“子どものため?” 加熱する中学受験に潜む教育虐待の可能性
2023年春、首都圏の中学受験者数が過去最多となりました。
一方で、過熱する中学受験に潜む教育虐待の可能性も指摘されています。
受験と教育虐待について、専門家の意見を踏まえて考えました。
私立・国立中学の受験者数(首都圏)(出典:首都圏模試センター)
【広島県の私立・国立中学進学率】
広島県の私立・国立中学進学率は、全国5位の11.9%。大阪府や神奈川県の都市部よりも高く、全国トップクラスの中学受験激戦区なんです。
私立・国立中学進学率ランキング(出典:文部科学書「学校基本調査」令和5年)
また、受験がどのようなものだったのか?というアンケートでは、
「子どもの学力向上に役立った」
「子どもの精神的成長に役立った」
と考える保護者の割合が高かった一方、
「受験勉強は苦しかった」
「自由な時間が減って苦しかった」
と答える子どもの割合が比較的高かったのです。
受験とはどのようなものだったか?(出典:進学塾「栄光ゼミナール」)
【受験をする子どもとの向き合い方】
受験が子どもに与える影響と、この時期の子どもとの向き合い方を、中学受験カウンセラーの佐藤麻依子さんにおうかがいしました。
自身の息子さんの中学受験の経験をもとに、中学受験カウンセラーとして活躍中の佐藤さん
「中学受験は、受験期、思春期、反抗期の三重苦なんです。だからつらい。遊び盛りなのに遊べない。相当な努力、犠牲や我慢を強いるので、それが子供の負担・ストレスになる」
特に、6年生の夏以降はストレスが何倍にも増加するそう。
「親は偏差値を重視する。それが上がっていかないと焦ってしまい、受験しか見えなくなってしまう。子どもの将来を思っての言葉でも、それが子どものストレスの原因になることもあります。一番良くない言動は命令形。あとは、脅迫形。『勉強しないとゲームやらせないよ』とか」
親が気をつけるべき言葉
自身もガミガミ言う母親だったという佐藤さんですが、お子さんのある異変で我に返ったと言います。
「毛を抜くようになったんです。まつ毛とかを抜くようになって。その症状が進行すると、『抜毛症』という依存症のようなものになってしまうんです」
こうした子どものストレスサインは、見えにくい場合もあるため注意が必要です。
子どものストレスサイン
親はサポーター役に徹すること。子どものペースや思いを尊重し、受け止めることが大切だと佐藤さんは話します。
受験シーズン直前 子どもとの向き合い方
【教育熱心と教育虐待は紙一重】
教育熱心であることは、行き過ぎると教育虐待になる可能性もあります。
『やりすぎ教育』の著者である臨床心理士の武田信子さんに話を聞きました。
「スポーツであれ、音楽であれ、勉強であれ、本人がやりたくない、もう無理だと言っているにも関わらず、もうちょっとやりなさいと押し付けて、子どもがどんどん追い詰められていってしまうのが教育虐待の特徴です」
とにかく良い学校に入れたいという親心で多くの子どもが苦しんでいる状況があると、武田さんは指摘します。
「子どもが頑張っても難しい学校を目指させる。これは虐待につながっていく可能性がある。教育熱心と教育虐待の違いは、子どもが『NO』と言えるかどうかだと思います」
教育熱心と教育虐待は紙一重だと言います
武田さんは、日本の教育自体が広い概念での教育虐待ではないかと警鐘を鳴らします。「子どものため」という大義名分のもと、過度に勉強を強いることは見直す時期ではないかと話します。
武田信子さんが語る教育虐待やエデュケーショナル・マルトリートメント
子どもが日本で本当に幸せに暮らせているのかを、皆が振り返る必要がある時期なのかもしれません。
広島ホームテレビ『ピタニュー』(2023年11月8日放送)
ライター:神原知里