一人ひとりの挑戦が活気を生む町のスクランブル交差点/うだつ上がる(徳島県美馬市)

重要伝統的建造物群保存地区を元気にしたい

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吉野川に面した脇城の城下町として発展した脇町。船で藍を運ぶ集積地として古くから栄え、本瓦葺きで漆喰塗りの“うだつ”が多く見られることから『うだつの町並み』と呼ばれています。国の重要伝統的建造物群保存地区であり、江戸時代中期から昭和初期までの建物が醸し出す独特の雰囲気が魅力です。

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しかし、景観が美しい『うだつの町並み』にも過疎化の波が訪れ、近年では空き家が目立つようになっていました。以前、瀬戸内Finderでもご紹介した『ゲストハウスのどけや』や『ワタル珈琲』のような取り組みも増えているなか、県内外から大きな注目を集めているのが、こちらの立派な“うだつ”と虫籠窓を持つ建物です。

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入り口にかけられた大きな藍染の暖簾には、銀箔で「うだつ上がる」というロゴマークが描かれていました。この『うだつ上がる』は、一軒の古民家の中に、建築事務所をはじめ、雑貨店や書店、古着屋やカフェ、バーなど、さまざまな要素を詰め込んだ複合文化市庭。2020年の5月にオープンしました。

 

ヒト・モノ・仕事・文化が行き交う場所をつくる

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取材に応じてくれたのは『うだつ上がる』を運営する高橋利明さん。もともとは大阪の出身ですが、徳島の建築家である新居照和・ヴァサンティ両氏の建築に傾倒。2001年に徳島へ移住し、独立後は建築家として活躍する一方、雑貨店の店主や地域を盛り上げるための活動に従事されています。

「この『うだつ上がる』は、ヒト・モノ・仕事・文化など、いろいろなものが行き交う“スクランブル交差点”にしたいと思って始めたんです」と教えてくれました。

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『TTA+A 高橋利明建築設計事務所』を営む建築家としての高橋さんのテーマは、建物ができる場所や景色と向き合い「その場所でしか成立しない建築」。

たとえば、独立してから初めて設計したのは、瀬戸内Finderでも2016年に紹介した『cafe polestar』。敷地の北側にそびえる上勝町の雄大な山々を生かすため、長いテーブルを置いた奥へと延びていくテラスを設け、まるで窓の向こう側の自然へ飛び込んでいけるようなつくりが印象的。

ほかにも、徳島市の築50年の二軒長屋をリノベーションした『雑貨と喫茶 nagaya.』も高橋さんの手によるものなんです。

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2015年には「暮らしにそっとデザインをそえる」をコンセプトに、徳島市で週末限定の雑貨店『WEEKEND TAKAHASHI STORE』をスタート。建築家としてだけではなく、雑貨店の店主としても知られるように。2016年には、福井県で住宅完成見学会とポップアップストアが合体した『Lifescape』を開催するなど、多彩なプロジェクトに取り組むようになっていったといいます。

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「ずっと“暮らし”に向き合い続けるなかで感じたのは、建築だけでは限界があるということ。生活を取り巻くアイテムも大切だし、その裏側には必ずストーリーがあります。そこを伝えていくには、僕自身がいろいろな人たちと仲良くなっていかなければならないと思いました」と高橋さん。

2017年には自身の住む阿波市のブランディングプロジェクト『あわアワ~』を開催。デザイナー・イン・レジデンスという新しい形で、地域の魅力を見つめ直す試みにも挑戦しました。

 

新しいスタートアップの形で背中を押したい

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『うだつ上がる』は、築100年以上の町家を改装した複合文化市庭。もともとは金融業を営んでいたという立派な建物で、この地域にはめずらしく中庭がある点も特徴の一つです。2017年、高橋さんはこの建物で営業していた店舗の一部を間借りして『WEEKEND TAKAHASHI STORE』を移転。しかし、店舗全体の休止に伴い、2018年9月で自身の雑貨店も残念ながら閉店することに。

「でも、この美しい『うだつの町並み』で何かできないかなと考え続けていたんです。それで立派な“うだつ”を眺めているうちに、複合文化市庭としての“うだつ上がる”のアイディアを思いついて」と高橋さんは話してくれました。

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建築事務所をはじめ、雑貨店や書店、古着屋やカフェ、バーなど、さまざまな要素を一軒に詰め込んだ複合文化市庭にした理由は、どこにあるのでしょう。

「たとえば、阿波市で『あわアワ~』をやったときもそうだったんですが、実は徳島のおばちゃんって行動力の塊なんですよ。いろいろなところで僕自身も助けてもらいました。でも、その一方で、やりたいことがあっても、なかなか踏み出すことができない人たちもいる。だったら、僕が新しい場所をつくれば、もっとチャレンジする人がいっぱい出てくるんじゃないかと考えたんです」。

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お店を始めるためには、さまざまな条件をクリアしなければなりません。そのハードルをできるだけ下げた新しいスタートアップとして、この『うだつの町並み』の古民家を改装していけないだろうか――。

高橋さんは自費を投じるだけではなく、クラウドファンディングで資金を募ることを決意。その熱い思いが込められたプロジェクトは県内外で大きな話題を呼び、最終的には目標額の2倍を達成してゴール。空き家になっていた古民家は、見事に複合文化市庭として生まれ変わりました。それでは、実際に『うだつ上がる』の内部を見ていきましょう。

 

ゆるやかに仕切られた気持ちのいい空間

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入り口のすぐ左側が雑貨や日用品を取り扱うGENERAL STOREゾーン。

こちらの『WEEKEND TAKAHASHI STORE』には高橋さんがセレクトしたアイテムが勢揃い。たとえば、奈良県香芝市にある『Good Job! Center香芝』が、障害のある人とつくる張り子の置き物〈Good Dog〉。そのほか、熊本県南関町で竹のお箸のみをつくる『株式会社ヤマチク』のお箸、新潟県燕三条でつくられる剣持勇デザインのカトラリーなどが並んでいます。

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もちろん、地元である徳島県の優れた製品も見過ごせません。美馬郡つるぎ町にある『有限会社北室白扇』がつくる半田手延めんをはじめ、板野郡上板町の藍師・染師である渡邉健太さん(Watanabe’s)の藍染ハットやポーチ、勝浦郡上勝町の木からできた布である〈KINOF〉のタオルなど、高橋さんが選び抜いた確かな品質のものばかりです。

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正面を向くと、左前方にはVINTAGE CLOTHING STOREとBOOK STORE、右前方にはCAFE & BARが見えます。そして、右前方奥が「ARCHITECTURE OFFICE」、正面奥が「UDATSU AGARU SALON」となっています。一軒の家の中がゆるやかに仕切られ、それぞれのゾーンに分かれていることがわかります。

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左側の古着屋さんは『gotoju』という店名。もともと無店舗で営業していたこのお店は、徳島県美馬市のカレーの名店『白草社』のガレージマーケットなどにも出店。県内の古着ファンには知られたお店の一つです。ほとんど店主はいらっしゃいませんが、季節に応じて状態のいい服や靴、アクセサリーなどを入れ替えているそう。

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その隣が書店『Phil books』。「ほんとひとを繋げていけたらいいな」という店主の思いを具現化したこちらのスペースでは、独特の視点で揃えられた本の数々が何とも魅力的。単行本に文庫本、雑誌やムック、新刊に古本と、本棚に並んだタイトルを眺めているだけでも心が騒ぎます。

こちらも無店舗で営業するスタイルでしたが、県内ではさきほどの『白草社』や『Trip 四国の川の案内人』のガレージセールなどでお馴染みのブックショップ。中四国や関西で開催される本のイベントでは「徳島といえば『Phil books』」と名前が上がることも多く、県外の本好きにも知られています。

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CAFE & BARは特定の店主がおらず、そのときどきで異なるお店が登場するスタイルです。レギュラーで11:00~17:00までカフェを営業しているのは、自然派カフェ&バーの『まひるの月』。素材は基本的に自然栽培やオーガニック・無添加のものを選んでおり、乳製品・卵不使用のヴィーガンメニューも。

ちょうど取材した日の夜は、香川県高松市からお酒とご飯の店『時宅』が、月に一度の出張営業ということで、美味しそうな料理の仕込みが始まっていました。

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こちらは『TTA+A 高橋利明建築設計事務所』のオフィス。普段、高橋さんはここで仕事をしながら『うだつ上がる』に訪れたお客さんたちとコミュニケーションを図っているとのこと。取材当日は、写真手前のデスクで、県外から訪れた高橋さんのご友人が仕事中でした。

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一番奥はいろいろな用途に使うことができる「UDATSU AGARU SALON」です。中庭に面した気持ちのいい空間では、多様な出会いから新しいものごとが生まれているそう。

「先日も僕の好きな人たちがこの場所で出会って、とても楽しそうに話していました。そんな光景を見ることができるだけで『うだつ上がる』をつくって良かったと思っています」と高橋さん。あえて大きなテーブルを置いて相席を必然にすることで、地元の人と観光で訪れた人が自然と交わる効果もあるとか。

「地域の活性化も重要ですが、そんな大それたことは、あまり考えていないんです」と高橋さんは笑います。「まずは自分の手が届く範囲で頑張ればいい。自分の好きなことを軸に努力していれば、そういう人同士はジャンルが違っていても必ずつながっていく。小さくても交わる点が増えていけば、結果的に町は盛り上がるはずですから」。

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2階のGALLERY & EVENT SPACEでも面白い展示やイベントをどんどん行っていきたいと語る高橋さん。

今までにも、手袋で知られる香川県の〈tet.〉や岐阜県郡上市の石徹白(いとしろ)に伝わる野良着をベースにした服づくりを行う『石徹白洋品店』がポップアップストアを展開してきました。FURNITURE STOREでは、徳島県鳴門市の宮崎椅子製作所のチェアの取り扱いがスタートするなど、より魅力的な空間への挑戦が続いています。

2020年に始まった複合文化市庭『うだつ上がる』からの流れが循環し、空き家が減っていけば、もっと『うだつの町並み』は面白くなるはず。これから先の展開も見逃せません。

 

うだつ上がる
住所/徳島県美馬市脇町大字脇町156
電話/050-3433-8218
Facebook @udatsuagaru
Instagram @udatsu_agaru

瀬戸内Finderフォトライター 重藤貴志

 

▼記事提供元

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