海・土・ひとへ、恵みを循環。トマトもつくる有機肥料やさん|大成農材株式会社 代表取締役社長 杉浦朗
捨てるものに価値がある。海から人へ、自然がつながる
大成農材は今から39年前、母方の祖父が立ち上げた有機肥料メーカーです。祖父はもともと大手商社に勤めていて、肥料部門を担当したことがありました。輸入商社では化成肥料の輸入が一番多いのですが、今から50年ほど昔でも化成肥料の使い過ぎによる土壌環境の悪化などは問題となっていて、祖父は「化成肥料だけを仕入れるのはどうなのだろう」という思いがあったようです。それで、早期退職して会社を創業する時、やるなら有機肥料で、と考えたそうです。そうして祖父は、「土がよくなる」「微生物が増える」という有機肥料ならではの価値を深掘りすることに力を入れました。大学卒業後に千葉でサラリーマンをしていた僕が3代目社長に就任したのは2016年のこと。祖父直々の指名により家業を継ぐことになりました。
大成農材の有機肥料には、秘密があります。それは肥料のもとになる材料、北海道で獲れたイワシやマグロなどの魚の残渣(残りかす)から出てくる中でも一番使用用途が少ない、臭くて扱いにくい煮汁です。使い道のなかった煮汁を凝縮して宮城県石巻市の工場でつくる肥料は、100%天然の有機肥料で、魚が丸々入っている様なものなのでアミノ酸が豊富。植物がそのままアミノ酸を吸収したり、土の中にいる微生物のエサとなって植物に吸収されたりすることで、作物の中にうまみが凝縮されます。魚からつくる肥料、肥料がつくる土、土がつくる作物、そして作物はひとの口に。もともと捨てるはずだったものに価値が生まれ、海から人へと自然の恵みのバトンがつなげられているのです。
有機肥料メーカーがつくるトマト
肥料メーカーとしてBtoBの事業を展開してきた大成農材が、自社で栽培した「ひりょうやさんのトマト」を販売するようになったのはここ数年のことです。トマトづくり自体は、2012年からほとんど祖父の趣味のような形で取り組んでいました。ただそのころは農家さんの土地を使わせてもらっていたこともあり、自由に思うように栽培することができず、味はおいしくても生産が安定しなかったりと、事業化するには至りませんでした。
本格的に自社農園をつくったのは僕が社長になってからです。2018年、祖父の夢を形にしようと、広島県三原市大和町にオランダ式のトマトハウスを導入してトマト栽培をスタートしました。オランダ式温室栽培は、トマトの茎を上に上にと伸ばすことで生育が旺盛になり、少ない面積でも収穫量が増えます。とにかく、やるからには一番いい条件でおいしいトマトをつくりたいと思いました。祖父の夢だからというのももちろんですが、有機肥料の効果を証明したいという気持ちもあったのです。うちの有機肥料がよくて野菜がおいしいのか、それとも農家の腕のよさがあってこそ野菜がおいしくなるのか、半信半疑なところがありました。もし、僕らのような素人にもおいしいトマトがつくれるなら、これはうちの有機肥料に効果があると客観的に認めることができるのではないかと。
その結果、「甘さ」と「うまみ」が特長の「ひりょうやさんのトマト」ができました。このトマトは市場の一般的なトマトの4倍ほどの価格で販売していますが、味が差別化されているためか、贈答用に購入する方が多いです。そしてプレゼントされた方がまた気に入って定期購入してくれるなど、口コミや試食販売からリピーターが生まれることが多いです。
自社農園の大成ファームでは、糖度をおいしさの指標のひとつにしています。市場に出回っているトマトの糖度は4~5度程度。一方、大成ファームのトマトは9.1度と、通常のトマトの2倍以上の糖度を持っています。純粋に糖度だけみればうちよりも甘いトマトはたくさんありますが、多くの消費者に「おいしい」と言ってもらえる理由は「うまみを感じやすい」ことにあると考えています。作物をおいしくないと感じる時、その原因はえぐみや雑味にあることが多く、たとえうまみがあってもえぐみや雑味が邪魔をしてしまうと、本来のおいしさがわからなくなります。その点、大成ファームのトマトはえぐみや雑味が少ないので、甘みと同時にうまみもしっかり感じられ、おいしく食べてもらえるのだと思います。
ただ、このトマトは皮が薄くて割れやすく、栽培が難しい上に、収穫量も少ないというデメリットがあります。食べごろに熟した一番おいしい出荷前のタイミングで規格外になってしまうことが多く、それゆえに栽培する農家はとても少ないのです。ふつうなら、収穫前に割れてしまった等の規格外のトマトの数をどう抑えるかに注力すると思いますが、うちの場合は全く気にしません。規格外のトマトはアップサイクルし、トマトジュースとして販売するからです。魚の残渣から有機肥料をつくった時の「捨てるものに価値がある」という成功体験があったからでしょうか。これがだめでも何か方法があるのではと考えを切り替えることが身についたようです。売れないものを生ジュースにして社内で飲んでみたらめちゃくちゃおいしかったので、「じゃあ商品化しよう」ということになったのです。魚を加工する時にできた残渣が肥料に。そして規格外のトマトがジュースに。それぞれ違う業種でのビジネスですが、根底にある考え方は共通しています。
ひろしま未来区民として
現在は有機肥料メーカーとトマト農家の二刀流ですが、これからどんどんトマトに寄っていくかもしれません。「ひりょうやさんのトマト」ではなく「トマトやさんの肥料」になる時がくるかもしれません。トマトを会社の事業として成り立たせたいという思いを強めたのは、トマトを食べた人の「本当においしかった」という言葉でした。今まではメーカーだったので、消費者の声を直接聞く機会はありませんでした。だから、その言葉に心を打たれたのです。農園で作業する社員も、本社の社員も、みんな自分が褒められたような気持ちになりました。この経験が「おいしいものをお届けして、もっと喜んでもらいたい」という意欲につながりました。
トマトは広島で高い評価を得ているので、いずれは関東圏に大きなトマトハウスを建て、関東でも勝負したいと思っています。大成農材のブランドというだけでなく、広島のブランドだという思いで取り組み、ミニトマトを広島の名産にするつもりでこれからも挑戦していきます。