バスと電車と足で行くひろしま山日記 第59回 大万木山(庄原市・島根県飯南町)

どっしりとした山容の大万木山 どっしりとした山容の大万木山

 

読者のみなさま大変ごぶさたをしてしまいました。決してさぼっていたわけではなく、前回5月26日に「周防アルプス」(https://hread.home-tv.co.jp/post-272081/)をアップした後、松葉杖が必要な肉離れを起こしてしまい約2カ月間山歩きができなくなってしまったのです。加えて8月は山登りには危険な酷暑の連続だったうえ体調不良もあり、なかなか再開のタイミングをつかむことができませんでした。厳しい暑さはまだまだ続いているのですが、中国山地の脊梁部、1000メートルを超える山なら少しは涼しいのではないかと考えました。愛用している山の天気予報サイト「てんきとくらす」(https://tenkura.n-kishou.co.jp/tk/)で調べたところ、庄原市と島根県飯南町頓原の境界にある大万木山(おおよろぎやま 1218メートル)は1000メートル付近で気温21度、登山指数もA-Bとまずまず。公共交通機関はないので車を利用して行ってきました。

 

▼今回のルート(※車を利用)

【行き】中国自動車道・高田IC→県道64号・179号・4号、国道433号・375号、県道62号、国道54号→島根県道273号・門坂駐車場、滝見コース登山口
【帰り】門坂駐車場→島根県道273号→国道54号→中国自動車道三次IC
*往路の高田ICまで、復路の三次IC以降のルートは省略

 

 

 


入山は島根県側から


午前5時半に広島を出発した時は本降りの雨。「てんきとくらす」によれば現地の天気は大丈夫なはず、と信じて現地に向かう。大万木山は広島県庄原市高野町と島根県飯南町頓原の両方から登れるが、高野町ルートは稜線まで車で行けるため、登山としては少し物足りない。なので、島根県側のルートを選択した。県境の赤名峠を越えたあたりから雨も上がった。山には少しガスがかかっていたが、頓原で国道54号から県道に入ると前方にどっしりとした大万木山の山体が姿を現した。

スタート地点の門坂駐車場の標高は約640メートル。人気の山だが、天気が思わしくないせいかほかに車はなし。久しぶりの山行なのでゆっくりペースで滝見ルートを上る。雲は厚く、いまにも雨が降り出しそうだが、渓流沿いの林間の道はよく整備されており、涼しくて歩きやすい。

 

滝見コースの入り口 滝見コースの入り口

 

よく整備された林間の道 よく整備された滝見コースの道

 

約15分でコース名の由来になった権現滝に着いた。登山道から数メートル下りて滝に寄る。コンパクトで水量も少なめだが、なかなか優美な滝だ。しばし滝の近くで涼んで登山再開。避難小屋の横を通り、一服岩を過ぎるとアスファルト舗装された林道に合流する。100メートルほど歩いて再び山道へ。傾斜もさしてきつくはないのだが、約3か月ぶりの登山で体力が衰えているせいか、結構息が上がる。

 

滝見コース由来の権現滝 滝見コース由来の権現滝

 

滝見コース避難小屋。山頂、渓谷コースにもあり、悪天候時に雨具を着たり休息をとったりするのにも助かる 滝見コース避難小屋。山頂、渓谷コースにもあり、悪天候時に雨具を着たり休息をとったりするのにも助かる

 

一服岩 一服岩

 

林道に合流。100メートルほど舗装路を歩いて再び山道へ 林道に合流。100メートルほど舗装路を歩いて再び山道へ

 


雲間から宍道湖


登山開始から約1時間、標高990メートルの地蔵尊展望台に着いた。門坂峠地蔵尊の小さな祠の前が休憩所になっており、ベンチやテーブルが整備され、北側の眺望が開けている。雲が垂れ込めていたが、合間にわずかに宍道湖の青い水面が見えた。天気が良ければ約130キロ離れた隠岐諸島まで望めるらしい。

 

門坂峠地蔵尊と展望台の広場 門坂峠地蔵尊と展望台の広場

 

ベンチが置かれた地蔵尊展望台 ベンチが置かれた地蔵尊展望台

 

地蔵尊展望台から北方を望む。雲の下に宍道湖の水面が見える 地蔵尊展望台から北方を望む。雲の下に宍道湖の水面が見える

 

天気が良ければ隠岐諸島も見えるらしい 天気が良ければ隠岐諸島も見えるらしい

 

さらに上る。つづら折りの道を15分ほど歩くと傾斜は緩やかになり、周囲はブナの林になる。しばらくするとまた急坂になり、水飲み場を過ぎて10分ほどで頂上避難小屋。そこから3分で山頂の広場に着いた。ここまで約2時間。コースタイムよりも遅れている。天候が回復して気温が上がってきたこともあるが、やはり3か月のブランクは大きいようだ。

 

歩きやすい尾根道 歩きやすい尾根道

 

山頂近くにある避難小屋 山頂近くにある避難小屋

 

大万木山の山頂標識 大万木山の山頂標識

 

山頂広場。樹木に囲まれて眺望はない 山頂広場。樹木に囲まれて眺望はない

 


山の「主」に会いに行く


山頂の周囲は樹林に囲まれており、残念ながら眺望はない。だが、大万木山の主役は山頂ではない。頂上広場から権現コースを1、2分歩いたところに「山頂大ブナ」の大看板があり、矢印の先に巨大なブナの木が立っていた。「タコブナ」と呼ばれる巨木だ。根元から1メートル余りの高さから11もの幹が株立ちして枝を広げており、その名の通りタコを逆さにして地面に突き刺したような特異な樹形だ。ブナの巨木は中国山地のあちこちで見ることができる。第32回で紹介した大峯山(https://hread.home-tv.co.jp/post-170137/)の峯太郎ブナもなかなかの迫力だったが、こちらの異形ぶり、存在感は際立っている。この山の「主」というにふさわしいと思う。(動画もご覧ください)

 

タコブナ。山の主の風格がある タコブナ。山の主の風格がある

 

根元から幹が11に分かれている 根元から幹が11に分かれている

 

 

タコブナのもう少し先にある山頂展望台にも行ってみたが、ガスに包まれて視界なしだったので早々に引き返して下山にかかった。

 


真夏の山野草たち


山歩きの楽しみのひとつは花々との出会いだ。8月に咲く花は少ないのだが、それでも下山路沿いには薄いピンク色の花びらをつけたヤマアジサイや、白地に紫色の斑点の入った6片の花びらと立体的なおしべや柱頭が特徴的なヤマジノホトトギスが目を楽しませてくれる。ちなみにヤマアジサイの学名には、NHK朝の連続ドラマ「らんまん」の主人公のモデル、牧野富太郎が命名したことを示す「Makino」が入っている。キンミズヒキ(多分)の黄色の小花も美しい。野イチゴの仲間(ナワシロイチゴ?)が鮮やかな赤い実をつけ、クリの実がそこここに落ちていて暑さの中にも季節が移りつつあることを感じさせる。花ではないが、雨粒がついたクモの巣は宝石のように美しかった。足に疲れもきていたが、自然の造形を楽しみながらゆっくり下山した。

 

ヤマアジサイ ヤマアジサイ

 

ヤマジノホトトギス ヤマジノホトトギス

 

キンミズヒキ(多分) キンミズヒキ(多分)

 

ナワシロイチゴ? ナワシロイチゴ?

 

イガに包まれたクリ イガに包まれたクリ

 

水滴がついて宝石のように見えるクモの巣 水滴がついて宝石のように見えるクモの巣

 


炭酸温泉と出雲そば


門坂駐車場に帰り着いたのは12時。時間はたっぷりある。ここ頓原には全国でも数少ない炭酸泉の温泉「ラムネ銀泉」(https://www.ramune-ginsen.com/)があるのだ。帰る途中にあるので寄らない手はない。

 

横手コースを通ってスタート地点の門坂駐車場に向かう 横手コースを通ってスタート地点の門坂駐車場に向かう

 

頓原ラムネ銀泉。登山の後におススメです 頓原ラムネ銀泉。登山の後におススメです

 

泉質は含二酸化炭素・ナトリウム・塩化物冷鉱泉。源泉は炭酸ガスと皮膚を滑らかにする炭酸水素イオンを高濃度に含んだ約15度の冷鉱泉で、38度ほどに加温して供しているそうだ。効能は動脈硬化、疲労回復、腰痛、皮膚炎、胃腸病など。駐車場に車を停め、600円の入浴料を払って入湯した。

2週間ほど湧き出ては1日止まることを繰り返す間欠泉だそうで、湧出後の時間の経過によって湯の色が透明→グリーン→イエローグリーン→イエロー→オレンジに変化していくのだそうだ。(湯は毎日入れ替えているとのこと)

この日はグリーンの湯色だった。ぬるめの湯船につかると肌に小さな気泡がつく。以前行ったことがある大分県の七里田温泉(竹田市)や筌(うけ)の口温泉山里の湯(九重町)のように体中が泡だらけになるわけではないが、つかっているとじんわり体が温まり、久しぶりの登山の疲れが抜けていく。40分ほどかけてゆっくり入浴したが、含有物の効果なのか、上がった後も肌はさっぱりとした感覚が続いた。

お風呂の次は昼食だ。頓原には奥出雲そばの有名店「一福」の本店が帰り道の国道54号沿いにある。スムーズに入店でき、名物の舞茸天ぷらの温そばをいただいた。そばを泳がせたそば湯に好みの味になるようつゆを入れるスタイルだ。揚げたての大ぶりな舞茸の天ぷらがとてもおいしい。あまりにおいしかったのでお店の人に聞いてみると、すぐ近くの飯石森林組合舞茸センター(https://www.satoyamania.net/332/)で手に入るという。食後に行ってみると、そこは純然たる舞茸の栽培施設で案内看板もない。少し不安になったが、扉の開いている建物の中で働いている人に声をかけると「舞茸、販売していますよ」。無事入手して帰途についた。

 

昼食は一福の舞茸天ぷら温そば 昼食は一福の舞茸天ぷら温そば

 

2023.8.26(土)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

ライター えむ
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
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