バスと電車と足で行くひろしま山日記 第20回七国見山(ななくにみやま 呉市)
広島ホームテレビの夕方の情報番組「5up!」を見ていたら、上蒲刈島(呉市)の県民の浜で早咲きの河津(かわず)桜が見ごろになっているというニュースを流していた。静岡県河津町で1955年に発見されたことから名付けられたこの桜、よく見かけるソメイヨシノに比べて花のピンク色が濃く華やかで、見ごろが約1か月も続くのが特徴だそうだ。「とびしま海道」の中に河津桜のお花見ができるポイントがあるとは知らなかった。近くには、前から一度登ってみたいと思っていた七国見山(ななくにみやま 456.7メートル)がある。天気も良く暖かそうだ。今回は別の山を考えていたのだが、島の山と河津桜を楽しむ陽だまり登山に行ってみることにした。
バスのスケジュールはとってもタイト
広島から上蒲刈島の登山口に公共交通機関で行くには、広島バスセンター発のさんようバス「とびしまライナー」に乗るか、JRで広駅まで行き、「とびしまライナー」に乗り継ぐ方法の二つがある。バスはどちらも同じ便なのだが、今回は移動時間の短い乗り継ぎを選んだ。ただ、バスは1日4便。目的地の最寄りの停留所「恋ヶ浜」に着くのはお昼前で、帰りの最終便まで3時間ほどしかない。バス停から七国見山を登り、県民の浜の河津桜を往復すると、標準的な移動時間だと2時間45分。休憩や撮影時間も考えると、相当急ピッチで歩かなければ間に合わない。歩くのは早い方なので「まあ、何とかなるさ」と出発した。
▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ
行き)JR山陽線(おとな片道680円)/横川(10:19)→(10:24)広島(10:30)→(11:14)広
さんようバス・とびしまライナー(おとな片道730円)/広駅前(11:20)→(11:52)恋ヶ浜(*渋滞で発車が約20分遅れ)
帰り)さんようバス・とびしまライナー(おとな片道730円)/恋ヶ浜(14:53)→(15:27)広駅前
JR呉線・山陽線(おとな片道680円)/広(15:33)→(16:22)広島(16:30)→(16:34)横川
バスが来ない!
広駅前バス停には定時の3分前に着いた。だが、目の前の国道185号は大渋滞。いやーな予感がした。心配した通り、待てども待てどもバスが来ない。気は焦るがどうしようもない。やっとバスが来たのは定時から20分遅れの11時40分。安芸灘大橋を渡り、下蒲刈島、蒲刈大橋を経て上蒲刈島の恋ヶ浜バス停で下車。登山口の蒲刈ウォーキングセンターに着いたのは12時15分になっていた。これでは移動時間だけで帰りのバスに乗り遅れてしまう計算だ。「こりゃまずい」。時間を節約するため、昼食のサンドイッチは登り始める前にささっと食べて登山をスタートした。
安芸灘大橋を渡ってとびしま海道へ 下蒲刈島に渡ってすぐの公園「白崎園」から安芸灘大橋を望む 下蒲刈島と上蒲苅島を結ぶ蒲刈大橋 登山の起点となる蒲刈ウォーキングセンター 七国見山の登山口標識
山火事から再建された西泊観音へ
登山道は砂防堰堤を越えると急登が続く。15分ほど急ピッチで登り続けると舗装道路に出た。道路脇に「西泊観音再建寄付者名」と刻まれた真新しい石碑が立てられていた。ここから標高にして約140メートル上に十一面観音像を本尊とする石光山西楽寺(せっこうざんさいらくじ)があり、「西泊(にしどまり)観音」と呼ばれて船乗りや漁師たちの篤い信仰を集めていた。しかし、2019年4月の山火事でお堂は全焼、本尊も灰となった。地元の人たちが資金を出し合って翌年お堂を再建、仏像の寄進も受けて新たな西泊観音としたのだそうだ。
西泊観音堂の再建に協力した人の名を刻した石碑西泊観音までは急な石段が続く。なにせ時間がないので息を切らしながら必死で登る。道の両側は焼け焦げた木々が残り、山火事の激しさを物語る。約15分で稜線上の西泊観音に着いた。真新しいお堂の横には小さな鐘が下がっている。この鐘はかろうじて焼け残ったのだそうだ。焼失からわずか1年半ほどで果たした再建。地元の人たちが大切にしてきた観音様への思いに感じ入った。
ここからまたしばらく木段の急登が続く。火災を免れた林に入る直前に振り返ると、広々とした斎灘(いつきなだ)と、海に突き出した県民の浜の景観を望むことができ、ちょっと疲れも癒された。
七国見山から七国は見えず
13時過ぎに山頂に続く稜線に上がると、道は一転して平坦になり、10分ほどで山頂に到着した。コースタイム1時間15分のところ、1時間で登り切った。結構ハードだった。
七国見山の山名は、かつて頂上から周防(山口)、安芸(広島)、備後(同)、備中(岡山)、讃岐(香川)、伊予(愛媛)、豊後(大分)の七つの国が見えたことに由来するそうだ。だが、現在の頂上は樹林に囲まれて展望はほとんどない。南側の少し開けた場所から海を望めたが、好天ながら靄(もや)っていて四国方面も見えない。木製の展望台も階段が傷んでいるようで立入禁止。北側の樹木の間から対岸の川尻方面(安芸)をチラ見できただけで、「これじゃあ『一』国見山だな」と愚痴りながら下山した。
青空に映えるピンクの河津桜
次に目指すは河津桜だ。登山口から歩いて15分の距離。ここもせっせと歩いて時間を短縮し、14時10分に到着した。バスの時間までは40分余り。これなら大丈夫だ。
「5up!」の紹介が効いたのか、斜面に植えられた河津桜の周辺は見物客でいっぱい。まだ三分から五分咲きといった塩梅だが、濃いピンク色の花が青空と背後の山の緑に映えて美しい。望遠レンズを付けた一眼レフカメラを構えた写真愛好家たちが盛んにシャッターを切っていた。当方の撮影機材はiPhone11Pro。いままでの連載もすべてこのスマホで撮ってきた。本格装備の人たちの間に入るとちょっと気後れしたが、地形が良く花にしっかり近づいて撮影できた。ソメイヨシノに比べると花期が長いので3月に入ってもしばらくは楽しめそうだ。
《付記》
手元にあるガイドブックには「バスは1日4便しかなく登山には不向き」とある。確かに、帰りのバスに間に合わせるためにかなり余裕のない山行となった。登山アプリYAMAPで振り返ってみると、平均ペースは150~170%(撮影のための滞留時間等含む)となっており、結構なハイペース。七国見山の山頂から西へ縦走して登山口に周回するルートも魅力的だったが、バス利用では無理。ゆっくり楽しむならマイカーかレンタカー利用をおすすめします。もちろん、河津桜を楽しむだけならバスでOKです。
2022.2.26(土)取材≪掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください≫
還暦。50代後半になってから本格的に山登りを始めて4年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」