バスと電車と足で行くひろしま山日記 第41回 道後山・岩樋山(庄原市)
本連載も40回を数え、だんだんと「バスと電車と足で行く」ことができる山も少なくなってきた。当初は、タイトルと矛盾するので車を利用した場合は「番外編」としたが(比婆山連峰)、恐羅漢山・羅漢山の時はそのままナンバリングしてしまっている。この際、車を利用した山も本編に入れることにさせていただくことにしたい。今回は県内で最も名の知られた山のひとつ、鳥取県との県境に立つ道後山(どうごやま 1271メートル、1等三角点は1268.4メートル)。「花の名山」とも呼ばれる山野草豊かな自然と眺望を楽しみに出かけた。
▼今回のルート(※車を利用)
【行き】
広島高速4号線中広出入口→同沼田出入口→広島自動車道・西風新都IC→中国自動車道・庄原IC→国道183号・三坂→県道250号→道後山高原スキー場→月見ヶ丘駐車場
【帰り】
月見ヶ丘駐車場→道後山高原スキー場→県道250号・三坂→国道183号→中国自動車道・庄原IC→広島自動車道・西風新都IC→広島高速4号線沼田出入口→同中広出入口
いわし雲わく秋空の下で
午前6時30分に広島市を出発、広島県の地図で右上にぽっこり飛び出た「てっぺん」を目指す。高速道路と山間の道を走ること約2時間、道後山高原スキー場から1車線の細い道を登り切ったところがスタートの月見ヶ丘駐車場だ。身支度を整えて空を見上げると、秋の季語でもあるいわし雲に覆われていた。季節は確実に進んでいる。
出発地点の月見ヶ丘駐車場。空には秋のいわし雲正面には岩樋山(1271メートル)が端正な姿を見せている。月見ヶ丘駐車場の標高は1080メートルもあるので、標高差は200メートルもない。峰続きの道後山も同じ高さ(ただし1等三角点が置かれているのは1268.4メートル地点)なので、のんびりした山歩きが楽しめそうだ。
午前8時20分に歩き始めてからしばらくは林道のような林間の平坦な道が続く。10分ほどで階段になり、山登りらしくなるが、傾斜はきつくはない。ほどなく休憩所のあずまやが現れるが、休憩にはまだ早い。標高1170メートル付近の分岐では右方向の「道後山近道 1.7km」の標識を見送って岩樋山への道を行く。10分ほど歩くと展望が開ける。雲はほぼなくなり、眼下にスタート地点の月見ヶ丘駐車場、遠く比婆山連峰が青空を背にくっきりと見えた。
平坦な序盤の登山道 あずまやのある休憩所。まだ一息つくには早い 道後山近道の分岐。近道は取らず岩樋山へ 眼下にスタートした駐車場。彼方に比婆山連峰岩樋山には午前9時登頂。北東方向には中国地方唯一の百名山・大山(だいせん 1729メートル)。山体の大半は雲に覆われており、かろうじて雲の上に出ていた山頂付近だけを望むことができた。
岩樋山山頂。雲から頭をのぞかせているのは大山。手前は道後山
山の花回廊をゆく
岩樋山から道後山にかけての登山道沿いは、多くの種類の山の花が見られる「花回廊」だ。花期のピークは過ぎているが、それでも色とりどりの花々が目を楽しませてくれる。一眼レフカメラを携えて花を撮影する登山者も多い。
目についただけでも、明るい紫色のマツムシソウモドキ(多分)、濃い紫が鮮やかなリンドウ(最も多かった)、ピンクのカワラナデシコ、黄色のアキノキリンソウ、ピンク色に熟した実の中に赤い種をつけたマユミ(間違いないと思うが自信なし)、ドライフラワーのようなホソバノヤマハハコ(多分)、終わりかけのウメバチソウ、可憐な丸く白い花と赤い萼(がく)が印象的なアカモノ、淡い紫色のマツムシソウ――などを見ることができた。
マツムシソウモドキ(?) リンドウ カワラナデシコ アキノキリンソウ マユミ(多分) ホソバノヤマハハコ ウメバチソウ アカモノ マツムシソウ岩樋山からの下りは傾斜があり、滑りやすい。トレッキングポールを突きたてながら慎重に下ったが、それでも何度かこけかけた。鞍部に出てからは快適な縦走路だ。ハイキング気分でサクサク歩く。道後山山頂の到着は9時35分。スタートからの所要時間はわずか1時間15分だった。道後山は高原状の地形になっているため、頂上の標識付近からは、周囲に遮るものがないにもかかわらず意外に遠望がきかない。(地図のパノラマ写真参照)距離が近付いた分、大山は良く見えるのではと思ったが、残念ながら完全に雲の中だった。
道後山への緩やかな道 道後山山頂 なだらかな高原状の道後山
バリエーションルートで想定外の「水難」
2座をクリアしたが、ちょっと歩き足りない。そこで北に見える多里大山(たりだいせん、別名持丸山 1224メートル)に向かうバリエーションルートをたどることにした。山頂までのコースタイムは40分。東に向かい、標高差にして20メートルほど下ったところの分岐を左に向かう。
道は両側からササが生い茂っている。歩く部分は刈ってあるのだが、前日の雨水をたっぷり含んだササがパンツを容赦なく濡らし、登山靴の上部から水が浸入。晴れているのに靴の中がちゃぷちゃぷになってしまった。ふくらはぎまで覆ってくれる登山靴カバーを持ってこなかったことを激しく後悔したが後の祭り。耐えて進む。持丸登山口との分岐に掛けられていた手製の看板に「←多里大山 眺望絶佳」とあったのを楽しみに歩き続け、約30分で山頂に。岩の上に上って見渡すとなかなかすばらしい展望だ。朽ちたアンテナが放置されていたのが残念ではあった。
来た道を引き返し、再びササに下半身を濡らされる。靴の中の水がさらに増える(泣)。まったく想定外の「水難」だった。
砂鉄採取と放牧の遺構
道後山からの分岐を見送り、山腹を巻くように歩く。靴の中は不快だが、眺望を楽しみながら歩けるのはいい。10分ほどで大池に着いた。自然の沼のように見えるが、実は人工の池だ。中国山地は砂鉄の産地(比婆山連峰参照)で、一帯もかつては盛んに採掘がおこなわれていた。岩を砕いて水を流し、比重の重い砂鉄を沈殿させて採取する「鉄穴(かんな)流し」に必要な水を確保するために築かれたのだそうだ。
製鉄遺跡の大池大池を過ぎて15分ほど歩くと、往路で通った岩樋山と道後山の縦走路に合流する。このあたりから登山道の南側、広島県と鳥取県の県境に古い石塁が延々と続いている。岩樋山への斜面に延びる石塁は万里の長城さながらだ。昭和30年代まで道後山一帯は「両国牧場」と呼ばれ、牛の放牧場として利用されていた。石塁は鳥取県側の牛と広島県側の牛が互いに「越境」しないために築かれたのだそうだ。なだらかとはいえ、県境の山に岩を運び、積み上げ、長大な石塁を築くのにはどれだけの苦労があっただろう。そんなことを考えながら帰途についた。
今回の総歩行距離は8.3キロ、所要時間は3時間36分だった。
牧場跡の石塁 岩樋山への登山道の横に石塁が続く
2022.10.15(土)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」