家具に流れる時間を思い、静かなひと編みに思いを込めて|sumu.・杉原 祥太さん
小瀬川沿いに立つ1軒の古民家。
蔵戸の上には、まるで満月のような明かりが一つ。
グレーの壁の足元には、ざっくりと石が積まれています。
(提供:杉原祥太)
2023年、廿日市市浅原にオープンした「sumu.」。
店主の杉原祥太さんが、ペーパーコードの張り替えをはじめとする家具のリペアを行っています。
杉原さん
「直して使う」ことの楽しさと美しさ
店のコンセプトは「住むように、暮らすように」。
「家と同じサイズの空間で家具を見ていただきたいという思いがあったので、廿日市市の空き家バンクで見つけた古民家を自分でリノベーションしました」と杉原さん。
蔵戸を開けたら少し身をかがめて、ほんのりと暗い通路を通り、メインの空間へ。
「最初に内覧に来たときから頭の中にあった」という空間を目指し、約9カ月かけて少しずつ修繕を行ったそうです。
(提供:杉原祥太)
メインの空間は約20畳。
壁は白の漆喰、床はオークのフローリングで静かな余白を感じる空間です。
(提供:杉原祥太)
小瀬川に面した窓は、横に置かれた椅子に座ると川向こうの山まで見える高さにしたのがこだわり。
車が行き交う道路からは遠く、川の流れや風に揺れる草木を眺めていると、より一層穏やかな時間に包まれるようです。
「開放感がある景色もこの場所を選んだ理由の一つ。近所の方にもすごく応援してもらっていて、改装をしていたときは散歩の途中でよく進み具合を見に来てくれる人もいました。今もときどき野菜をもらったりするんです」
壁際に並ぶのは、1960年代に作られたデンマークのビューローやキャビネット、リペアを待ついくつかの椅子。
「椅子はお客さまから依頼を受けて対応しますが、ビューローやキャビネットなどは販売しています。店には当時の姿のまま置いていて、この家具が欲しいという方がいらっしゃったらそこからリペアして、一番いい状態でお渡しすることにしています」
ビューローの中には、当時から使われている引き出しの鍵も残されています。
もともと古い家具が好きだったという杉原さん。
社会人になった頃から、趣味として古い家具を買って直していたそうです。
「ヴィンテージ家具の魅力は経年変化ですが、この表情は人間の手で作れるものではありません。例えば、新しい椅子を今買ったとしても、100年後の姿を見ることはできないですよね。それなら僕は60年前の家具を買って、直しながら40年間使うことで100年後の家具を育てたい、その姿を見てみたいと思うんです」
店で扱う北欧の家具の中には、「直して使う」文化がにじむものも。
「ふたを開けると、使われていた跡やちょっと修理した跡が残っている。そういうのを見つけると、すごくすてきだなと思います」
これからの暮らしに長く寄り添えるように
杉原さんが得意とするのは、100年以上続くデンマークの家具メーカー「カール・ハンセン&サン」のYチェアの張り替え。
造形の美しさと座り心地の良さが人気の、世界各地で愛される一脚です。
「僕の中に『デザイナーズチェアといえばこの椅子』というイメージがあって、自分で最初に買った思い出の椅子なんです。昔、座面を張り替えたくて広島県内でお店を探したのですが見つからなくて。それなら自分でやってみようと思って、本を見ながら何十時間もかけて直したのが張り替えを始めたきっかけです」
座面の材料は、「ペーパーコード」と呼ばれる紙ひも。
北欧で作られた、樹脂を含んだものを使用しています。
手作りの台にYチェアをしっかりと固定し、その周囲を杉原さんが回りながら、座面の外側から内側に向かって編んでいきます。
ペーパーコードがすれる音、床を打つ音。
紐の幅は3mmほどです。
「地道でしょう」と笑う杉原さんの手元を見ると、手袋から親指だけが顔を出しています。
「目の詰まり具合や中心に向かうラインがずれないように、親指の腹で力加減を感じるのが大事なんです。ラタンや布の張り替えも経験してきましたが、ペーパーコードは同じ椅子のフレームでも毎回仕上がりが微妙に違うのが面白くて難しい。握力や集中力などその日のコンディションに影響を受けることもありますが、僕は指先の感覚一つで座面を編むのが格好いいなと思います」
リペアの依頼があるYチェアの状態はさまざま。
背面の色や座面の変化の一つ一つにその椅子と持ち主の物語が詰まっています。
椅子を20年以上愛用する60~70代の人が「広島には張り替えられるところがないと思っていたけれど、人づてにここを知った」と店を訪れることも増えてきているそうです。
「椅子を持ってきてもらったら、コーヒーを飲みながら購入したときのことやどんなことがあったのかなどを1時間くらいうかがうようにしています。編むときは丁寧に、乱れが出ないよう、ひと編みひと編みに集中。少しでもずれたりゆがんだりしていると感じたら、全部ほどいてやり直します。この先10年は使ってもらうので、お客さまのお話やお顔を思い浮かべて、納得いくものをお届けできるよう頑張っています」
張り替えは店で行うほか、出張して実演会などをすることもあるそう。
「20年以上Yチェアを使い続けているご夫妻に『初めて張り替えをしているところを見て、久しぶりに感動した』と言ってもらったことがあって。その後で実際に依頼をいただいて、張り替えた椅子をお届けしたときはすごく喜んでくださいました」
(提供:杉原祥太)
最近はYチェアの張り替えだけでなく、ペーパーコードを取り入れたカーテンタッセルなどの小物づくりにも取り組んでいます。
カーテンタッセル(提供:杉原祥太)
設計士などからの依頼で、ペーパーコードの建具を作ることもあるそう。
「椅子の座面に使うものという常識を覆して、ペーパーコードの幅を広げていけたら。唯一無二の存在を目指したいと思っています」
ペーパーコードの建具(提供:杉原祥太)
sumu.の基本情報
<所在地>
広島県廿日市市浅原2763
<TEL>
090-2115-0387
<営業時間>
アポイント制(ご来店の際は事前にご連絡ください)
<公式サイト>
https://www.sumu-interior.com/
<SNS>
Instagram:@sumu_hiroshima
ライター/時盛郁子
※紹介している内容は2026年1月取材時点のものです。公開後内容が変更している可能性があります。