「もの」に込められた時間と心をすくいあげて、新たな命を吹き込む|竹庵・山下陽子さん、張福文さん

宮島・嚴島神社の裏から、大聖院に向かってまっすぐに伸びる滝小路。

商店街の賑わいから離れて静かな通りを歩いていくと、風ではためく「HAND CRAFT」というタペストリーに目が留まります。

 

竹庵 タペストリー

 

2024年12月、この場所にオープンした「竹庵(ちくあん)」。

門をくぐり、玄関の扉をカラカラと開けて中に入ると、店を営む山下陽子さん、張福文さん夫妻が迎えてくれました。

 

張さん(左)と山下さん(右)

 

古い器にもう一度光を当てる金継ぎの技

店内にずらりと並ぶのは、茶碗やコーヒーカップなどの器や、着物をリメイクしたアイテム。

山下さんと張さんが旅先で見つけたり、古い家を片付ける知人から譲り受けたりしたものが中心です。

 

店内の様子

 

選ぶときに大切にしているのは、「もの」に宿る手作りの温かみや、手にしたときのなじみやすさ。

商品のジャンルはさまざまですが、どこか統一感のある、和やかな雰囲気が漂っています。

 

店内の様子

 

器はそのまま販売することもありますが、割れたり欠けたりしているときには、金継ぎをしてもう一度命を吹き込みます。

「この店では“古いものを直して使う”ということを大切にしています。古いものや壊れたものは捨てられてしまうことが多いけれど、やっぱり文化や技術が詰まったいいものがたくさんある。直したらまた使えるし、また次の人に手に取っていただける。それがすごくうれしいんです」と山下さん。

欠けた部分を漆でつなぎ合わせ、金をまとわせた器は、また新たな表情を見せてくれます。

 

金継ぎをした器

 

店内には、張さんが修復した宋の時代の茶碗もあります。

大きく欠けていたため、まずは銅のワイヤーで骨組みを作り、麻の布を巻いて、その上から何度も漆を塗って仕上げたそうです。

 

金継ぎをした器 張さんが修復した宋の時代の茶碗

 

厚みがあるほど漆を乾かす時間が必要なため、修復には約1年かかったそう。

張さんは「直すのには時間がかかりますが、いつもその間にどんどん愛着が湧いてくる。古いものを直すときには風合いをできるだけ壊さないよう心がけながら、元の姿よりもっときれいに、直してよかったと思える状態にしたいと思っています」とほほ笑みます。

 

茶碗を実際に手に取ると、ぴったりと手のひらに吸い付くよう。

約1000年前に作られたことを忘れてしまうほどのなじみやすさに驚きます。

「土の状態や気候が変わってきているので、全く同じ方法で器を作ったとしても、当時と同じものを作ることはできないそうですよ」と山下さん。

素材の違いも、時代をも飛び越える「直す」技の力を、ひしひしと感じます。

 

「いいもの」をもっと身近に、使いやすく

着物をリメイクした洋服やバッグのなかには、山下さんの母やその友人が手作りしたものも。

広島県福山市で作られる伝統的な「備後絣」を襟元のアクセントに縫い付けたシャツやブラウスは、カジュアルな印象のなかに古くから受け継がれてきた風合いがすっきりと溶け込んでいます。

山下さんは「今は着物を着る機会が少ないので、手軽に着物に触れてほしいという思いで着物のリメイクをしています」と話します。

 

リメイクした洋服

 

アクセサリーコーナーには、海の泡を表現したリングや、砂浜で拾ったシーグラスなどを取り入れたブローチが並びます。

 

アクセサリーの棚

 

なかでも、オリーブの木を使ったリングやピアスが山下さんのおすすめ。

「父が剪定した、庭のオリーブの木を乾燥させて作っています。オリーブは硬くて、家具にも使われる丈夫な木。もったいないなと思って取っておいたのを薄く切って、漆を塗って螺鈿を置いて。そこから漆を塗って磨くことを10回以上繰り返して仕上げています」

「何に対してでも“もったいない”という気持ちがあるんです。これは何かに使えるかも、直したらまた使えるかもっていつも考えていて」と山下さんは笑いますが、身に着けるものにストーリーが隠されているのは楽しいもの。

山下さんの話を聞くと、アクセサリーにより一層温もりを感じます。

 

オリーブの木のアクセサリー

 

店内には、張さんが手掛けた鍛金の技法で作る銀のやかんや小鍋もあります。

小鍋の取っ手に自然にカーブした竹を使ったり、やかんのふたや取っ手に細かな螺鈿を忍ばせたり。

随所に光るアレンジが、品のよい輝きを引き立てます。

 

竹庵 銀のやかん

 

「できるだけこのまま」宮島ろくろの工房との出合い

この店を開くまでは、中国で暮らしていたという山下さんと張さん。

家でものづくりを行い、人づてに作品の販売も行っていましたが、ものづくりをするための「場所」をずっと探していたそうです。

 

山下さん

 

「父の知り合いが宮島に住んでいたので、その縁でこの家を紹介してもらいました。築100年以上になる、宮島ろくろの工房として使われていた建物です」と山下さん。

この場所で作られていたのは、樹齢300年以上の黒松を20年以上自然乾燥させ、ろくろで削り出した「肥松(こえまつ)の茶托」。

使うごとに風合いを増す様子は「三代かけて変わってゆく」と言われ、光に透かすと、黒松がたっぷりと蓄えた松やにの結晶を見ることができます。

 

 

「初めて見に来たとき、ものづくりに使われていた場所だということを知って、自分たちと何か通じるものがあるような気がしました。一目見て、二人ですぐに『ここにしよう』って」と山下さん。

しかし、初めてこの場所を訪れたときは、工房の2階が崩れ、1階の作業場に木材がなだれ込んでいました。

梁が落ち、立ち入ることができないほど危険な状況だったといいます。

 

入居前の様子 リフォーム前の様子

 

「周りの人からは一度更地にした方がいいとも言われたのですが、工房の奥にあった土壁の温かみが好きで……。時間をかけてもできるだけ元の姿を残しながらリフォームをすることにしました。この家を譲り受けたときに、ろくろの機械にまだ木材が挟んであったんです。前にいらっしゃった方はもう亡くなっていたので詳しいことは分からないけれど、その方がものづくりをされていた空気がそのまま残っていたので、それをなくしてしまうのはもったいないと思いました」と山下さん。

工房があった場所は、現在は着物や洋服の販売スペースに。

土壁も当時の姿を残し、午後になると暖かな日差しを受け止めています。

 

着物の販売スペース

 

出会いと自然に恵まれた宮島で

さらに、張さんにとっては宮島の雰囲気も魅力的だったといいます。

「大学からは北京に出ましたが、生まれは江西省。古い建物が多い宮島の街並みは、どこかふるさとに似ています。この建物にも、実家のような雰囲気がある。今は江西省も古い建物が減ってしまったので、なかなかこのような雰囲気は味わえません」

 

張さん

 

「自然が多いところが好き」という山下さんは、毎日眺めている風景が作品につながることもあるそうです。

「いろいろな葉っぱの形があることに気づいたり、毎日フェリーに乗るときに海の泡の様子を見たり。自然を見て感じ取ったものを形にできる、すごくいい環境だと思います。海外から来られる方も多いので、そうやって形にしたものや、古くから大事にされてきたものを気に入って『大事にするよ』って持って帰っていただけるのがうれしいです」

 

店内の様子

 

「手作りのものは使いやすいし、生活を豊かにしてくれる。お気に入りのものを見つけるのはもちろん、見て楽しむだけでも大丈夫。この場所で“手作り”の良さを実感してもらえたら」と張さん。

店内のカウンターではコーヒーや軽食が楽しめるほか、今後は宮島に暮らす人や観光客が金継ぎなどのクラフトを楽しめる場所を作ることも検討しているそう。

この場所から「ものづくり」を通して、まだまだつながりが広がっていきそうです。

 

竹庵の基本情報

外観

 

<所在地>
広島県廿日市市宮島町滝町259-2

<TEL>
070-8548-7855

<営業時間>
11:00~16:00

<定休日>
不定

<SNS>
Instagram:@chikuan_miyajima

 

ライター/時盛郁子
※紹介している内容は2026年1月取材時点のものです。公開後内容が変更している可能性があります。

 

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