を見ると、当然ながら目的の山々はガスの中で姿も見えない。山頂あたりで天候が回復することを願って歩き始めた。
小雨の中を登山口に向けて歩く。山はガスに包まれて見えないこのあたりは2005年の合併前は旧福富町の中心だった地域だ。近くには東広島市役所福富支所や、福富ダムの湖畔にキャンプ場などを備えた道の駅「湖畔の里福富」もある。
小雨の中を黙々と歩く。人家が途絶え、道が細くなると勾配がきつくなる。それほどの急坂というわけではないのだが。延々と続く上りには結構体力を削られる。約25分で鷹ノ巣山登山道の一つに通じる林道の分岐点に着いた。「工事関係者以外立入禁止」「森林整備事業で危険なので別の歩道の利用を」という内容の看板が出ている。下山路に予定していたのでどうしようかと思ったが、工事期間が11月30日までとなっていたので通れないことはないのだろうなと考えた。(後で後悔することになる)
人家の途絶えるこのあたりから傾斜がきつくなる 立入禁止の看板が立つ林道の分岐 通行禁止となる事業期間は終わっていたのだが…県央の地から双耳峰へ
ほどなく「県央の地」の看板が見えてきた。それによると、ここは北緯34度33分48秒、東経132度45分22秒で広島県の中心点にあたるそうだ。せっかくなので、車道の脇を少し上ったところにある「県央の地」の碑も見に行ってみた。石製の球体を2本の御影石の柱が支える構造なのだが、造形の意味するところはよくわからなかった。
県央の地のモニュメント 県央の地の説明看板この先からようやく舗装路を離れて山道に入り、鷹ノ巣山とカンノ木山の鞍部を目指す。雨の影響もあって滑りやすくなっているが、比較的楽な登りだ。約30分で薄暗いヒノキの林の中の鞍部に着いた。標高は726メートル。右に行けばカンノ木山、左は鷹ノ巣山、直進すれば安芸高田市の向原に通じている。
鷹ノ巣山登山道の入り口。立入禁止の看板が立っているが規制区域ではない カンノ木山と鷹ノ巣山の鞍部まで登ってきたまずは右のカンノ木山に向かう。雨はほぼ上がったが、ガスが濃い。霞んだ林間の道は少し不気味だ。一生懸命足を運ぶこと約30分で巨岩が鎮座するカンノ木山の山頂に到着。ガイドブックには西条の市街地を見渡せる、とあったが、眼前は真っ白。写真だけ撮って早々に引き返した。
ガスが立ち込めるカンノ木山への道 巨岩が鎮座するカンノ木山頂上 頂上からの眺めはガスで真っ白
一等三角点からの大展望
鞍部に戻り、鷹ノ巣山を目指す。再び上りだ。直登の道はかなりきつく、長いロード歩きとカンノ木山往復で疲れがたまった足には少しつらい。時折立ち止まって休みながら上る。やがて傾斜が緩やかになり、左手に道が大きく曲がると右側は疎林になり、道も明るくなる。午前11時25分、山頂に着いた。
鷹ノ巣山へのきつい上り 鷹ノ巣山の山頂まで500メートル 頂上まであと少し。道も明るくなってきた 鷹ノ巣山に登頂。天気が回復し、麓も見えてきた
ガスは急速に薄くなり、福富の市街地やダム湖も見えてきた。かなり霞がかってはいるが、すばらしい展望だ。青空ものぞき、日差しに照らされて温まった芝生からは雨水が蒸発し、水蒸気が立ち上っていた。(動画もご覧ください)
山頂には立派な展望台もあったが、鉄製の階段には上れないよう入口にロープが張られていた。階段の踏板と左右の桁のつなぎ目が腐食して穴が開いているところもある。残念だが危険防止のためにはやむを得まい。
鷹ノ巣山は地図測量の基本となる一等三角点の置かれた山だ。前回紹介した阿佐山と同様、明治30年代の一等三角点地図にも山名入りで載っている。標石は深く埋まっていて「一等 三角」までしか読めない。周囲には保護石と呼ばれる石が4カ所に埋められていた。国土地理院の一等三角点の記によると、標石が埋められたのは明治22(1889)年11月28日。133年もの間風雪に耐えてきたのかと思うと軽い感慨を覚えた。
鷹ノ巣山の山頂に設置された一等三角点 青空も見えてきた。展望台の鉄製階段は腐食が激しく使用禁止 日差しも出てきた
下山路の選択ミス
おにぎりの昼食を終えて下山にかかることにした。南面には2つの下山ルートがあるが、いずれも来る時に看板で見た「歩道の通行禁止」エリアに入っている。来た道を引き返すのが安全だが、同じ道では面白くない。通行禁止の理由となっている森林整備事業の期間が11月30日までとなっていたので「もう終わっているだろう」と判断。南面を下ることにし、より傾斜が緩くて所要時間の短い(といっても5分しか変わらないのだが)と思われる西寄りの道を選んだ。登山アプリYAMAPの地図に細い線で描かれているのが気にはなったのだが、「まあ、大丈夫だろう」と考えたのが大きな選択ミス。このルートはほぼ全線が未舗装の林道で、樹木の伐採作業のため大型重機が入っているため、無限軌道(いわゆるキャタピラー)の深い跡が刻まれた歩きにくいことこの上ない泥道だったのだ。靴もトレッキングポールもあっという間に泥だらけになってしまった。日曜日で作業は休みだったようだが、途中数か所に大型重機が停められており、まだまだ作業は真っ盛りの印象。作業日だったら危ないところだった。自分の判断で踏み込んだので文句は言えないのだが、「工事期間が変更になったのならちゃんと表示しておいてくれよ」と愚痴った。
歩きにくい泥道の林道 伐採作業にあたる大型重機が林道上に停められていた この道で下山するべきだった標高720メートル付近で東寄りの登山道(地図の点線のルート)と合流し、林道も歩きやすくなったのだが、林道の出口までに2カ所も侵入防止用ネットが張られれていた。ご丁寧に両側の斜面までネットが延ばされていたので苦労して通り抜けたが、ここまでやるのであればなおさら正確な情報提供をしてほしいものだと思った。
再び退屈な長いロード歩きを終えてバス停に着いたのは14時15分。総歩行距離は16.6キロだった。
林道に張られていたネット カンノ木山 鷹ノ巣山 双耳峰として並び立つ鷹ノ巣山(左)とカンノ木山2022.12.4(日)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」