バスと電車と足で行くひろしま山日記 第81回聖山・高岳(北広島町・安芸太田町)
今年の夏の暑さは本当にひどいものだった。広島市中区で最高気温が35度以上となった猛暑日は7~9月の3カ月間で計45日。8月は31日のうちなんと26日が猛暑日だった。これではとても県内の低山には行けない(命にかかわる)ので、「ひろしま山日記」も3カ月間お休みとさせていただいた。10月に入ってようやく気温も下がってきたので再開することにした。今回は特別名勝・三段峡の奥にある聖湖(ひじりこ)の西側に連なる聖山(ひじりやま 1113メートル)と高岳(1054.1メートル)を縦走した。
▼今回のルート(※車を利用)
【行き】広島高速4号線中広出入口→同沼田出入口→広島自動車道・西風新都IC→中国自動車道・戸河内IC→国道191号→樽床ダム駐車場→(徒歩)→聖山登山口
【帰り】高岳登山口→(徒歩)→樽床ダム駐車場→国道191号→中国自動車道・戸河内IC→広島自動車道・西風新都IC→広島高速4号線沼田出入口→同中広出入口
美しい人造湖畔をスタート
聖湖は中国電力が1957年に水力発電用に建設した樽床ダムによって形成された人造湖だ。かつては72戸の樽床集落があったが、ダム建設で湖底に沈んだ。湖岸の高台には、樽床集落から移築した「中門造り」と呼ばれる建築様式の民家と、実際に使われていた民具を展示する収蔵館を併設した「芸北民俗博物館」がある。
今回は公共交通機関で行くのは無理なので、レンタカーを利用した。最近はやりの「カーシェア」だ。自宅近くの駐車場からスタートできるので便利だ。
約1時間半で樽床ダムの堰堤脇にある駐車場に到着。抜けるような青空、最高の登山日和だ。湖面は空を映して鏡のように美しい。ダム湖というと、水際が不自然な地形になっている例が多いが、ここは太古の時代に湖があった場所のため、自然の湖のような景観が広がっている。
樽床ダムから見た聖湖。自然の湖のようだ
たたらの道を往く
湖畔の舗装路を5分ほど歩くと左手に「聖山登山口」の看板が現れる。中ノ甲林道の入り口だ。県内最高峰の恐羅漢山(1346.2メートル)の北麓まで続くほぼ未舗装の道だ。かつては終点付近に林業を生業とする集落があり、中国山地で盛んにたたら製鉄が営まれていた時代には、水没前の樽床集落を経て加計方面に炭や木材を運び出す「たたら道」だったそうだ。
聖湖の由来を記した説明板
聖山登山口。ここから中ノ甲林道を上る
オフロード仕様の車なら走れそうな道だけに、傾斜もそれほどきつくなく、快適に歩ける。
歩きやすい林道
約30分で標高約910メートルの十文字峠に着いた。ここで中ノ甲林道と別れ、聖山の山頂に向かう。ここから本格的な登山道になる。
十文字峠。ここで中ノ甲林道と分かれて聖山に通じる山道へ
道端にはさまざまなキノコが顔を出し、栗がたくさん落ちていて秋の訪れを感じさせる。
いろいろなきのこが顔を出す
毒キノコ?
野生のクリがたくさん落ちていた
聖山から眺望のない縦走路へ
十文字峠から30分、山道を歩き続けると聖山の山頂に着いた。この山は明治から昭和にかけて樽床の集落の人たちによって放牧場が開かれていたという。山頂付近はススキなどに覆われた草山だったようだが、現在は樹林に囲まれて眺望はない。ちなみに登山口は北広島町だが、頂上は安芸太田町に属している。
聖山の頂上。展望はなし
数分ほど戻って分岐から高岳への縦走路に入る。ミズナラの林を通る急坂を下り、いくつかのアップダウンを繰り返しながら進む。聖山の山頂までの道もそうだったのだが、縦走路も含めて眺望が開ける場所がほとんどない。林間の道は涼しいので、森林浴のため、と思えばいいのかもしれないが、やや退屈だ。
アップダウンのある縦走路
約1時間で島根県益田市に通じる県境匹見分岐に。看板には、ここから奥匹見峡の野田の百本松までの分水嶺登山道を平成17年に日本山岳会中国ブロック100周年記念事業実行委員会が整備したとある。日本山岳会広島支部のホームページによると、その後も笹を切り払うなど地道な登山道の整備活動が続けられているようだ。
奥匹見峡(島根県益田市)への分岐
花咲きチョウ舞う展望の高岳山頂
分岐からは広島県と島根県の県境稜線を歩く道だ。約30分、ブナ林を抜けて最後の急登を上り終えると高岳の頂上だ。明るく開けた山頂は眺望抜群だ。南側には先ほど登頂した聖山、その向こうに恐羅漢山・旧羅漢山(https://hread.home-tv.co.jp/post-173289/)が見える。
高岳の山頂に到着
正面は聖山。右奥は県内最高峰の恐羅漢山
この角度からだと双耳峰の山容がよくわかる。東側に目を転じると深入山(https://hread.home-tv.co.jp/post-150617/)。北東側には、第1回で紹介した臥龍山(https://hread.home-tv.co.jp/post-92888/)が雄大な姿を見せ、その北側には八幡高原の集落が広がっている。
深入山と聖湖
堂々たる山容の臥竜山
高岳山頂のパノラマ写真
山頂の広場には、鮮やかな黄色の花をつけたアキノキリンソウや、名前の通り釣鐘の形をした薄紫の花のツリガネニンジンなどが咲いていた。
アキノキリンソウ
ツリガネニンジン
昼食を食べながら眺めていると、どこからか大型のチョウが飛んできた。長距離を移動することから「旅するチョウ」と呼ばれているアサギマダラだ。花から花へ移動する優雅な姿を楽しむことができた。
「旅するチョウ」ことアサギマダラ
約1時間、ゆっくり休んで下山にかかる。高岳山頂から登山口までは35分ほど。途中、ノジイ川にかかる橋が落ちていて、川に下りて渡らなければならないところがあったが、それ以外は問題なく湖岸の道路に下山することができた。
下山中に見た謎の巨大キノコ
橋が落ちていた
高岳登山口に下山
三段峡の最上部・三ツ滝へ
帰りに芸北民俗博物館を見学して駐車場に戻ってきたのは14時20分。このまま帰ってもいいが、三段峡の最上部にあたる樽床ダムの直下には「三段峡五大景観」の一つに数えられる三ツ滝がある。これは行かない手はない。濡れて滑りやすい遊歩道を注意しながら下る事10分、豪快な水音を立てる滝に着いた。畳岩と呼ばれる巨岩に挟まれた三曲五段の滝で、全体の高さは約31メートルもある。三段峡といえば三段滝が有名だが、奥行きもあり、複雑な水の流れは見ていて飽きない。
三ツ滝
<動画もご覧ください>
樽床ダムまで来たらぜひ足を伸ばしてほしい。
総歩行距離は10.6キロ、行動時間は5時間40分だった。
聖湖の対岸から見た聖山(左)と高岳(右)
《メモ》芸北民俗博物館
樽床ダムの建設により聖湖の湖底に没した樽床や隣接する八幡集落で昭和30年代に収集された生活用具を収蔵している。雪上で荷物を運ぶ「木ひき」と呼ばれるそりや荷物を背負う「おいこ」、飢饉に備えてソバやヒエなどの非常食を保存した「がしん俵」など、かつての暮らしぶりをしのばせる貴重な民具を展示している。収蔵館の隣には江戸時代に建設された、馬屋と居住スペースをL字型に組み合わせた樽床集落の典型的な建築様式である「中門造り」の民家も移築されており、「樽床・八幡山村生活用具および民家」として国の重要有形民俗文化財に指定されている。開館は5月から11月の金曜日、土曜日、日曜日、祝日。無料。博物館の前から見る聖湖の景観は一見の価値あり。
旧樽床集落から移築された中門造りの民家
芸北民俗博物館から見た聖湖と樽床ダム
2024.10.13(日)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」