確かな技術とつながりで家具の可能性をどこまでも広げる|野地木工所・野地由孝さん
丸太とトタンで作られたガレージの入り口に掲げられた「野地木工」の看板。
中へ進むと、出来たての家具をトラックに乗せている真っ最中でした。
工場の前には、その様子を見守るようにいくつかの機械が並んでいます。
頑丈で実直。そんな言葉が似合う表情は、長くこの場所で活躍してきたことを想像させます。
父が始めた工場で受け継いだ技術とともに
1970年、廿日市市深江で創業した「野地木工所」。
現在は代表の野地由孝さんと弟の東進さんがオーダー家具の制作を行っています。
「僕が5歳の頃、父がこの工場を始めました。もともとは婚礼家具を作る会社に勤めていたのですが、独立してオーダー家具を作ろうと。当時の僕にとっては、工場も家のようなもの。学校から帰ってきたらいつもここで遊んでいたので、大きくなったらこの仕事をしようと自然に思うようになっていました」と野地さん。
高校を卒業した後、約1年間自動車関連の会社で働き、「野地木工所」に戻って技術を磨いてきました。
野地さん
家具の種類や素材は限定せず、「何でも注文があったものを作る」のがこの工場のスタイル。
同じものは一つとないことが売りであり、作り手としての難しさでもあったそうです。
「作るものが毎日違ううえ、出来上がったものを組み立てるのではなくて、ベニヤで板を組むところから始めないといけない。子どもの頃から見ていても、やっぱりすぐにはできませんでした」
野地さんの父の信条は「技術は見て盗むもの」。
技術の習得には20年以上かかったそうです。
家具の制作も修理も真心をこめて
地域に住む人や広島県内の企業などから入ってくるオーダーは、その方法も内容もさまざま。
個人の場合は希望するイメージを聞き取り、時には提案を行いながら理想の家具を実現すること、ハウスメーカーなどの場合は提供された設計書の通りに正しく制作することが求められます。
「既製品であれば店頭で確認してから買うことができますが、オーダーの場合は完成品のイメージがお客さまの頭の中にしかない。個人のお客さまの場合は、まずは僕が話を聞いて簡単なスケッチを描く。それを弟が図面にして、またお客さまに見てもらいます。想像した場所に、想像したものを作るために、素材やサイズ、塗装の種類などをしっかり打ち合わせします」
ロフトに上がる階段の側面にテレビ台やデスクを組み込んだ(提供:野地由孝)
テレビ台やデスクを組み込んだ階段や、木目を生かした温かみのあるキッチン、建具との統一感が美しい洗面台。
これまでに野地さんたちが制作してきた家具を見ると、その多様さに気づきます。
(提供:野地由孝)
素材も柄も、サイズも決まっていないからこそ、雰囲気も設置場所も思いのまま。
採寸、設計、組み立てはもちろん、塗装や取り付けまで一貫して行っているのも強みです。
(提供:野地由孝)
ハウスメーカー向けの家具は、洗濯機や冷蔵庫など、設置する家電製品がぴったりと収まるサイズで制作することも多いそう。
オーダーメードの強みが存分に発揮される分野です。
乾燥機の大きさに合わせて作られたランドリーの棚
制作途中のキッチンを見せてもらうと、角材をベニヤ板で挟んだものが。
「これはキッチンの棚になります。棚受けを付けるところには、こうやって芯を挟んでいます」
家具を使うときには見えない部分も、緻密な設計と確かな技術によって支えられていることに気づきます。
今でも「何でも注文があったものを作る」姿勢は変えていないそう。
これまでには、今は作る人がいなくなったというろかい舟の櫓(ろ)など、家具ではないものを作ったことも。
無垢のテーブルを塗装し直したり、アンティークの椅子の座面を張り替えたり、家具のメンテナンスやリメイクの相談も受け付けています。
工場で対応することが難しい場合は、長く付き合ってきた材木店や工務店などと連携。
家具やものづくりに関する相談を一手に引き受けています。
先代の頃から変わらず大切にしているのは、「真心を込めて作ること」。
「どんなに忙しくても、目の前のことをどんどん流していかないようにしています。一つ一つ、お客さまが使われるところを想像したり、自分が使うとしたらどう思うだろうと考えたりすると、隅々まで意識が行き渡ります」
無垢のテーブルなどを作ったときには、隅に「noji」の焼き印を押すこともあるそう。
この場所で丁寧に作られた家具であることを、静かに伝えています。
仕事の中でうれしさを感じる瞬間は、と尋ねると「家具を届けたときにお客さまが喜ぶのが一番。引き渡し前の新築の家に行くことも多くて、僕はなかなかその場面には出合えないけれど」と笑う野地さん。
「でも、想像通りとか、想像以上とか言ってもらえたら、やっぱりうれしい」
家具作りへの情熱が、静かにともっています。
野地木工所の基本情報
<所在地>
広島県廿日市市深江3-12-18
<TEL>
0829-56-0335
<営業時間>
8:00~17:30
<定休日>
土日祝
<公式サイト>
https://www.nojimokko.com/
ライター/時盛郁子
※紹介している内容は2026年1月取材時点のものです。公開後内容が変更している可能性があります。