バスと電車と足で行くひろしま山日記 第66回右田ヶ岳(山口県防府市)

右田ヶ岳山頂から防府市街と瀬戸内海を見下ろす

 


山口県No.1人気の山へ


山陽新幹線で山口県の防府市付近を通過する時に北側を見ると、岩稜をまとった迫力ある山が姿を見せる。高さはないのだが、「登ってみたい」と思わせる存在感は抜群だ。調べてみると山名は右田ヶ岳(みぎたがだけ)、標高は426メートルだ。登山アプリYAMAPには、山ごとに直近1ヵ月のアプリ利用者の登頂回数を表示する機能があるのだが、なんと843回(!)。他の山口県内の山は100回にも達しない山ばかりなので頭抜けている。山口県内の山では圧倒的人気ナンバーワンだ。広島から行くとなると山陽線の普通電車を岩国で乗り継いで3時間近くかかる。徳山まで新幹線を利用すると1時間20分ほどで済むが、運賃は倍(4070円)になる。山歩きだけなら所要時間は3時間くらい。急ぐ必要もないし、のんびり在来線の旅で行くことにした。

 

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ

行き)JR山陽線(おとな片道1980円)/横川(06:30)→(07:15)岩国(07:16)→(09:19)防府
中国JRバス防長線(おとな片道220円)防府駅前(09:25)→(09:32)右田

帰り)JR山陽線(おとな片道1980円)/防府(15:12)→(17:04)岩国(17:23)→(18:08)横川

 

 


スタートは歴史ある古刹


不思議なことだが、電車の中では読書が進む。新幹線よりも在来線の普通電車の方がいい。広島では通勤に電車を使わないので車中読書の機会もあまりなかったが、今回は文庫本を1冊持ち込んだ。朝日文庫の「藤井聡太のいる時代」(朝日新聞将棋取材班著)。史上初の8大タイトルを独占した、言わずと知れた将棋界のトップ棋士の物語だ。新聞連載は現在も続いているので愛読しているが、毎週日曜日の掲載なのでどうしても細切れになる。やはりまとめて読むと面白い。徳山駅では21分の停車時間もあったが、退屈することなく過ごすことができた。

半分読み終えた頃に防府駅に到着した。人気の山だけにルートも複数あるが、今回は一番人気の天徳寺道を上り、塚原道を下るルートを選択した。JRバスで最寄りの右田バス停まで行き、登山口に向かう。すでに登山を終えたと思しき人たちと何組かすれ違った。右田小学校前にある登山者用の駐車場は10時前だというのに8割方埋まっていた。

 

右田小学校前にある登山者用駐車場の看板。かなり広いが、休日は午前中に満車になることも

 

天徳寺に向かう道。背後の山は石船山

 

登山口のある天徳寺は1192年に源頼朝が創建したと伝えられる古刹。長州藩の家老を務めた右田毛利家の菩提寺として栄えたが、明治維新後の1870年に長州藩の常備軍に選ばれなかった諸隊の兵士が起こした反乱事件「脱退騒動」に巻き込まれて堂宇や宝物を焼失、その後再建された歴史をもつ。巨岩が連なる石船山(せきせんざん 194メートル)を背にたたずむ本堂は風格がある。

 


季節外れの暑さと摩崖仏


境内を抜けるとすぐに登山口だ。師走だというのに、最高気温は20度前後の予報。暑くなることを想定してアウターやフリースを脱いで上りにかかる。覚悟も準備もしていたが、あっという間に汗だくだ。こんな季節に熱中症になっては洒落にならないので、しっかり水分を補給しながら進む。

標高100メートルあたりまで上ると崩れかけた観音堂と岩の上に石燈篭がある場所に出た。

このあたりから、登山道沿いの岩に摩崖仏が彫られている。三十三観音だ。説明板によると、大正時代に観音様を信仰する人たちが、家の繁栄や健康を祈って彫ったのだそうだ。

 

三十三観音を紹介する掲示板

 

壊れかけた観音堂近くに立つ石灯籠

 

すべてを巡るには脇道に入りこまなければならないところもあるので、時間の関係から本道から見える仏様を中心に拝んでいく。水月観世音、龍頭観世音、白衣観世音、持経観世音、蓮臥観世音、施薬観世音…。それぞれの摩崖仏の近くに由来を書いた説明板が立てられているのは親切だ。威徳観世音の説明板にはカマキリが張り付いていた。明らかに季節外れだが、これも暖冬の影響だろうか。

 

持経観世音

 

威徳観世音

 

説明板に季節外れのカマキリが

 


岩場の急登を往く


石船山のピークを越えると少し下ってから右田ヶ岳西峰への上りになる。急な岩場や斜面が連続する険しい道だ。両手足を使って3点支持(確保)を意識しながら上る方が安全な場所もある。両手足のうち3点を固定し、自由な1肢だけで次の手がかりや足場へ移動する技術だ。ただ、難易度は高くはなく、慎重に行動すれば危険はない。

次第に岩に囲まれた右田ヶ岳の山頂が近付いてくる。標高364メートルの八合目には、本峰に直接向かう道と西峰への道の分岐がある。ここは迷わず西峰に向かう。標高390メートル付近から本峰を見上げると、風に翻る国旗(!)と登山者の姿が確認できた。

午前11時26分、西峰に登頂。見下ろすと、南にこれまで踏破してきた石船山や、西側の西銘山(312.4メートル)、遠く周防灘が見渡せた。

 

石船山の山頂から右田ヶ岳を望む

 

右田ヶ岳西峰直下の岩場

 

右田ヶ岳西峰直下の標高390メートル付近から本峰を見ると国旗と登山者が確認できた

 

西峰山頂から上ってきたルートを振り返る

 

西目山と周防灘を遠望する

 


国旗はためく絶景の山頂


ここまで来れば残りはわずかだ。鞍部へ下り、再び上り返すこと約10分、登山者でにぎわう右田ヶ岳の頂上に着いた。山頂は南側が平坦な岩上の広場で、掲揚台に国旗がはためいている。旗が傷んでいないのは、毎日朝と夕方に上げ下ろしのために登ってくる人が管理しているためらしい。

 

国旗はためく右田ヶ岳山頂

 

右田ヶ岳山頂から防府市街、周防灘を望む

 

眺望は言うことなしだ。この日は好天ながら少しもやっていたが、条件が良ければ周防灘を隔てて九州の国東半島や由布岳、九重連山まで見渡すことができることもあるそうだ。眼下には防府の街並みが広がり、時折山陽新幹線が通過していく。飽きない景観だ。

時刻は昼食どき。北側の小広場に移動して場所を確保した。用意したのは冬の登山の定番、カップヌードルだ。可部連山(https://hread.home-tv.co.jp/post-329932/)でエビ抜きの「謎肉まみれ」を食した時にはスタンダードが良いと思ったが、逆に謎肉抜きの「エビまみれ」をスーパーで見つけてつい買ってしまった。こちらのビジュアルもなかなかの迫力。エビのだしが効いていて、さっぱりしたスープも好みの味だった。残ったお湯でドリップコーヒーを淹れ、デザートのチョコレートをつまんでエネルギーを補給した。

 

昼食はカップヌードルエビまみれ。なかなかのビジュアル

 

そうしている間にも次々と登山者がやってきて、広い山頂の思い思いの場所に腰を下ろして食事をしたり、景観を楽しんだりしている。アクセス良好、変化に富んだ登山道、抜群の眺望。人気が出るはずだ。

 

にぎわう山頂

 


下山は塚原道


約1時間休憩して下山にかかった。帰りは最も整備されているという塚原道を下る。標高230メートル付近に岩場を数十メートル下る個所があるが、ロープも設置されており、慎重に下れば問題ない。

 

ロープを伝い慎重に下る

 

標高200メートル付近に直登道との分岐がある。直登道は岩稜を縫うようにして直接山頂に向かうスリリングなコースで、右田ヶ岳好きの人たちに人気があるそうだ。

 

直登道との分岐

 

終盤は緩やかな林間の道を歩く。林を出たところが広場になっており、海宝寺というお寺の跡だそうだ。石塔の一部が残されていた。

 

塚原道は整備が行き届いている

 

海宝寺跡

 

塚原登山口

 

塚原地区から見た右田ヶ岳。左から石船山、右田ヶ岳西峰、右田ヶ岳(本峰)

 


防府天満宮で天神餅


時刻は13時25分。せっかく防府市に来たのだから、防府天満宮に参拝しよう。塚原口登山口から防府天満宮までは約3キロ。バス便はないので歩くことにした。

菅原道真を祀った天満宮は全国に数多くあるが、ここ防府天満宮は904年の創建とされ、「日本最初の天神様」といわれている。太宰府天満宮(福岡県太宰府市)、北野天満宮(京都市)とともに日本三天神に数えられることもある。

天神山(166.8メートル)の南麓に配された社殿に参拝した。本殿や拝殿、朱塗りの重層楼門と翼廊はいずれも昭和になってからの建築だが、平安時代の様式も取り入れた重厚な建物は見ごたえがある。

 

防府天満宮の参道。後方は天神山

 

防府天満宮の重層楼門と翼廊

 

参拝を終えて参道を歩いていると、「防府名物天神餅」の看板が目に入った。餡の入った焼き立てのお餅で、1つ140円。迷わず購入した。九州にいたときには太宰府名物の梅ヶ枝餅をよく食べたが、この天神餅も上品な甘さでおいしい。疲れが取れたような気がして足取り軽く1.6キロ先の防府駅に向かった。

 

天神餅をいただいた

 

《メモ》独特な自由律の俳句で知られる漂泊の俳人・種田山頭火(1882‐1940)は防府市の出身で、右田ヶ岳を詠んだ句を残している。

 晴れて鋭い 故郷の山を 見直す

防府天満宮の近くに山頭火の生涯や資料を紹介する「山頭火ふるさと館」(https://hofu-santoka.jp/)がある。無料。

 

2023.12.10(日)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

ライター えむ
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
LINE はてブ Pocket