“もの言わぬ証人”被爆樹木 30年以上見守る樹木医|地球派宣言

爆心地から約1.3kmの場所で被爆したアオギリ。
原爆の爆風で枝葉がなくなり、爆心地側の幹が半分焼けましたがいまも青々とした姿を見せてくれています。

樹木医の堀口力(ほりぐち・ちから)さん、80歳。
30年以上、被爆樹木の診断や保全に携わっています。
堀口さんは、樹木医の仕事について「我々は観察しながら樹木の変化を読み取って、その要因は何なのかを分析してちょっとずつ手をくわえてあげる」と話します。

被爆樹木は爆心地から約2km以内で被爆した樹木で、広島市には159本登録されています。
しかし、住宅建設などで周囲の環境が変化し、樹木にとっては生きにくくなっていると堀口さんはいいます。

このアオギリは去年6月に隣に建物が建った影響で光の反射が変わり、葉っぱが白っぽくなったそうです。
現在は対策されていますが、堀口さんは「樹木は異常を感じると子孫を残そうと花や実をつける傾向があるが、今年は異常に花が多く影響が現れている」と推察します。

被爆樹木の中には、衰弱している樹木もあります。
縮景園にある被爆ムクノキは枝が途中から折れ、幹には大きな穴があいています。
数百年は生きるとされるムクノキですが、堀口さんは「木の中が空洞になっていて水分が上の方に到達しにくい状況にある。もう手を差し伸べられるような状況にない」と話します。

堀口さんは保全活動を行う一方、講演会などで現状を伝える活動を続けるほか、被爆の実相を伝えようと、被爆樹木の種や苗を世界中に届ける活動をしています。

これまでにアメリカやロシアなど世界40カ国以上に被爆樹木の種や苗を送ったほか、5月にはニューヨークの国連本部にも苗木が植えられました。
堀口さんは「広島の原爆の悲惨さというのは伝えていかないといけない、引き継いでいかないといけない。まさしくその役割は被爆樹木にあると思う」とその意義を話します。

80年前、原爆投下の爆風から耐え抜いた樹木は、世界中で被爆の実相を伝え続けてくれています。
堀口さんは「被爆証言の方がだんだん少なくなって実際は10年ぐらいたつと証言ができない状況になってくる。被爆樹木は直接「ものは言いません」が、「ものを言わない」からこそ当時のヒロシマの悲惨な状況を思い浮かべながらいろいろな立場の人が被爆樹木を見た時に思ってくれる」と話します。
広島ホームテレビ『ピタニュー』
地球派宣言コーナー(2025年8月6日放送)
