地元・広島に、規格外の未来を。「怪獣レモン」プロデューサー|農業プロデューサー 山岡 由明

 

規格外レモンとの出会い

私の故郷尾道市は、誰もが知る日本有数のレモン産地です。しかし、ここで生産されるレモンのうち、正規品として出荷されるのは約6割にとどまっています。残りの約4割は規格外となり、安い価格で加工品などになってしまいます。瀬戸田のレモンは生産量日本一と言われながら、レモン農家として儲かっている人がなかなかいないのも、このような状況では無理はありません。

生産者の方々が真面目に一生懸命レモンを作っても、天候などのさまざまな要因で、どうしても形が悪かったり傷がついたりしたレモンができてしまいます。これが正規品からはじかれてしまった規格外レモンです。しかし、レモンの味自体はまったく同じで、何の問題もありません。それに、食べてみるとわかりますが、瀬戸田のレモンは海外のレモンと比べてもレベルが高いんです。ただ見た目の違いでしかないのに、市場での価格に大きな差が生まれてしまう。この問題をなんとかしなければいけないという思いが、私の規格外レモンブランド化への取り組みのはじまりです。

 

 

私は以前、大阪で友人とともに人材派遣業を営んでいました。そこで培った経験が今の仕事に大きくいきていると感じています。営業や新規開拓などは「失敗して当たり前」。当たって砕けろ精神はそのころに磨かれたように思います。そんな経験を経て、地元に戻ってきたときに目にしたのが、この規格外レモンの現状でした。

 

安価な規格外レモンを「怪獣レモン」としてブランド化

そこで私は、規格外のレモンの価値を高めるプロデュース業を始めました。正規品のレモンとは異なるゴツゴツした見た目を逆手に取って、農家さんから買い取った規格外のレモンを怪獣に見立てて「怪獣レモン」と名付け、ブランド化したんです。このネーミングに合わせて、しまなみ海道のそばにあるレモン畑に高さ3mの怪獣レモンのオブジェも制作しました。今では新たな観光名所になっています。

 

 

「怪獣レモン」の価値を高める大きな柱となるのが企業の商品とのコラボです。最初の挑戦は、地元尾道市向島の老舗ラムネ店とコラボした「怪獣サイダー」でした。この老舗店の秘伝のレシピで作ったサイダーに、怪獣レモン果汁を配合した商品です。ここで絶対にやりたいという思いがありました。そして、ここでできなければまずい、と。結果的に「怪獣サイダー」はヒット商品になりました。

 

 

その後も、さまざまな企業とのコラボレーションを進めていきました。とにかく、一過性のもので終わらせてしまってはダメだ、末永く続いていく地元のブランドとして育てたいという思いがありました。餃子やクリームパン、ラッシーなど、さまざまな商品とのコラボを成功させ、「怪獣レモン」の規模は拡大していきました。2022年には「怪獣レモンプロジェクト」が地域活性化への取り組みとして評価され、農林水産省中国四国農政局の「中国四国農政局『ディスカバー農山漁村の宝』」奨励賞に選ばれました。

しかし、「怪獣レモン」ブランド化への道のりは決して平坦ではありませんでした。企業との商談では、「まだまだのブランドでしょ?」「まずは知名度を上げることから」と言われることも。今でも、商談で用意してきたことをほとんど伝えられずに終わってしまうようなこともあります。失敗するたびに後悔しますし、「最悪だ……」と落ち込みますが、でもどこか楽しい。なぜなら、「失敗なくして成功なし」と考えているから。仕事に関しては「もう人に嫌われてもいいや」という気持ちでいます。お互いの利益になることや、思いを達成するためなら、たとえ鬱陶しいと思われたとしても言うべきことは伝えようと意識しています。どんな経験も次につながる糧になると信じて、失敗を恐れず挑戦し続けています。

 

 

持ち前の行動力で、商談は地元商店から大手メーカーまで。私の愛車のスポーツカーの年間走行距離は4万kmを超えます。とにかくいろんな企業の商品と「怪獣レモン」とのコラボを提案してプロデュースしています。

 

ひろしま未来区民として

私の活動の根底にあるのは、生産者や地元尾道へのこだわりです。二次産業、三次産業に比べて、どうも農業、漁業、酪農といった一次産業は置いてきぼりになっているというか、あまり注目されていない印象がありますが、私は、一次産業こそ日本のベースになるべきだと考えています。一次産業があってはじめて、お金との交換が生まれるからです。一次産業に従事する皆さんが土から育て、海で獲ってきたものがお金に変わっていく。一次産業に携わる人が今以上に減少してしまったら、その先の産業までもが衰退してしまいます。だからこそ、一次産業にこだわっていきたい。生産者をもっと魅力的に見せる仕事をすべきだと捉えています。

そして、「農家さんが一番大事」という思いを第一に取り組みながらも、将来的には、私たちが好きな地元でもしっかり稼げるし、生活を豊かにしていくことはできるんだと示すモデルになりたいと考えています。これこそが、私がこの会社で伝えたい、表現したいことです。業種は違えど、広島にはここで頑張ろうと取り組んでいる経営者がたくさんいます。「怪獣レモン」プロデュース業を通じて、尾道はもちろん広島の人々に向けて「こうしたらいいんだ」とわかるように背中を見せ、特に若い経営者たちの指標になれたらいいと思っています。

 

 

 

プロフィール

プロフィール

山岡 由明さん

1991年生まれ/
尾道市出身

農業プロデューサー

ひろしま未来区
LINE はてブ Pocket