「偶然性を味方につける」 ただ一人に届く景色を求めて|自在窯・出嶋正樹さん
廿日市市津田と栗栖を結ぶ県道30号をそれて、山道を上っていくと現れる1棟の建物。
そのそばに、レンガがきっちりと積まれた2基の窯がたたずんでいます。
2012年に出嶋正樹さんが開いた「自在窯」。
現在はソーダ焼成と呼ばれる技法を中心とした作品づくりを行っています。
大学時代に出合った陶芸の魅力
水を張ったような艶やかさや、元は土であったことを思い出させるざらりとした質感。
手にする角度によって、何色にも見える色彩。
出嶋さんの作品は、一つの器の中にいくつもの表情が見え隠れします。
(提供:出嶋正樹)
ソーダ焼成は、1200度を超える窯の中に重曹を入れる技法。
窯に作られた小窓から重曹を噴霧すると、それが炎の流れに乗り、器の表面でガラス化して釉薬になります。
炎がよく当たった部分は艶やかに、影の部分は落ち着いた風合いに。
器の表面にガラスが多く乗ると、表面に塗られた顔料が流れて美しいグラデーションが生まれます。
「いくつもの変化が一つの焼き物の中で破綻なくつながり、器の表情である“景色”を作り出すのが面白い部分。僕は暮らしの中で使ってもらえる器を作ることが多いのですが、コーヒーを飲むときなどに、その表現を手元で楽しめるのは魅力の一つだと思っています」
陶芸を始めたきっかけは、大学の陶芸サークルだったという出嶋さん。
もともと美術や芸術に興味があったわけではなく、友達に誘われて、気軽な気持ちで体験に行ってみたのだそうです。
「実際にやってみたら、すごく面白かったんです。焼き物が土からできているということは何となく分かっていたのですが、実際に粘土を触って、これが硬くなって器として使えるようになるのはずいぶん不思議なことだなと実感して。動物のオブジェのようなものを作っている人もいて、こんなものも作れるのかという驚きもありました。そこから陶芸の歴史や種類などを知っていく中で、焼き物の魅力をより深く感じるようになっていきました」
大学卒業後は玩具輸入商社に就職しますが、「一つのことに集中する生き方がしたい」という思いで陶芸家を目指すことを決意。
京都の職業訓練校で学んだのち、栃木県益子町の陶芸家・松崎健さんに約7年間師事し、独立しました。
「学校は1年間だったのですが、陶芸家としてやっていくために下積みをしようと。一番大変な道を選ぼうと思って、『最低でも5年』と言われた師匠のところに行きました。そこでは師匠の土を揉んだり、成形を手伝ったり。陶芸にはろくろを引く以外にもたくさんの仕事があるので、それを一つ一つ学びました」
想像を超える「景色」を生むソーダ焼成
出嶋さんがソーダ焼成と出合ったのは2015年のこと。
松崎さんに誘われて、ロンドンへの制作留学に参加したときのことでした。
「当時は他の作家さんと論じたり、新しい技法を学んだりする機会が欲しいと思っていたので、自分の経験になればという思いで参加しました。実はソーダ焼成にはあまり興味はなかったのですが、初めて現地でやったときにこれは面白い!と。窯から器を出したら、自分が思っていない方向に進んでいたんです」
炎の力が「自分の手の内を超えて面白い表現を作り出してくれる」ソーダ焼成のワクワクは、初めて土を触り、器を作ったときの驚きや喜びを強く思い出させたそうです。
出嶋さんが制作留学で作った器
帰国してすぐにソーダ焼成専用窯を築き、作品の制作を開始。
「偶然の力を借りているとはいえ、焼く前は仕上がりを推測しながら器を窯に詰めていきます。全てがうまくいくことはないのですが、結果が100%分かっているものをやるのは面白くない。こうなるといいなという期待に焼き物が応えてくれたり、自分が思ってもいないような景色を出してくれたり。偶然性を味方につけるような焼き方をしています」
(提供:出嶋正樹)
「ない」から挑戦できる、新たな技法を駆使して
廿日市市津田に窯を開いて約14年。
出身地である広島県で知り合いをたどって探したこの場所は「修業していた益子と似た、ものづくりがしやすいのどかな地域」だそうです。
しかし、広島県は三角州が多く、粘土が採れない地質。
地元の材料を使えないという弱点もあります。
「ただ、焼き物の産地ではないからこそ、表現や材料の幅を広げやすいようにも感じます。ソーダ焼成は約50年前にアメリカで開発されたものですが、こういった新しい技法に挑戦したり、違う場所で生まれた土と技法を掛け合わせたりすることもできる。イギリスでは、自分が好きな土地で自分が作りたいものを自由に作る『スタジオ・ポタリー』というスタイルが確立されていて、日本でもこの考え方が広がっていくのではないかと思います」
出嶋さん
作品を作るときに心がけていることは、「使いやすさと特別さ」。
唇になめらかに沿う飲み口や、安定感のある持ち手のカップ。
恐竜をモチーフにした遊び心あふれるオブジェ。
毎日そばに置きたくなる使い心地の良さと、同じものは一つとない表現が出嶋さんの作品の特徴です。
(提供:出嶋正樹)
「同じ形のものをきれいにたくさん作ることはあまり考えていなくて、焼き物の個性と使う人の個性が自然と出合ってつながるといいなと思っています。僕が作ったものの中から、『自分はこれが好き』と特別な一つを探してもらいたい。それぞれの焼き物を『これを気に入ってくれる人が必ずいるはずだから』と送り出しています」
(提供:出嶋正樹)
2026年は、広島県内のイベントへの出店や、雑貨店などでの個展を予定している出嶋さん。
「山にこもって作っていると、独りよがりになってしまうことがあります。だからこそ、イベントや個展は非常に大切だと考えていて。お客さまにとってはどんな大きさが扱いやすいのか、どんな感性のものが選ばれるのか。いろいろな意見に直接触れられる接客がとても好きです」
作品づくりの面では、ソーダ焼成で得た炎をコントロールする知識を生かして薪窯を使用することも考えているそう。
この場所だからこそできる挑戦が、また新しい景色を描き出します。
自在窯の基本情報
(提供:出嶋正樹)
<所在地>
広島県廿日市市津田1178-16
※2026年5月、津田商店街に陶芸教室をオープン予定
<TEL>
090-4127-3496
<営業時間>
9:00~18:00 ※来店の際は事前に要連絡
<定休日>
土日祝
<公式サイト>
https://jizai-gama.com/
<公式SNS>
Instagram:@masakidejima
ライター/時盛郁子
※紹介している内容は2026年1月取材時点のものです。公開後内容が変更している可能性があります。