消えた灯りを取り戻せ~”エキニシ”大規模火災からの教訓~/【ドキュメント広島】取材記者ノート

2021年11月。JR広島駅の西側にある飲食店街、通称“エキニシ”で大規模火災が発生しました。

発生当日の様子(11月10日 視聴者提供) 発生当日の様子(11月10日 視聴者提供)

昭和を感じさせるレトロな雰囲気に、多彩なジャンルの料理が楽しめるとあって、近年話題のエリアです

大規模火災となった要因のひとつに挙げられているのが、古き良き街並みの裏にあった「既存不適格」という現実です。
防火対策をしながら、“エキニシ”の良さを守っていくにはどうすればよいのか。
また、被災した飲食店の店主が再起へ向けて新たに始めた取り組みや街で広がる支援の輪の様子を取材しました。

(広島ホームテレビ ニュースグループ記者 澤 和輝)

 


過去にも起きていた“エキニシ”火災

11月10日 午前5時35分ごろ。
JR広島駅西側の、通称“エキ二シ”と呼ばれる飲食店などが立ち並ぶエリアで、約30棟が焼ける大規模火災が発生。
80代女性と60代男性の親子2人がけがをしました。

実は“エキニシ”では、2018年にも8棟が燃え、80代の女性1人が亡くなる火災が起きています。

火災発生後の様子(11月11日撮影) 火災発生後の様子(11月11日撮影)

 

レトロな街並みの裏にある「既存不適格」の現実

再開発が進むJR広島駅周辺では、近代的な商業ビルの数々が立ち並びます。
その一角、西側のエリアにある“エキニシ”は、近年、注目を集めているナイトスポット。古い建物を利用したさまざまな飲食店が立ち並び、昭和を感じさせるレトロな雰囲気はサラリーマンや若者、女性からも人気を集めています。

現在の場所に建物が建設されたのは1950年代後半から1960年代中盤にかけて。
1976年には、一帯が耐火性を備えた建物の建設を法で義務付けた「防火地域」に指定されました。
そのため、違法ではないものの、現在の法律では耐火性能の基準を満たしていない「既存不適格」とみられる建物が多いエリアとなっています。

 

必要なのは「延焼させないこと」 行政との連携も

近畿大学工学部 市川尚紀教授(12月6日撮影) 近畿大学工学部 市川尚紀教授(12月6日撮影)

建築に詳しい近畿大学工学部の市川尚紀教授は、大規模火災を防ぐために重要なのは、周囲の建物に延焼させないことだといいます。
東京都の木造密集地域では、2012年から行政と連携して建物の不燃化を進める取り組みをしているといいます。
伝統的な街並みを残していくためには、行政も何らかのかたちで支援していくことが必要であると指摘します。

 

再起を目指す被災店

被災した鉄板焼き店「広島赤焼えん」の店主 伊藤勝さん (11月22日撮影) 被災した鉄板焼き店「広島赤焼えん」の店主 伊藤勝さん (11月22日撮影)

約30棟が焼けた大規模火災。

新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が解除され、多くの飲食店が通常営業を始めた直後の被害。“一番の稼ぎ時”である年末年始を前に12店舗が店を失ってしまいました。

今回の火災で被害にあった鉄板焼き店「広島赤焼えん」の店主、伊藤勝さん。

「前の日まで営業していた店がこんな状況になっていてショックだった。お客さんが『再開を楽しみにしている』などと言ってくれるので、早くその気持ちにこたえたい」と話していました。

そんな思いで新たに始めたのが「クラウドファンディング」。
目標金額を300万円に設定し、返礼品にはお店のオリジナルグッズを用意しています。集まったお金は店の再建と“エキニシ”の防火対策に使う予定です。

クラウドファンディング開始前にはPR活動として中区の本通商店街でチラシを配布しました。そこには、中学生の姿も…。
ニュースで“エキニシ”が火災になっていることを知り、自分に何かできることはないかと思い、支援活動を始めたといいます。
この日はバイオリンを演奏するなどして街ゆく人々に支援を呼びかけました。

(12月12日撮影) (12月12日撮影)

 

広がる支援の輪

火災後、飲食店同士で支援の輪が広がっています。

“エキニシ”の一角にある立ち飲み屋「やきとん 宮ちゃん」では、被害にあった飲食店「当力」(あたりき)のウイスキーを使って作ったハイボールを、「救出ハイボール」と名づけて、1杯500円で販売しています。売上金は全額寄付するという取り組みです。

店主の宮下誠司さんは

「被災されたお店の商品を使って何か協力できないかと思った。以前の“エキニシ”に戻って、また盛り上げていきたい」と話します。
支援の輪から誕生した「救出ハイボール」は2週間で完売し、売り上げ金と募金額を合わせた約7万円を寄付しました。

当力(あたりき)の店主、呉原浩一郎さんは「いろんな人が『手伝う手伝う』と言ってくれてありがたい。(寄付金は)みんなで使えたらと思う」と話していました。

「やきとん 宮ちゃん」の店主(右)と「当力」の店主(左) (12月2日撮影) 「やきとん 宮ちゃん」の店主(右)と「当力」の店主(左) (12月2日撮影)

 

始まった再建工事 しかし営業再開のめどは立たず

工事の様子(12月13日撮影) 工事の様子(12月13日撮影)

火災発生から約1カ月。
建物の工事が始まったものの、営業再開の時期についてはまだめどが立っていません。

しかし、伊藤さんは期待に胸を膨らませていました。
「やっと再開に向けてスタートを切った気持ちになった。(再開したら)まずは感謝の気持ちをもってお客さんをお迎えしたい。一緒に乾杯したい。」

“エキニシ”ファンは、「ギシギシと店が集まった雰囲気が好き。その雰囲気を残して再建してほしい」「早く元の状態に戻って活気あふれる感じになってほしい」と話します。

火災の被害があった反対側のブロックで営業を続けている、「酒と辛味 のそのそ」の店主、吉村龍彦さんも「また再開できる日を待っています」とエールを送ります。

(12月2日撮影) (12月2日撮影)

 


取材後記

大規模火災に見舞われた“エキニシ”。
しかしそこには、失意のどん底から再起へ向かう人たちの奮闘とそれを支える支援の輪がありました。

再び大規模火災にならないために…
地域の古き良き街並みを残しつつ、行政と連携するなどした防火対策が求められていると感じました。


 

取材ディレクター
ニュースグループ
澤 和輝(さわ・かずき)
2019年入社 警察・司法を担当。大学まで野球部に所属
現在は事件・事故、そして”エキニシ”を追いかけています。

澤 和輝

 

 

広島ホームテレビでは、当取材に基づく番組を下記の日時で放送いたします。
ドキュメント広島 『消えた灯りを取り戻せ~“エキニシ”大規模火災からの教訓~』
2021年12月29日(水)15:15~15:45

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