新しいスキルをプラスして。「データサイエンス」で広島から始める、私らしい働き方
AI時代のいま注目を集めているのが「データサイエンス」の領域です。企業のデータを分析し、経営課題の解決や新規事業の創出を担う「データサイエンティスト」はいままさに需要の高い職業のひとつですが、日本では女性サイエンティストの数が少ないのが現状です。そんな中、2025年3月7日(金)に広島市内でデータ活用イベント「WiDS HIROSHIMA シンポジウム」が開催されます。
このイベントのアンバサダーを務める株式会社Rejoui 代表取締役の菅由紀子さんと、同社でデータサイエンティストとして活躍している伊垣莉奈さんに、データサイエンスとは何なのか、そしてデータサイエンティストの働き方や魅力についてくわしく伺いました。
電車や野球観戦チケットにも。実は暮らしに身近なデータサイエンス

――「データサイエンス」という言葉だけで何やら難しそう……という印象があります。
そう思われがちですが、データサイエンスって、実はとても身近な存在で、いろんなところで活用されています。たとえば、JRや市電に乗るとき、ICカードやスマホで料金を払いますよね。このとき同時に、人の動きも記録されています。その記録から、「いつ混雑しているか」「どの時間帯が空いているか」がわかるので、混雑を避けて移動するときの参考にできます。また、飲食店では顧客の来店データを分析して、繁忙期と閑散期を把握し、適切な仕入れや人員配置に活用されています。
そして、広島といえば広島東洋カープ。スポーツの分野にもデータサイエンスは活かされています。選手のパフォーマンスはどうすれば上がるのか。映像を撮ってフォームを解析する方法がありますよね。あれ、実はデータサイエンスなんです。
チケット販売にもデータサイエンスは関わっています。商品やサービスの需要に応じて価格を変動させる「ダイナミックプライシング」です。航空券やホテルの宿泊料金などで広く活用されています。スポーツの観戦チケットもすごく人気のある試合は値段が高くなり、人気のない試合は低くなる。人気の度合いによってチケットの価格の高低をAIが自動で決めるという仕組みです。すでに日本のプロ野球でも導入している球団がいくつかあります。
――なぜ、いまデータサイエンスが注目されているのでしょうか。
大きく3つの理由があります。1つは、たとえば店頭の商品棚から商品を手に取る動きまで、センサーで細かいデータが取れるようになったこと。2つ目は、5Gなどの通信技術の発展で、データをリアルタイムに取得できるようになったこと。そして3つ目が、ChatGPTに代表される生成AI技術の急速な発展です。
データを活用するのとしないのとで、どんなふうに違いが生まれるか、洋菓子チェーン店を例に考えてみましょう。A店とB店で、どちらもチョコレートケーキが良く売れているとします。A店はデータ分析から「テレビ番組で紹介されたから」という理由を把握して、商品配置や製造計画に活かしました。一方、B店は理由がわからないまま「売れているからもっと作ろう」と判断しました。どちらが長く続くか、すぐに想像できますよね。データを読み取り、活用する「データサイエンティスト」の存在が、これからの時代には欠かせないものになっているんです。
いろんな業界で活躍できるデータサイエンティストの仕事
――データサイエンティストはどんな分野で活躍されているんですか?
とても幅広い分野で活躍しています。たとえば医療の世界では、AIによる画像診断が医師や検査技師以上の精度で病気を見つけられるようになっています。エンターテインメント分野では、ライブの照明をAIでコントロールしています。ただし、AIが判断するための材料は人が提供して学習させる必要があり、そういう仕事をしているデータサイエンティストもいます。
また、製造業では将来の需要を予測して、いくつ製品を作ればいいかを決めますし、金融の世界ではAIの活用が最も進んでいて、株価予測などでAI同士が競い合ったりしています。
――データサイエンティストとして仕事をする上で必要なスキルは何ですか?

データサイエンティストには3つの力が求められます。まず「ビジネスの力」。お客様の課題を的確に捉えて理解し、解決する力です。次に「サイエンスの力」。これは数学やAIの理論を理解することです。そして「エンジニアリングの力」。データ分析を行うためにプログラミングをしたり、必要なシステムを設計・構築するスキルです。ただし、すべてをひとりでこなすのはなかなか難しく、大抵の場合チームで能力を補い合って仕事を進めます。
――たとえばどんなふうにデータを分析するのでしょうか?
ホットケーキミックスの需要予測を例にしてみましょう。まず、ホットケーキミックス業界について深く知る必要があります。「いつ売れるのか」「どんなビジネスなのか」「競合は誰か」など。そして、予測の精度をどこまで求めるのか、お客様と決めます。実際のプロジェクトでは、7割当たればいいということもあれば、9割は必要、ということもあります。
ホットケーキミックスって、1年でどの季節によく売れると思いますか? データを見ると、毎年2月はバレンタインで売上が伸び、12月もクリスマスシーズンで伸びています。

ただ、1つイレギュラーがありました。2020年4月です。これはコロナ禍に家でお菓子を作る需要が増えたからですね。これをこのままAIに学習させると「毎年4月は売れる」と誤った予測をしてしまいます。だから、感染者数や緊急事態宣言の情報も入れて、正しく予測できるようにするんです。
――なるほど。どんなデータを使うか、どれくらいのデータを必要とするか見極める力も必要なんですね。
そうですね。季節によって異なる気象条件や、CMを打つタイミング、イベントやセールの有無によっても売上は変わるので、必要なデータはすべてインプットします。そして、膨大な数式の中から使う数式を選びます。「この数式にこういうことをさせてはいけない」なんてこともあるので、そういうミスがないように。そうやって予測したデータをお客様に説明する資料にまとめたり、AIとして開発したりします。
――未経験からデータサイエンスを学ぶには、どんなことから始めるといいですか?
自分の好きなことを題材として選ぶのが一番手っ取り早いですね。興味があることならその業界のことも理解しやすいですし、データ分析も楽しく進められると思います。データサイエンスの仕事は皆さんの身近にあるので、ちょっとスキルを身に付ければ今の仕事がもっと楽しくなるはず。「データサイエンティストに転職しよう」と意気込む必要はなく、自分にできることを増やす、くらいの気持ちで始めてみてください。
私らしく働く。データサイエンティストの魅力

――ここからは、Rejouiでデータサイエンティストとして働いている伊垣莉奈さんも交えてお話を伺います。伊垣さんは未経験からデータサイエンティストになられたそうですね。
伊垣さん:私は元々理系出身で、福山で就職し研究開発職に就いていました。働き方を見直す中でIT業界に興味を持ち、中でもデータサイエンティストという職業に惹かれました。大学院での研究や前職の経験から、分析した結果から示唆を出すことに馴染みがあったことや、データ分析を活用して企業の課題解決に寄与できる点に強く惹かれたことが始まりです。まず総務省の社会人向けデータサイエンス講座で勉強してみて面白いと思い、そこから自分で情報を調べながら勉強を進めました。
――転職を決めたきっかけは?
伊垣さん:データサイエンティストになりたいと思い始めてから、まず未経験で採用してくれるところがほとんどないということが大きなハードルでした。だからまずは東京に単身赴任しようかと真剣に考えて夫に相談したくらいです。そんなときに、広島にもオフィスがあり、リモートワークができるRejouiを知りました。アルバイトの求人を見つけたとき、これはチャレンジするしかない!と思いました。
菅さん:当社は、未経験から始めたいという応募がとても多いです。そして、オフィス回帰する企業も多い中、私たちはリモートワークを続けているので、働く場所を選ばない魅力もあると思います。代表である私自身、出張が多く全国各地を巡っているので、いつでも、どこでも、誰とでも、という働き方は当たり前。実際、私の周りのデータサイエンティストの方たちは月2回出社する程度という人が多いです。
Rejouiの社員の多くは結婚して子育て中で、「子どもの迎えに行ってきます」ということもよくあります。オフィスで働いていたらなかなか難しいですが、在宅なら子どもの様子を見ながら仕事を再開できる。これは大きなメリットだと感じています。

――働き方の自由度が高いのは大きな魅力ですね。
伊垣さん:私の前職は残業が当たり前で、朝8時から夜8時まで働く日も多くありました。夫は交代勤務だったので、ほとんどすれ違いの生活。それが今では夫婦で過ごせる時間がとても多くなって、会話も増えました。
菅さん:データサイエンティストのスキルは、もちろんいろんな技術をキャッチアップしていく必要はありますが、多分一生食べていける仕事です。一度身に付ければ、ひとりでも、どこででも働くことができるので、家庭との両立はきわめてやりやすい職業だと思います。
――しかし、女性のデータサイエンティストは少ないと聞きます。仕事内容に性差はないように思いますが、なぜでしょう?
菅さん:1つは、心理的な障壁が大きいことが挙げられます。「理系っぽい」「男性社会」というイメージがあるんです。当社に仕事の相談に来られる方は皆さん枕詞のように「自分は文系なんですけど」と言われますが、実際は文理両道の仕事です。もう1つ、これは男女問わずですが、民間のスキルトレーニング講座の高額さがあります。ただ、最近は政府による無料の入門講座動画などもあり、ハードルは下がってきていると思います。
女性のための「WiDS HIROSHIMA(ウィズひろしま)」

――菅さんは、3月7日(金)に開催される「WiDS HIROSHIMA」のアンバサダーを務めていらっしゃいます。「WiDS HIROSHIMA」とはどんなイベントですか?
菅さん:先ほどお話ししたように、データサイエンスの世界はまだまだ男性社会で、女性が少ないのが現状です。「WiDS」とは、「Women in Data Science」の略称で、ジェンダーに関係なくデータサイエンス領域で活躍できる人材育成を目的とした活動です。米国スタンフォード大学を中心に始まり、世界の60か国以上で地域イベントが開かれています。
「WiDS HIROSHIMA」は西日本初の地域開催として2020年にスタートしました。イベントではほぼリアルタイムで参加者の皆さんの質問に答えるインタラクティブ性を大切にしています。気になるテーマや疑問を参加者みんなで一緒に考えられる場にできたらと思っています。
――なぜ広島で開催しようと思われたのでしょうか?
菅さん:テクノロジー分野、特にデータサイエンスは東京に一極集中しているのが現状です。しかし、広島には多くの可能性があり、優れた企業や人材もいます。それにもかかわらず、広島で高度にデータサイエンスを活かす環境はまだ十分に整っていません。
私は大崎上島町の出身ですが、進学を機に島を離れました。地元には仕事がほとんどなく、“島から出たら帰ってくるな”と言われるほどでした。しかし、ITやデータサイエンスの仕事であれば、場所を問わず働くことができ、地方にいても選択肢を広げられます。
だからこそ、データサイエンスの可能性をもっと知ってもらい、地方でも新たなキャリアの選択肢が生まれることをめざしています。
――いま、広島でデータサイエンティストとして働く魅力は何でしょうか?
菅さん:地方企業ではデータサイエンスの活用がまだ少なく、開拓の余地があります。また、リモートワーク可能な求人も多いため、広島に住みながら東京水準の給料を得られる可能性があるのも魅力ですよね。
広島でデータサイエンスに触れてみませんか?
――最後に、データサイエンスに興味がある、これから挑戦してみたいという人へメッセージをお願いします。
伊垣さん:社会に出ると、新しいことを学ぶハードルは学生時代より上がるように思います。私は転職を機に外部の勉強会などに参加する機会が増えましたが、そこで出会った方々を見ていると、学びへの意欲や楽しむ気持ちがあってこそ挑戦できるんだなと感じます。自分のいまの仕事にデータを使ってみたいとか、データサイエンスが何か活かせるんじゃないか、と感じている人にとって、きっと「WiDS HIROSHIMA」はいいきっかけになると思います。
菅さん:私は女子高出身です。当時、周りを見渡すとみんな阿鼻叫喚で数学を勉強していました。それはなぜかと考えてみると、「女の子に数学は要らない」という刷り込みが影響し、学びたくない人が多かったのだと思います。そして、数学や理科の授業の在り方が本当につまらないということ。身近に感じられないんですよね。「WiDS HIROSHIMA」は、つまらなかったものを、今一度楽しく学び直す最初のステップになるはずです。「データサイエンスで何かやってみたい」「これなら私もやれそうだな」という方、そして「何から始めていいかわからない」という方も、ぜひ参加してみてください。
「WiDS HIROSHIMAシンポジウム」 概要
シンポジウムでは、広島県にゆかりのある女性スピーカーによる講演やデータ×野球を題材にした特別企画が行われます。
<詳細はこちら> https://wids.hiroshima.jp/symp/
◆特別企画「プロ野球ファン必見!データで語る球団の魅力」
データ活用はスポーツにおいても欠かせません。広島といえば野球!ということで、広島県民が愛してやまない、あの赤い球団の魅力を読み解きます。
セイバーメトリクス(*1)を活用して選手の成績や戦略を深掘りし、数字から見える新たな発見をご紹介。これまでとは違った視点でスポーツの楽しみ方がどのように広がるのか、参加者の皆さんと共に探求します。
(*1)野球のデータを統計学的に分析し、チーム運営や戦略に役立てる手法や考え方

◆登壇者
荒 智子(株式会社NTTデータ コンサルティング事業本部 課長)
うらら(ヨガ・ダンス講師)
住本 明日香(フリーパーソナリティ/カープ女子会リーダー)
振本 恵子(一般社団法人ヘルスケアマネジメント協会 代表理事)
馬明 真梨子(SHOKU LEAD 代表)
※五十音順、敬称略
◆アンバサダー
菅 由紀子(株式会社Rejoui 代表取締役)
WiDSアンバサダーは、WiDSの地域イベントの企画・実施およびデータサイエンティストの活動全般をサポートする役割を担う者として、米国スタンフォード大学より任命されています。菅は2019年よりWiDSのアンバサダーとして、産官学による連携のもと、WiDSを冠した本シンポジウムおよびワークショップ等の企画・実施を行っています。
開催日時 | 2025年3月7日(金)13:30〜16:30(受付開始13:00~) ※現地交流会 16:45~17:30(任意参加) |
会場 | Hiromalab(広島市中区銀山町3-1 ひろしまハイビル21 17F) ※会場参加・オンライン配信 (Zoom)のハイブリッド形式で開催 |
定員 | 会場/30名(先着順) オンライン/制限なし |
対象者 | ジェンダーを問わずデータサイエンスやデータ活用に関心がある方 |
参加費 | 無料 |
お申込み | https://form.run/@wids-symposium2025 |
お問合せ | WiDS HIROSHIMA 運営事務局 |