木の美しさを磨き、引き立て、多様な暮らしになじむテーブルに|一枚板のテーブル工房 きくら・常藤辰徳さん
流れるような年輪の中に力強い節が残るブラックウォールナットや、水面の揺らぎのような模様が目を引く栃(とち)、赤みの強い木肌と整った木目が特徴のボセ。
木の香りが漂う店内には、天井に届くほど大きな一枚板がずらりと並んでいます。
壁に立てかけてあるとその迫力に圧倒されますが、テーブルに変わるとぐんと優しい表情に。
木の美しさはそのままに、心地よい存在感を放っています。
祖父と父の背中を追い、銘木と家具作りの世界へ
「一枚板のテーブル工房 きくら」は、1960年に「常藤家具製作所」として創業。
当初はメーカーに卸す家具の生産を行っていましたが、約25年前にオーダーメード家具の制作に舵を切りました。
「メインは一枚板のテーブルですが、椅子やたんす、器などを作ることもあります。無垢材の家具や小物であれば何でも作りますよ」と話すのは、三代目の常藤辰徳さん。
社長である祖父の善喜さんや父の鈴木徳俊さんとともに、一枚一枚表情や性質が異なる木や、家具作りに向き合っています。
店頭に並ぶ無垢材のカップ
栃のカッティングボード
工場は、創業時に七尾中学校の木造校舎を解体移築したもの。
窓から光が差し込むと、放課後のような懐かしい雰囲気に包まれます。
のこぎりで木を切ってパズルを作るなど、子どもの頃から工場で遊んでいたという常藤さん。
中学卒業後は、木工芸を学ぶ北海道おといねっぷ美術工芸高等学校に進学しました。
「ちょっとみんなと違うことしてみようかな、というくらいで。そんなに深くは考えていなかったんです」
常藤さんは笑いますが、15歳での大きな決断に家具作りへの熱意がにじみます。
常藤さん
その後、宮大工や家具職人を育てる富山県の職藝学院や建具屋で修業。
22歳のとき、廿日市市に戻ってきました。
「学校や富山での修業時代には、僕にとって“作ること”が一番大切でした。でも、今は接客や営業の仕事も同じくらい大切。いいものを作るだけではなく、お客さまに見てもらうためにはどうすればいいのか。両親や異業種の方にも相談しながら、試行錯誤しています」
テーブルになる一枚板は、岐阜県などの銘木市場で常藤さんが自ら買い付けます。
木目はどれだけ詰まっているか、節はあるか、割れたり反ったりしそうではないか。
そして何より、長く使う家具の表情として選んでもらえるかどうか。
数えきれないほどの項目を確認しながら、一枚一枚目利きをし、落札していくそうです。
「僕が特に好きなのは白い栃。年輪の色が濃かったり薄かったり、どの木にもそれぞれの表情があるのですが、この木にしか出てこない模様があるんです。光が当たったときにキラキラするような。繊維が細かくて触ったときのすべすべした感じもすごく気持ちいい。たくさん流通しているものではないですが、銘木業界では今すごく人気がある木です」
栃の木の一枚板。両側に水面の揺らぎのような模様が見える
初めて銘木市場に行ったときは「すごくワクワクした」と常藤さん。
「世界中から集まった樹齢数百年の木の板が何百枚と並んでいるんです。それが毎月開かれて、大量の板が出入りしている。すごい世界ですよ」
機械の力と伝統の道具を掛け合わせて
買い付けた板は水分を多く含んでいるため、割れたり反ったりしないよう注意しながら、水分量が10パーセント台になるまで自然乾燥させます。
平均して1年から2年ほどですが、木によっては10年以上かかることも。
その後、エアコンなどで乾燥する室内でも割れないように人工乾燥機で調整。
店頭に並べ、注文が入った後に加工を始めます。
乾燥による反りや曲がりは、CNCというコンピューター制御の機械で素早くフラットに。
その後はやすりをかけ、機械で削った跡や細かなささくれをなくしていきます。
さらに、仕上げにかんなをかけるのが「きくら」のこだわり。
表面を一層なめらかにし、いつまでも触っていたくなるような手触りや木目の美しさを引き出します。
「僕はかんなやのこぎりなど、伝統的な道具を使った手加工も大切にしています。生産性を上げることも重要ですが、やっぱり手加工だからこそたどり着ける仕上がりの良さがある。天板1枚を仕上げるのには約3日かかりますが、その大半はかんながけです。テーブルの場合は、何百回、何千回と削っています。かんながけは学校で学んだり、父から教わったりもしたのですが、木工職人が全国から集まる『削ろう会』という大会でもいろいろな人に新しい技術を教えてもらいました」
着色はせず、植物性のオイルを重ね塗りして完成。
木そのものの艶が引き立ち、光が当たると柔らかな空気を漂わせます。
脚は木だけでなく、スチールと組み合わせることもあります。
「木の素材感を生かした仕上げがうちのテーブルの特長。自然な艶なので、現代の暮らしや洋風のリビングにもよくなじむと思います」
店頭に展示されているテーブルを見ると、椅子の種類がバラバラであることに気づきます。
不思議とまとまりがあるのは、それぞれに静かな木の温もりを感じるからこそ。
「最近は揃いの椅子ではなく、それぞれが好きな椅子にするというお客さまも多いです。座り心地は一脚一脚違うので、いろいろと試してお気に入りのマイチェアを選んでもらえたら」
「一生もの」としていつまでも愛されるように
何百年も生きてきた木と出合い、長い時間をかけてその美しさを引き出したテーブルは一生もの。
「お客さまが選んだ木をテーブルに仕上げたとき『あの木がこんなにきれいになるんだ!』と喜んでいただけるよう、毎回『行けるところまで行こう』と気合が入ります。お客さまのイメージをしっかり感じ取ったら、やっぱりそれを超えていきたい。愛着を持っていつまでも使ってもらえるよう、引き出しなど細部の使いやすさも意識しています」
購入後のメンテナンスももちろん可能で、テーブルに続いて学習机など他の家具を注文する人も多いそうです。
「僕がここに帰ってきたばかりの頃にテーブルを納品したお客さまが、今も毎年注文をしてくださるんです。こんなふうに、長く続くありがたいお付き合いを大切にしていきたい」
三代にわたって、確かな技術と温かな気持ちが受け継がれています。
一枚板のテーブル工房 きくらの基本情報
<所在地>
広島県廿日市市宮内4188-2
<TEL>
080-4263-2479
<営業時間>
10:00〜17:00
<定休日>
水・木曜日
<公式サイト>
https://www.kikura.info/
<SNS>
Instagram:@tatsunori_tsunetou
ライター/時盛郁子
※紹介している内容は2026年1月取材時点のものです。公開後内容が変更している可能性があります。