バスと電車と足で行くひろしま山日記 第96回【遠征編】蔵王山(宮城県・山形県)
馬の背から見た熊野岳
東北の日本百名山の旅の2日目は、宮城県と山形県にまたがる名峰・蔵王山だ。
有名な山だが、実は「蔵王山」という山はない。主峰の熊野岳(1841メートル)を中心に、刈田岳(かっただけ、1757.6メートル)や五色岳(1672メートル)などの火山群の総称だ。登山口は蔵王エコーライン、蔵王ハイライン(有料道路)を経由して車で1710メートルまで上がれる宮城県側と、蔵王温泉から蔵王ロープウェイで三宝荒神山(1703メートル)と地蔵岳(1736メートル)の鞍部(1660メートル)まで行ける山形県側の2ルートがある。どちらも最高峰の熊野岳との標高差は200メートルにも満たない初級者向けのコースだ。今回はレンタカーで宮城県側から入山することにした。
▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ
行き)遠刈田温泉→(レンタカー、蔵王エコーライン・蔵王ハイライン経由)→蔵王ハイライン駐車場
帰り)蔵王ハイライン駐車場→(レンタカー)→仙台市
山岳ドライブと滝見物
宿を出て遠刈田温泉街を抜け、蔵王エコーラインに入る。蔵王連山の山頂部を越え、山形県側に通じる全長約32キロの観光道路で、宮城県側の入り口には朱塗りの大鳥居が立っている。ここから爽快なドライブが始まる。林間を走ること10分ほどで滝見台展望台へ。不動滝(落差54メートル)と三階の滝(同181メートル)を遠望できる。
滝見台から見た三階の滝
不動滝
標高1200メートルを超えると木々は低くなり、高山らしくなる。午前10時、標高1383メートルの駒草平へ到着した。ここは名前の通り高山植物の女王と呼ばれるコマクサの群生地で、6月中旬から7月にかけてピンク色の美しい花を咲かせる。絶壁に突き出した展望台からは濁川が刻んだ深い峡谷と落差97.5メートルの豪快な不帰ノ滝(かえらずのたき)、背後の蔵王連峰の景観が楽しめた。
駒草平から見た不帰ノ滝と蔵王連山
まずは刈田岳に登頂
駒草平を後に5分ほど上って蔵王ハイラインの料金所。普通車料金600円を払って有料道路に乗り入れる。距離は約2.5キロ。駐車場に着くと先着組の車がずらり。さすがは東北有数の観光地だ。標高は1710メートルで、刈田岳との標高差はわずか50メートルしかない。レストハウスの横を抜けて遊歩道へ。コンクリートで舗装された道を上ること数分で刈田岳の頂上に立った。山頂は広場になっており、登山者や観光客でにぎわっていた。古代の蔵王連峰は「刈田嶺」と称されていたという。刈田嶺神社に登山の安全を祈願した。
苅田岳山頂。右奥に御釜が見える
登山者でにぎわう刈田岳の山頂広場
蔵王と信仰の関係を説明する解説板
御釜を見ながら馬の背を歩く
刈田岳山頂からは蔵王のシンボル・御釜が見下ろせる。五色岳の噴火でできた火口に雨水がたまってできた火口湖で、直径約300メートル、深さは20~30メートル。水の色は神秘的なエメラルドグリーンだ。天候や光の当たり具合で色が変化するため、五色沼とも呼ばれている。最新の噴火は1895年で、五色岳など周辺に白い噴出物を積もらせたそうだ。1939~40年には噴火こそしなかったが、湖水が全面白濁し、湖底の水温は100度を超えたという。
刈田岳と刈田嶺神社
熊野岳へ向かう道
刈田岳を下りて馬の背を歩く。馬の背は火口のカルデラ壁で、御釜を囲む崖の上に道がついている。この日はガスに包まれる時間もあったが、ほどなく晴れて右手に美しい湖面を眺めながらトレッキングを楽しめた。
馬の背から御釜を振り返る。右奥は刈田岳
最高峰・熊野岳の山頂へ
馬の背を歩くこと約30分で熊野岳山頂への分岐に。ここから斜面を斜めに横切るように上って熊野岳を目指す。登山道はガレ場になっているが、それほど歩きにくくはない。途中コケモモが花をつけていた。
熊野岳山頂へ向かう道の分岐
登山道わきにコケモモが咲いていた
熊野岳へ向かう道
分岐から15分ほどで山頂に到着した。360度の眺望がすばらしい。なだらかな地形で、地質的には溶岩円頂丘というのだそうだ。北に山形県側からの登山ルートになる地蔵岳、三宝荒神山が連なり、その向こうには山形平野と山形市の市街地が広がっている。山頂には蔵王山神社が鎮座しており、ここでもお参りをした。
熊野岳の山頂
熊野岳山頂の蔵王山神社
突然の強風、避難小屋に駆け込む
ここまで比較的天気はよかったのだが、急に風が強くなってきた。そういえば、登山の時に頼りになる天気アプリ「てんきとくらす」では、この日の蔵王の登山指数はC(風または雨が強く、登山に適していません)になっていた。Cの理由はこの風だったのだ。
地蔵岳(正面左)と三宝荒神山(右奥)。遠く山形平野が広がる
広い道路のような尾根の道
山頂で景色を見ながら昼食にするつもりだったのだが、あまりゆっくりはしていられそうにない。下山路は東の尾根伝いに移動し、避難小屋から馬の背に下ることにした。尾根は平坦で歩きやすいのだが、広い道路のような道で遮るものがない。風はますます強くなり、まっすぐ歩くのも難しいほどに。身の危険を感じたので、熊野岳避難小屋に駆け込んだ。小屋内は先客が2人。15分ほど休憩して少し風も弱まってきたように思えたので外に出た。まだ強風が吹いていたが、何とか歩けそうだったので、斜面を下った。尾根から離れると風も穏やかになり、馬の背に着く頃には安心して歩けるようになった。そのままレストハウスを目指し、13時10分に到着。行動時間は2時間25分、歩行距離は5.4キロだった。
熊野岳避難小屋。危険な強風を避けることができた
御釜の後方にそびえる五色岳
レストハウス近くの刈田リフト降り場付近から熊野岳を振り返る
2025.10.4(土)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》
※全国各地でクマの出没情報が報告されています。登山を楽しまれる際は、十分にお気を付けください。
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」