「今できること」から生まれた、変化を楽しみ、愛おしむかばん|Crude.yamada・山田文子さん
工房の窓から見えるのは、キラキラと輝く瀬戸内海。
遠くには数隻のフェリーがゆっくりと行き交っています。
「嚴島神社の鳥居も見えるんですよ。工房の前にシカやキジが来てびっくりすることもあります。海も山も近くて、自然が豊かなところです」とほほ笑むのは、山田文子さん。
宮島の対岸で、帆布を使ったかばん作りを行っています。
山田さん
思わぬところで出合ったかばん作りの面白さ
昔からものづくりが好きで、美術系の短期大学に進学した山田さん。
卒業後は飲食店や服飾店を展開する会社に就職し、飲食部門で働いていました。
しかし、雑誌で読んだ靴職人の記事に感銘を受け「やっぱりものづくりがしたい」と退職。
兵庫県神戸市にある靴職人の教室に短期間通いました。
「どうしたら靴職人になれるんだろうときっかけを探して通い始めたのですが、靴作りの難しさを痛感しました。工程が複雑で、道具もたくさん必要で、靴を作れる人は何でも作れるのではと感じたくらい高度な技術が必要だったんです。自分のスキルではとてもじゃないけど務まらないと思って、広島に戻ってきました」
それでも忘れられなかった靴の仕事。
「一から作るのではなく、縫製だけの仕事もある」と聞いた山田さんは「ポストミシン」と呼ばれる靴向けのミシンを購入しました。
ポストミシン
しかし、仕事を始めるには技術はもちろん、人とのつながりも必要。
なかなか仕事が見つからない日々が続いたそうです。
ところが、その頃再会した前職の社長から思わぬ誘いがありました。
「自分の都合で退職したので、神戸で勉強してきたことや帰ってきたことを報告に行ったんです。そうしたら『明日から服飾部門にかばんを作りに来て』と言ってもらって。驚いたけれどありがたいと思って、もう一度お世話になることにしました」
初めて経験するかばん作りは「想像以上に面白かった」と山田さん。
「かばんを買うときはデザインや機能性を見て何となく選んでいたのですが、持ち手の幅、マチの大きさ、ポケットの数などたくさんの要素が関係していることに気づきました。作り手になって初めて、かばんはこんなに奥が深いのかと。考えることがたくさんあるのがすごく楽しかった」
約2年間、かばんのデザインと縫製を担当。
出産を機に退職し、2017年に「Crude.yamada」を立ち上げました。
使いやすさと「好き」を追求したかたちに
かばんを作るときに大切にしているのは、シンプルで使いやすく、誰にでも手に取ってもらいやすいデザインであること。
一番人気のトートバッグは、革や金具がざっくりとした帆布の質感を引き立てています。
「もともと革が好きで、靴職人に憧れていたこともあって革が使いたかったんです。持ち手を留めている金具は、昔アメリカなどでよく使われていた『コッパーリベット』と呼ばれるもの。帆布と革に銅の金具を通して、一つ一つ叩いて成形しています。厚い生地も革もしっかり留まるので、心配なく使っていただけます」
かばんの中はできるだけ凹凸をなくすことで、物を探したり、出し入れしたりしやすいつくりに。
細やかな心遣いが、毎日何度も繰り返す動作をスムーズにしてくれます。
横に長い形がユニークな「shipトート」も、使いやすさを意識したもの。
「よく『何を入れるんですか?』と聞かれるのですが、財布やポーチなどを入れて普通のかばんと同じように使ってもらえたら。横長は物も探しやすいですし、私自身もこの形が好き。だからそれを大胆にやってみようと思って作りました」
カラーはベージュと黒のほか、客船のような生成と黒、幕末の黒船をイメージした黒のみの組み合わせも展開。
この形だからこそふくらむイメージをもとに、お気に入りを探すのも楽しそうです。
shipトート
筒状の「ボンサック」は、ショルダーバッグ、ボディバッグまたはリュックとして使うことができるかばんです。
小さめに見えますが、500mlのペットボトルも入るほどの収納力。
ボンサック
かばんの内側で紐を結ぶことで長さを調整したり、使うシーンに応じて巾着とファスナーを使い分けたり。
ここにも、使いやすさにこだわった仕掛けが盛りだくさんです。
味が出る帆布が主役 使うことで自分のものに
山田さんが使う帆布は、生地にロウを染み込ませたもの。
指ではじくとポンと跳ね返されてしまうほど、硬く丈夫です。
「この帆布を選んだのは、かばんの形を保ったままポストミシンで縫えるからなんです。このミシンは針が下りてくるところが突き出ていて、立体には最適なのですが、柔らかい生地が縫えない。どうすればかばんが作れるかと考えて、この生地にたどり着きました」
かばんの外側に顔を出すかわいらしい三角マチが作れるのも、このミシンだからこそ。
通常は薄い生地に変えることが多い底とマチの二重になっている部分にも同じ厚みの帆布を使っているため、背の高いかばんもしっかりと自立します。
最初は硬くてもだんだんと味が出てくるのも帆布の魅力。
少しずつ柔らかくなったり、色が変わってきたり。
銅や真鍮の金具、革の持ち手も、味わい深い色合いに変化します。
「新しいものがクタッとしてくると、“自分のもの”になった気がしませんか? 少し破れてしまっても、修理したらもっと愛着が湧く。もともとヴィンテージが好きで、きれいで硬かった革や布がだんだんと柔らかくなっていく姿が愛おしくてたまらないんです。使ううちに変わっていく風合いを楽しんでもらえるといいなと思っています」
山田さんが大切にするヴィンテージのかばん
「あのとき靴職人を目指していなかったらポストミシンも買っていないし、かばんの生地もきっと違うものを選んでいたはず。自分が持っているもので何ができるかなと模索していたら今に行きついた感じです」と山田さん。
「普段はイベントでの対面販売が多いのですが、お客さまがどのかばんにしようか迷ってくださる姿が好きなんです。『ごめんなさい、こんなに迷っちゃって』と言ってもらうけれど、どれもすてきだと思ってもらえているのなら、すごくうれしい。いろいろなニーズを取り入れて、今できることを考えながら、より良いものを作っていきたいです」
Crude.yamadaの基本情報
<所在地>
広島県廿日市市(詳細非公表)
<MAIL>
crude.yamada@gmail.com
<オンラインショップ>
https://crude.thebase.in/
<公式SNS>
Instagram:@crude.yamada
ライター/時盛郁子
※紹介している内容は2026年1月取材時点のものです。公開後内容が変更している可能性があります。