バスと電車と足で行くひろしま山日記 第1回 芸北の名峰・臥龍山
ひろしま山日記 第1回 芸北の名峰・臥龍山
広島の山は、低い。最高峰の恐羅漢山(おそらかんざん)でさえ、1,346メートル。
旧制広島高等師範学校(現広島大学教育学部)山岳部で歌い継がれてきた「広島高師の山男」(「坊がつる賛歌」の元歌)には「広島の山は低くとも 夏は故郷の山が待つ」と、広島は低山ばかりでつまらないけれど、夏休みには故郷にある北アルプスや南アルプスの高山にチャレンジするぞ、という想いが歌われている。
深田久弥の「日本百名山」に入っているのは中国地方全体を見渡しても鳥取県の大山(だいせん)だけだ。深田は後記で大山の頂上から見た中国山地について「幾重にも連なった山々は皆同じように平夷(へいい)な丘陵で、特に眼を惹くものがなかった」と記している。
でも、低い山には低い山の楽しさがある。
早春から初夏に咲くカタクリやオオヤマレンゲなどの花々、夏のブナ林の森林浴、秋の紅葉等々。登るのに体力的にも装備にも難しさはなく、都市部から短時間で登山口にたどり着ける。海と島が織りなす瀬戸内海の多島美を満喫できるのは広島の山登りの最高の楽しみだ。
マイカーやレンタカーを使わなくても、電車や路線バス、コミュニティーバスを乗り継いで日帰りで楽しめる山がいくつもある。少ない便数の公共交通機関を組み合わせてプランを練るのもパズルのようで楽しい。
本人の趣味で、同じ道を往復する「ピストン」はできるかぎり避け、「一筆書き」や縦走のようなコースをたどりたい。
臥龍山全景▼今回利用した交通機関
石見交通新広益線(おとな片道運賃2,140円)
行き)広島バスセンター(10:00)→八幡原(11:38)
帰り)八幡原(15:27)→広島バスセンター(17:03)
▼バス時刻表
こちらからご確認ください
石見交通ホームページ 益田 ~ 美都・戸河内 ~ 広島 (新広益線)
広島バスセンター 191号線・戸河内IC経由 益田行き
臥竜山で出会った初秋の風景
北広島町の八幡原バス停をスタートし、北麓の千町原から登り、西麓の聖湖キャンプ場側へ下山、国道191号を小一時間歩いて元のバス停に戻るプラン。総歩行距離は約8.5キロ、標高差は400メートルほど。
帰りのバスを考えると行動可能時間は約5時間だ。それほど無理なく歩き通せる計算だが、バスは1日2往復しかないので乗り遅れは許されない。
昼前にバスを降り、まずは登山口に向かう。
猛暑と長雨の夏が過ぎ、約2か月ぶりの山行とあって心が弾む。途中、たくさんのピンク色の花をつけた畑の横を通る。名物の「赤そば」の畑だ。
ちょうど開花時期だったのはラッキー。晩秋には町内のお店で新そばを味わえるそうだ。
20分ほどで登山口に着き、ススキの原を抜けて登山道は広葉樹の森の中へ。
一帯はツキノワグマの生息地なので、ザックに付けたクマよけ鈴を鳴らしながら歩く。
最初は比較的平坦で、数日前の大雨の影響なのか、道の一部は川のように水が流れていた。滑らないように注意しながら進む。
遠目に見る山容は穏やかだが、途中から直登に近い登りになって息が上がる。それでも、ブナやミズナラの樹林の中の空気はしっとりした肌感で心地よい。暑さが厳しくないのもありがたい。
小休止を交えながら、林道終点を経て最後の急斜面を登りきると山頂だ。
登山口からここまで1時間ちょっと。コースタイムは1時間30分だからかなり早く歩くことができたが、ちょっとオーバーペースか。
頂上標識の横には巨大な岩があるので登ってみる。手持ちの十年以上前のガイドブックには、「よじ登れば展望が得られる」とあったからだが、木々が伸びてしまったせいか八幡高原も枝葉の間にチラ見えする程度で眺望はさっぱり。残念だが仕方がない。早々に食事を済ませて下山にかかる。
臥龍山頂上 (C)HOME 樹林に囲まれた頂上広場。大岩の上に登っても眺望はなし (C)HOME気持ち良いブナ林の道を快調に下る。
秋の入り口らしく、登山道のあちこちにいろんなキノコが顔を出している。かつて図鑑で見た、毒キノコのテングダケ(多分)も見かけた。
国道に出る手前でやはり道が川のようになっているところもあったが、大きな問題はなし。無事聖湖キャンプ場側登山口に下山した。
退屈な国道歩きを40分。
道路は柴木川を三度横切る。この柴木川、少し下流の安芸太田町では地面を深く削って峡谷となり、特別名勝三段峡になる。ここ八幡高原では穏やかな表情を見せるごく普通の川だけに、その落差に不思議な感覚を覚える。
発車30分前の14時57分には無事八幡原バス停に帰着した。
時間に縛られる不便はあるが、ゆっくり休んで帰れるのも公共交通機関登山のうれしいところ。広島バスセンターに向かうバスに乗り込むと、心地よい疲労感とともにほどなく眠りに落ちた。
2021.9.5(日)取材 ≪掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください≫
還暦。50代後半になってから本格的に山登りを始めて4年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」