ガラスの力を信じて任せる「10分の勝負」で個性ある器を|吹きガラス工房Fuji321・藤島孝臣さん

「窯の中の温度は1300度くらい。窯から出して時間を置いたり、何かに触れさせたりすることでガラスは固まっていきます」

説明しながら、棒の先にクルクルとガラスを巻く藤島孝臣さん。

 

吹きガラス工房Fuji321 ガラスを巻く様子

 

熱せられオレンジ色になっていたガラスの色が、瞬く間に透明に変わっていきます。

「この状態だと、約800度」

作業台にガラスを当てると、「コン」と音がします。

水あめ状のガラスが固まるまで約20秒。

想像を超える、その速さに驚きます。

 

まるで「手品のよう」な吹きガラスの技に魅せられて

子どもの頃から、キラキラ光るものやガラスが好きだったという藤島さん。

通学路でガラスのかけらを見つけると、拾っては太陽にかざして眺めていたそうです。

大学卒業後は、「ものづくりに関わりながら、体を動かす仕事がしたい」と自動車のカスタムや塗装を行う会社に就職。

しかし、休日に遊びに行った「ガラスの里」で、吹きガラスの製造工程に心を奪われたといいます。

「吹きガラスの窯の前で、職人さんたちがコップを作っていたんです。10分くらいで一つの作品ができていて、手品みたいで。自分もやってみたくて、すぐに仕事を辞めて沖縄に行きました」

 

吹きガラス工房Fuji321 藤島さん 藤島さん

 

沖縄を選んだ理由は、海が好きだったことと、「自分の性格上、つらいことがあったら逃げてしまうから」。

飛行機は使わず、車に日用品を乗せて下道とフェリーで移動することで「簡単には帰れない」と自分を追い込んだそうです。

沖縄では約10軒の工房を見学。

海のそばに立つ、オープンして3カ月ほどの工房に頼み込み、弟子入りしました。

 

吹きガラス工房Fuji321 花器

 

耳慣れない方言や、職人の世界の厳しさ、広島を離れた寂しさ。

最初の半年は、休憩時間に海を見ながら「帰りたい」と泣いたこともあったそうです。

しかし、沖縄だからこそ得られた経験もありました。

「僕が修業していたのは、国際通りで売られているようなガラスのお土産を作る工房でした。大量に作るから、速さを求められる。制作のスピードは今に生きていると思います」

 

 

10年ほど修業を続け、広島に戻って約2年間、ガラス作家の故・舩木倭帆さんに師事。

技術とデザインにさらに磨きをかけ、2014年に独立しました。

工房を構えたのは、廿日市市原の山の中。

「海の近くに工房を作りたいと思ったこともあったのですが、ここも自然の中で制作に没頭できるいい環境です。木に囲まれているので、花器を作るときには枝物が似合うものにするなど、この環境だからこそ生まれるものもあります」

 

 

人の手とガラスの力で暮らしになじむ器を作る

工房には、皿や花器、小さなオブジェなど、さまざまな作品が並んでいます。

透明はもちろん、白や黒、落ち着いたグリーンのものも。

暮らしになじむ自然な色や風合いは、どこか温かな雰囲気を感じさせます。

 

 

「ガラスは温度を上げれば上げるほどきれいになる性質があるのですが、そうすると人の手で作られたものから遠ざかってしまうイメージがあって……。いろいろなことが機械化されていく中、人の手ではないと作れないものは貴重になっていくはず。少し気泡を残すなど、“きれいに作り過ぎない”よう心がけています。着色には鉄やコバルトなどの鉱物を使うのですが、固まるのが速く、扱いが難しい黒にも挑戦しています」 

 

吹きガラス工房Fuji321 花器

 

窓辺に置かれた脚付きの花瓶は、優美な表情が印象的。

「お花が主役になるよう、主張しすぎないデザインにしています」と藤島さん。

植物の本数が少なくてもバランスがとりやすいよう、口は少し小さめに。

高さがある分、枝の流れが美しい植物を垂らして飾ることもできます。

 

吹きガラス工房Fuji321 ワイングラス

 

テーブルの上のワイングラスは、首をかしげて隣のグラスに話しかけているよう。

同じシリーズでも、器の口の広がりや脚の高さ、模様などが少しずつ違うのが藤島さんの作品の特徴です。

「今は器をセットで買う方が少なくなってきているので、きっちりと形をそろえるのではなくて、使う方それぞれの好みに応じて選んでもらえるものを作りたいと思っています。お皿は正円ではなく、あえて少し楕円に。使いやすさは保ちながら、人が作るからこそ出る味のある形を大切にしています」

 

 

しかし、その形は人の手だけで生み出せるものではないそう。

「ガラスの仕上がりは、作る前にある程度予期することができます。でも、その仕上がりを自分で作り出すと作為が生まれてしまう。自分は少し力を抜いて、重力や遠心力を利用しながらガラスに任せることも大切です。気候やガラスの温度に息を合わせて、うまくいった、次はこうしてみよう、というのを10分おきに繰り返していく。スポーツみたいですよ。吹きガラスを初めて20年以上になりますが、本当に難しくて、日々勉強です。でも、それが面白い」

 

広島ならではのつながりを作品に閉じ込めて

藤島さんの作品には、広島ならではの素材を取り入れたものもあります。

まるで陶器のような質感の酒器に使われているのは、廿日市市のカキの殻。

殻を砕いたり焼いたりして作った粉や石をガラスにまぶして吹くと、ざらざらとした表情とランダムな模様が生まれるそうです。

 

カキの殻を使った酒器

 

リングスタンドの中に閉じ込めているのは、折り鶴の灰。

内側から光を放つような、幻想的な美しさをたたえています。

 

折り鶴の灰を使ったリングスタンド(左)

 

「平和記念公園に捧げられた折り鶴を、宮島のお寺でお焚き上げしていただいたものを使っています。リングスタンドの中の渦は、灰をガラスに加えて気泡を作る技法と、ガラスを巻くときの回転を利用して作っています」

 

吹きガラス工房Fuji321 制作の様子

 

西日本を走る人気の寝台列車で使われる器を作るなど、日本や広島の魅力を発信するシーンでも活躍する藤島さん。

作品は広島市内の雑貨店や県内のイベントなどでも手に取ることができます。

「これからは日本らしさのある作品を増やして、海外で個展もしてみたい」と意気込みます。

 

吹きガラス工房Fuji321 藤島さん

 

廿日市市は「作品を発信しやすい場所」だと感じているそう。

「宮島周辺のイベントには、世界中からお客さんが来られます。僕は英語が話せないけど『どこから来たんですか』とは聞くようにしていて。この間はブラジルから来られた方が花瓶を手に取ってくれました。自分の花瓶は地球の裏側でどんな植物を入れてもらって、どこに置かれるんだろうって。想像すると面白いですよ。すごく夢がある場所だと思います」

 

吹きガラス工房Fuji321の基本情報

 

<所在地>
広島県廿日市市原83-3

<TEL>
090-3790-7065

<営業時間>
訪問時は要事前問い合わせ

<定休日>
訪問時は要事前問い合わせ

<SNS>
Instagram:@fujisan2hon1

 

ライター/時盛郁子
※紹介している内容は2026年1月取材時点のものです。公開後内容が変更している可能性があります。

LINE はてブ Pocket