暮らしの中で磨かれ続ける、モダンで遊び心ある銅器を|いゑもり・矢竹純さん
工房の棚に飾られた、青い湯沸(ゆわかし)。
ふっくらしたフォルムと深海のような色に思わず目を奪われます。
「コーヒーやお茶が好きなので、飲み物に関する道具をよく作ります。好きなものだと、『ここがこんな風だと使いやすいよね』とイメージも湧きやすいので」とほほ笑む矢竹純さん。
金属の板を金鎚で叩くことで立体にする鍛金技法を使い、妻の葵さんとともに銅の生活工芸品を制作しています。
高校から美術の道へ。金属工芸との出合い
東京都出身の矢竹さんが金属工芸に出合ったのは18年前。
美術に興味をもって進学した、東京都立工芸高等学校でのことでした。
「中学生の頃から絵が好きだったのですが、当時は周りの人にはあまり言っていませんでした。それでもやっぱり絵の勉強がしたくて入学したら、ジャンルの幅広さゆえの難しさや上手な人の多さに気づいたんです。そんな中で特に興味を持ったのが、授業で習った金属の立体物。細かい作業で、時間をかけて何かを作るというのが僕の性格にマッチしていて、これがいいなと」
矢竹さん
授業で鍛金技法を学んだこともありましたが、そのときは「あまりピンとこなかった」そう。
「こうやるんだ、と見せられても、板が立体になっていくイメージが全く湧かなかったんです。叩いても、立ち上がらずにひたすら伸びていく。当時はよく分からないまま授業が終わってしまって、鍛金は面白くないと思っていました」
高校時代はアクセサリーやレリーフに使われる彫金技法を学び、広島市立大学芸術学部の金属造形専攻へ。
授業で再び鍛金に触れ、その面白さに気づいたそうです。
「叩き方や器が立ち上がる仕組みを基礎からもう一度教えてもらって『ああ、こういうことだったのか!』と分かって。そこからどんどん楽しくなって、彫金と鍛金を組み合わせた作品を作るようになりました。繊細な彫金は小さめの作品が多いのに対して、鍛金では大きな作品が作れるのも魅力的でした」
大学卒業後は、200年以上続く新潟県の伝統工芸会社に就職。
金づちで銅板を打ち起こし、叩きながら縮めていく「鎚起(ついき)」の技法を約7年学び、2022年に独立。
廿日市市栗栖に工房を構えました。
素早い判断と化学変化が作品の表情を生む
「作品を作るときに心がけているのは、まず使いやすいこと。そのうえで、自分なりの表現として少しモダンな雰囲気を加えたいと思っています」
キューブのような形のポットや多角形の急須、白と青のコントラストが美しい、流氷をイメージしたドリップポット。
端正でいてどこか温かい作品は、現代の暮らしにすっきりと溶け込みます。
デザインを考えるときは、美術館で鑑賞した違うジャンルの作品や、アンティーク市で購入した陶器などを参考にすることもあるそう。
「僕は動植物がすごく好き。生き物にインスピレーションを受けたものもありますよ」
(提供:矢竹純)
矢竹さんが見せてくれたのは、ニシキゴイの模様のぐい呑み。
金づちで連打して作る玉を連ねてうろこのような質感にし、その後、赤、黒、銀の色を引き出していくそうです。
「銅を叩くときには、狙ったところに的確に金づちを当てる技術が必要です。ただ、叩きすぎると硬くなって模様が出なくなったり歪んだりしてしまうので、素早く判断しながら進めていきます。銅はすごくさびやすくて、酸化を利用した着色の技法がたくさんあるのも面白いところ。例えば硫黄につけると黒、バーナーで熱し、ホウ砂水溶液に浸けて急冷すると赤。銀の部分はスズを表面に塗ってメッキしています」
この作品の場合、形を作るのに1日、色付けには3日ほどかかったそう。
(提供:矢竹純)
「鍛金と聞くと金づちで金属を叩いているイメージが強いと思うのですが、作ったパーツを組み合わせたり、表面を磨いたり、いろいろな工程があります。技法もたくさんあるので、現状で終わりではなく、それを掛け合わせることでまだまだ新たな表現を作っていける。僕は色を組み合わせるのが好きなので、動物の柄のような遊び心のあるものも作っていきたいと考えています」
葵さんの作品の中には、注ぎ口と銅がひとつなぎになった湯沸もあります。
まずは側面を立ち上げ、矢竹さんが手作りした専用の当て金を使って注ぎ口を伸ばしていくそう。
ふたを開けて中をのぞくと、その構造は思わず見入ってしまうほどなめらか。
一枚の板を立ち上げて日常で使えるものへと変えていく、揺るぎない技術と時間の積み重ねを想像します。
ひとつなぎの急須 花筵(はなむしろ)。成形は葵さん、模様は矢竹さんが手掛けた合作。(提供:矢竹純)
普段はイベントや工房での作品販売に加え、オーダーも受付中。
インスタグラムのダイレクトメッセージでもオーダーの相談をすることができます。
一生ものとして作品を買う人も多く、「手で作っている強みを生かして、ちょっとしたアレンジや色の変更など、一人一人の理想に応えたい」と矢竹さん。
「あなたに頼んでよかったと言われたり、お手紙をいただいたりすることもあります。実際に使っているところの写真を見せてくださるのも嬉しいですね」
これからさらに力を入れていきたいことを尋ねると、手のひらに乗るほどの小さな急須を見せてくれた矢竹さん。
「鍋のように壁が垂直なものは作りやすいのですが、やかんのように口を内側に絞っていくのはまた時間がかかるんです。でも、それが何か好きなんですよね。小さくなると道具が入りづらかったり、叩きにくかったり、さらに難しくなるのですが、こういったものも作っていきたいなと」
1人用急須(提供:矢竹純)
矢竹さんの作品は、やかんやカップに加え、花器やジョウロ、アクセサリーなどさまざま。
「僕は、銅器は美術品ではなくて工芸品だと思っています。新品のきれいさもいいですが、傷が入ったり、火にかけてススがついたりしたのも格好いい。丈夫なのでたくさん使って、味が出てくる様子を楽しんでいただきたいです」
いゑもりの基本情報
<所在地>
広島県廿日市市栗栖260-1
<TEL>
080-3490-3921
<営業時間>
完全予約制
<オンラインショップ>
https://iemori.base.shop/
<SNS>
Instagram:@iemori_duo
ライター/時盛郁子
※紹介している内容は2026年1月取材時点のものです。公開後内容が変更している可能性があります。