バスと電車と足で行くひろしま山日記 第99回鞆の浦・仙酔島トレッキング(福山市)

仙酔島・田ノ浦から見上げた大弥山

 

瀬戸内海の舟運が帆船中心だった時代、鞆の浦は風待ち、潮待ちの港として栄えた。奈良時代から史書に地名が現れ、戦国時代には織田信長に追われた室町幕府15代将軍足利義昭が滞在したり、幕末に京都を追放された三条実美ら尊王攘夷派の7人の公卿が長州へ落ち延びる途中に立ち寄ったりするなど、さまざまな歴史の舞台として名を残している。中でも沖合に浮かぶ仙酔島(せんすいじま)や弁天島の景観は、江戸時代、朝鮮国王が派遣した外交使節、朝鮮通信使が「日東第一形勝」(朝鮮より東で一番美しい景勝地)とたたえた。仙酔島には海岸線から最高峰大弥山(158.6メートル)を巡る遊歩道と登山道が整備されている。梅雨の晴れ間の週末、名勝の島をめぐるトレッキングに出かけた。

 

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ。瀬戸内クルージング尾道-鞆の浦は11月15日までの土・日・祝日のみ運航
行き)JR山陽線(おとな片道1520円)/横川(7:49)→(8:44)白市(8:58)→(9:31)糸崎(9:32)→(9:39)尾道
瀬戸内クルージング(おとな往復5000円)/尾道駅前桟橋(10:00)→(11:00)鞆の浦
福山市営渡船(おとな往復240円)/鞆の浦(11:10)→(11:15)仙酔島
帰り)福山市営渡船/仙酔島(13:40)→(13:45)鞆の浦
瀬戸内クルージング/鞆の浦(14:00)→(15:00)尾道駅前桟橋
JR山陽線(おとな片道1520円)/尾道(15:54)→(16:02)糸崎(16:08)→(17:35)横川

 

 


尾道から海路鞆の浦へ


鞆の浦へ公共交通で向かうには、JR福山駅から鞆鉄道の路線バスを利用するのが一般的だが、今回は尾道港から直接鞆港に乗り入れる瀬戸内クルージング社の航路を利用することにした。料金は往復割引で5000円(片道3000円)と少々値が張るが、美しい瀬戸内の景色を楽しめるのが魅力だ。

尾道駅前桟橋から高速船に乗り込む。尾道水道を抜け、松永湾の入り口を横切る。百島を過ぎると左手には常石造船の工場群。前方に本土と田島をつなぐ内海大橋(832メートル)が見えてきた。橋は直線でかけられるのが普通だが、この橋は大きく弧を描いている。地下の軟弱地盤を避けて橋脚を立てたため、このような珍しい構造になったのだそうだ。出航から40分ほどで沼隈半島の先端の断崖に立つ朱塗りのお堂が見えてきた。阿伏兎(あぶと)観音だ。現在のお堂は1570年に毛利輝元が建立したという。船は速度を落とし、写真撮影に便宜を図ってくれた。約1時間の快適なクルーズで鞆港に到着した。

 

尾道駅前桟橋と鞆の浦を結ぶ高速船

 

海上から常石造船所の工場群を見る

 

海上で大きくカーブする内海大橋

 

毛利輝元が建立したという阿伏兎観音

 


平成いろは丸で仙酔島に上陸、圧巻の五色岩


仙酔島に渡るには、鞆港から5分ほど歩いた東側の船着場から渡船に乗る。1867年に紀州藩の蒸気船と衝突して沈没し、坂本龍馬が鞆の浦で「万国公法」を根拠に巨額の賠償を要求したことで知られる「いろは丸」をモチーフにした「平成いろは丸」だ。出航から5分ほどで仙酔島に着いた。

 

鞆の浦と仙酔島を結ぶ平成いろは丸

 

今回は島の5つのピークを回る計画だ。まずは西端の御膳山(30メートル)を目指す。コンクリート舗装された遊歩道を上ること数分で東屋に。ここの眺望は今一つなので、少し下ったところにある展望台へ。目の前に弁財天を祀るお堂が立つ弁天島、その向こうに鞆の浦の市街地や平成いろは丸の船着場が見える。高さこそ低いがなかなかの景観だ。

 

御膳山展望台から弁天島と鞆の浦を望む

 

御膳山を下りると、田ノ浦の砂浜。見上げれば主峰の大弥山がどっしりとした姿を見せる。海岸線遊歩道に向かう。2021年の台風被害で損傷し、長らく全面通行止めになっていたが、今年2月に復旧工事が完了し、約5年ぶりに通行できるようになった。沿道では太古の火山活動で噴出した流紋岩質凝灰岩や火山活動の休止期に堆積した仙酔層、断層、海蝕洞などさまざまな地球の営みの跡を見ることができる。

 

田ノ浦の砂浜

 

仙酔島の最高峰・大弥山

 

仙酔島の成り立ちを探ることができる海岸線遊歩道

 

圧巻は遊歩道の終端近くにある五色岩だ。流紋岩質凝灰岩や溶結凝灰岩が風化し、岩石に含まれている鉄分が酸化するなどした赤や黄、黒、白、青の5色の岩が約200メートルにわたって続いている。地学好きにはこたえられない景観だ。

 

さまざまな色彩を見せる五色岩

 

五色岩の説明板

 


最南端の鳥ノ口から大弥山・中弥山・小弥山を縦走


遊歩道の終端は彦浦と呼ばれる砂浜になっている。砂浜を横切って山道に入り、10分ほど上ると東屋のある鳥ノ口展望台だ。島の最南端にあたり、燧灘が眼前に広がる。もやってはいるが、うっすらと四国も見える。なかなかの絶景だ。ここに至る道はあまり歩かれていない雰囲気だったが、せっかく仙酔島に来たのなら訪ねてみてほしい。

 

鳥ノ口展望台の東屋

 

鳥ノ口展望台から燧灘・四国方面を望む

 

次の目的地は島の最高峰の大弥山だ。来た道を引き返し、車道を少し上る赤岩展望台を経て平坦な道を10分ほど歩くと大弥山への登り口につく。ここからは標高差約100メートルの登山だ。それほど険しくはないのだが、直登の道なのでそれなりに息は上がる。15分ほどで山頂に着いた。

 

大弥山に向かう道

 

大弥山の山頂広場

 

大弥山から鞆の浦を見下ろす

 

山頂の広場は樹林に囲まれているが、東屋のある南側は眺望が開けている。とはいっても草が伸びているのでそれほど景色はよくない。ただ、御膳山展望台に比べると高さがあるので鞆の浦の全景を楽しむことができる。昼食休憩の後、稜線を歩いて中弥山(113メートル)、小弥山(47メートル)を回って下山した。

 

中弥山山頂の住吉神社の祠

 

小弥山の山頂。眺望はなし

 

船着場への道

 


さすがの日東第一形勝


平成いろは丸に乗船して鞆の浦に帰着。帰りの船の時間までは15分ほどある。見上げると高台に福禅寺の「対潮楼」。1690年頃に客殿として建てられたもので、賓客の宿舎として使われたという。朝鮮通信使従事官の李邦彦がここからの眺めを「日東第一形勝」と称賛したのは有名な話。せっかくなので見ていこう。

入場料300円を払い、緋毛氈の敷かれた座敷に上がって仙酔島と弁天島を見る。大弥山を背景に弁天堂が重なり、高度感も絶妙。窓枠が額縁の役割を果たしており、まさに絶景だ。下から見た景色もよかったが、やはりここからの眺めは別格だ。大弥山をはじめ、仙酔島をぐるり回ってきただけに満足感もひとしおだった。

 

福禅寺対潮楼からの「日東第一形勝」の眺め

 

2026.6.13(土)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

 

ライター えむ
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
LINE はてブ Pocket