バスと電車と足で行くひろしま山日記 第24回日浦山(ひのうらやま 海田町・広島市安芸区)

山頂に咲くゲンカイツツジが美しい

球春満開、広島カープは絶好調だ。鈴木誠也のメジャー流出もあって、開幕前の評論家やスポーツ記者のシーズン予想は最下位がズラリ。ところが、いきなりの大型連勝スタートで気分がいいことこのうえない。この日、DeNAベイスターズとの開幕第3戦は広島ホームテレビの「勝ちグセ。」中継が午後2時からあるので、それまでには帰宅したい。アクセス抜群の里山で眺望の良さが評判の日浦山(345.4メートル)に行ってみることにした。

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ
行き)JR山陽線(おとな片道200円)/横川(8:41)→(8:56)海田市
帰り)JR山陽線(おとな片道240円)/安芸中野(11:30)→(11:49)横川

 


金メダリスト生誕の町をスタート


起点はJR海田市(かいたいち)駅北口。海田の地名は平安時代に荘園「開田荘」が置かれたことにちなむそうで、近世になると西国街道の宿駅が置かれ、交通と商業の要衝として発展したそうだ。いまも国道2号が通り、JR山陽線と呉線もこの駅から分かれている。

海田市駅から見た日浦山 海田市駅から見た日浦山

駅前には「日本人初のオリンピック金メダリスト 織田幹雄 生誕のまち 海田町」の看板が立ち、事績を紹介している。1905年に海田町(当時は海田市町)で生まれ、1924年のパリ五輪三段跳びで6位入賞、4年後のアムステルダム五輪三段跳びで15メートル21センチの記録で日本人初の金メダリストとなった。1931年には当時の世界記録となる15メートル31センチを出している。1998年に亡くなるまで、まさに日本陸上界のレジェンドだった。毎年広島で開かれる織田幹雄記念国際陸上競技大会はその功績を称えたもので国内外の一流選手が参加、海田町も後援している。今回は時間の関係で行けなかったが、町内には織田幹雄記念館(入館無料)もある。

日本人初の金メダリスト・故織田幹雄さんの事績を紹介する看板 日本人初の金メダリスト・故織田幹雄さんの事績を紹介する看板

赤い柱組が印象的な大師寺


駅を後にして北へ向かう。西国街道の名残をほのかに感じる県道151号に出ると東へ。登山口となる高野山真言宗大師寺の入り口のすぐ手前に「織田幹雄生家跡」の表示がある。「ここから世界に羽ばたいたのか」と感じ入る。

故織田幹雄さんの生家跡に立つ看板 故織田幹雄さんの生家跡に立つ看板

「日の浦山遊歩道 頂上へ一、七七五M」の看板を横目に登り始めるといきなり石段。145段あるそうだ。ふうふう言いながら登り終えると、斜面に立つ三層構造の本堂が現れた。赤い通し柱に囲まれ、最上部には回廊を巡らせた構造は印象的だ。ここは広島市・呉市・大竹市・廿日市市・東広島市・安芸郡の5市1郡の寺院で構成される広島新四国八十八ヶ所霊場の35番霊場でもある。山頂に通じる登山道沿いには、奥の院まで各寺院の寺名が彫られた石仏が安置されている。ちなみに昨年登った篁山(522メートル)の竹林寺は31番だった。

大師寺への石段 大師寺への石段 赤い柱組が印象的な大師寺 赤い柱組が印象的な大師寺 広島新四国八十八ヵ所霊場の寺院から勧請した石仏が並ぶ登山道 広島新四国八十八ヵ所霊場の寺院名が刻まれた石仏が並ぶ登山道 昨年登った篁山・竹林寺の文殊菩薩像も 昨年登った篁山・竹林寺の文殊菩薩像も

野生のシカと遭遇


石仏群を過ぎると山道らしくなる。「さあっ、これから」と思った瞬間、30メートルほど向こうの登山道の上にいたシカと目が合った。スマホを取り出す間もなく斜面を駆け下りていった。イノシシでなくてよかった。しばらく先にはイノシシが体についた虫や汚れを落とすために泥浴びをする沼田場(ぬたば)もあった。市街地に近い里山とはいえ、野生動物に遭う可能性は常にあるのだ。

シカとの遭遇地点 シカとの遭遇地点

山頂までのコースタイムは1時間。途中ヤマザクラも咲いていて季節が確実に進んでいることを感じる。よく整備された道をのんびり登ってほぼ時間通りに頂上に着いた。ちなみにこのルートはBルートというのだそうだ。

わかりにくいけれどヤマザクラが咲いていました わかりにくいけれどヤマザクラが咲いていました 地面には花びらが 地面には花びらが 木の根に覆われた登山道 木の根に覆われた登山道 頂上が近付くと巨石が目立つ 頂上が近付くと巨石が目立つ 日浦山山頂 日浦山山頂

眺望抜群の古城跡


広島湾岸の要路にある山々には、中世の城跡が多い。ここ日浦山もその一つだ。南北朝争乱期の1338年、南朝方の軍勢が城を構え、北朝方と激しい戦闘が繰り広げられたという。山頂付近は巨岩が多くあり、城があったというのもうなずける。
この山頂が抜群の眺望なのだ。標高こそ低いが、南は海田の市街地から広島市街地、海田湾、広島湾がそれこそ指呼の間に広がる。前日が荒天だったこともあって空気が澄んでおり、40キロ以上離れた吉和冠山(1339メートル)の特徴ある山容もくっきり見えた。頂上周辺にはゲンカイツツジが濃いピンクの花を咲かせており、和ませてくれた。
飽きない景観を20分ほど楽しんで下山にかかった。正面を下るAルートも考えたが、せっかくなので縦走して畑賀地区に下る「影コース」を選択した。

南側の眺望。海田湾から広島市街地、西中国山地まで一望 南側の眺望。海田湾から広島市街地、西中国山地まで一望 東側の眺め。瀬野川を挟んで「安芸アルプス」の山々を望む 東側の眺め。瀬野川を挟んで「安芸アルプス」の山々を望む 右側が切れ落ちた山容が特徴的な吉和冠山が右遠方に見える 右側が切れ落ちた山容が特徴的な吉和冠山が右遠方に見える 山頂に咲くゲンカイツツジが美しい 山頂に咲くゲンカイツツジが美しい

啓蟄を過ぎた時期らしく


コースの名前は下山口にある芸陽バスの停留所「影橋」に由来するようだ。いったん180メートル付近の鞍部まで下り、258メートル地点まで登り返す。ここは広場になっており、ベンチで休憩もできる。眼前には瀬野川を挟んで鉾取山、原山などが連なる山塊が広がる。この連山には縦走路が整備されており、広島の「ご当地アルプス」のひとつ「安芸アルプス」を構成している。全ルートを歩き通すと18キロもあるロングコースなので、機会があれば体調と気候が良い時にトライしてみたい。

北側の稜線から見た日浦山 北側の稜線から見た日浦山 名残のヤブツバキ 名残のヤブツバキ

下山中に足元でもそもそと動くものを発見。コガネムシの仲間のようだ。啓蟄を過ぎてから2週間、虫たちも活動を開始している。滑りやすい急斜面を注意して下るとほどなく畑賀地区に。災害復旧工事のためルートが少し変わっていたようだが、無事に下山した。JR安芸中野駅までは15分の道のり。午前中に山行を終えた。
登りやすく、歩きやすく、見どころもある、初心者やファミリーでも安心。短時間でも楽しめるオススメの山だ。

この季節にコガネムシの仲間? この季節にコガネムシの仲間?

2022.3.27(日)取材≪掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください≫

ライター えむ
還暦。50代後半になってから本格的に山登りを始めて4年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
LINE はてブ Pocket