建築ファン必見!愛媛の現代名建築めぐり/愛媛県今治市
世界も注目!丹下健三氏設計の『香川県庁舎東館』
2021年8月、アメリカからあるニュースが飛び込んできました。ニューヨーク・タイムズ・スタイル・マガジンが企画する『戦後建築で最も重要な25の作品』に、日本で唯一、香川県庁舎東館が選ばれたのです。
丹下健三氏の設計で1958(昭和33)年に竣工したこの建物は、日本の戦後モダニズム建築の代表ともいわれています。梁と柱で形づくる日本の伝統的な木造建築を、頑丈な鉄筋コンクリートで表現。今回の選出では様式美とともに、現在も使用されている建物であることも評価されました。
香川県庁
住所/香川県高松市番町4丁目1-10
行ってみよう!愛媛の現代名建築めぐり
ご紹介した香川県庁舎東館は名前の通り香川県にありますが、実は丹下健三氏は愛媛県今治市ゆかりの人物。今回は世界的建築家・丹下氏の建築をはじめ、「しまなみ海道」にも足を延ばして、愛媛県今治市の名建築を巡ります。
【スポット 1】丹下建築が3棟並んだ『今治市庁舎』
丹下健三氏は1913(大正2)年に大阪府で生まれ、小・中学生時代を愛媛県今治市で過ごしました。今治市内には彼が設計した建築物が8つもあり、やはり現役で活躍中です。
まず今治市庁舎。本館、第1別館、第2別館の3棟すべてが丹下氏の設計です。
左奥の3階建ての低い本館が、香川県庁舎と同じ1958(昭和33)年の竣工。すぐ右の10階建ての第1別館が1972(昭和47)年、その右の13階建ての第2別館が1994(平成6)年に建てられました。若いほど背が高くて、でも表情は似ている建物3兄弟です。
本館を近くで見ると、足元のスペースは三角形、そこから伸び上がる外壁が斜めに切れ込んでいます。なんと斬新なデザイン!
今治市役所
住所/愛媛県今治市別宮町1丁目4-1
【スポット 2】今治市庁舎の周辺にもまだまだある!丹下建築
そして市庁舎がある敷地内には、さらに2つの丹下建築があります。
一つはコンサートや式典などに使われる『今治市公会堂』。市庁舎本館と同じ1958(昭和33)年の建築です。側面に紙を蛇腹に折ったようなギザギザが並びます。
正面入り口側は大きな箱型。側面とずいぶん違った印象なのがおもしろいですね。
もう一つは公会堂の正面にある1965(昭和40)年築の『今治市民会館』。会議や研修などに使われます。
2階の一面がすべてガラス窓で、窓枠のラインがアミダくじのよう。横一文字にドンと乗った屋根も印象的です。
写真左から、市民会館、市庁舎本館、公会堂。右奥に市庁舎別館2棟も見えます。丹下建築がずらりと並び建つ、今治の顔ともいえる場所です。今治市民にとって故郷の原風景の一つかもしれません。
他にも金融機関の支店など、市内合計8つの丹下建築は近い距離に集まっているので、時代ごとの特徴も楽しみながら巡ってみてくださいね。
【スポット 3】建物以外は希少?『徳冨蘆花文学碑』
建物以外にもう一つ、今治港にある丹下作品です。1984(昭和59)年につくられた明治時代の小説家・徳冨蘆花(とくとみろか)の文学碑です。三角のギザギザに今治市公会堂の面影を感じます。
徳冨蘆花記念碑
住所/愛媛県今治市片原町1 今治港ふれあいマリン広場
【スポット 4】今治港の陸に停泊する船?『はーばりー』
さて、先ほどの徳富蘆花の文学碑があるのは今治港の『みなと交流センター』通称『はーばりー』の裏手海側。その『はーばりー』が、これまたとても素敵な建築なのです。
曲線でかたどられた建物は大きな船のよう。海と空が似合う姿に想像力をかき立てられ、なんだか楽しくなってきます。
下からの眺めも魅力たっぷり。ゆったりと泳ぐクジラにも見えてきました。
2016(平成28)年にできた『はーばりー』は、船やバスを利用するための交通ターミナルであると同時に、コーヒースタンドやビアテラス、キッチンスタジオやホールといった市民向けレンタルスペースもある、人々の交流拠点施設です。
みなと交流センター はーばりー
住所/愛媛県今治市片原町1丁目100-3
【スポット 5】旧校庭に建つ『岩田健母と子のミュージアム』
しまなみ海道を渡って、大三島でも個性あふれる建築を見つけました。かつては島の小学校だった校庭跡地に建つ『岩田健母と子のミュージアム』です。
ここには彫刻家・岩田健氏の母と子を主題にした作品が展示されています。伊東豊雄氏が設計した大きな円形の建物は、中に入ってびっくり!
壁の仕切りも床も天井もありません。半屋外の丸い空間が広がっています。『自然と一緒に作品を楽しむ』というコンセプトの通り、鳥の声や風が運ぶ香り、空気や雨までも感じながら作品を鑑賞できます。
岩田健母と子のミュージアム
住所/愛媛県今治市大三島町宗方5208-2
【スポット 6】建物こそが展示物『伊東豊雄建築ミュージアム』
『岩田健母と子のミュージアム』を設計した伊東氏は、ある時訪れた大三島に強く魅了されたのだそうです。やがて自身の作品を展示する『伊東豊雄建築ミュージアム』をこの地に設立しました。
室内展示はもちろんありますが、建物自体も展示物。輝く瀬戸内海を背に建つ『スティールハット』は、4種の多面体を連結したデザインで、見る角度によって違った姿に見えます。
アーチ型の屋根が連なる『シルバーハット』は、東京の伊東氏の旧自邸を再生した建物です。屋外スペースから眺める景色は一枚の絵画のよう。時折ゆっくりと船が行き交い、汽笛が響き…時間を忘れてしまいます。
伊東豊雄建築ミュージアム
住所/愛媛県今治市大三島町浦戸2418
【スポット 7】すべてがアート『ところミュージアム大三島』
『伊東豊雄建築ミュージアム』からわずか200mほどのところに、建物もアーティスティックな美術館『ところミュージアム大三島』があります。
国内外の現代アートが展示されていて、入り口の扉も『キッシング・ドア(Kissing Doors)』というアート作品。両扉が閉じると二人の顔が近づいて…というわけです。
瀬戸内海を見下ろす斜面に建っています。ゆるやかなスロープを下りながら鑑賞。
ふと目に入る自然が展示品と美しく調和します。海に面したオープンテラスも素敵ですよ。
ところミュージアム大三島
住所/愛媛県今治市大三島町浦戸2362-3
保存や鑑賞用ではなく、生活の中で身近に利用する建物であることも、現代建築の魅力の一つでしょう。姿かたちの美しさも機能性も兼ね備えた建物たち。年月と歴史を重ねて、未来のどこかでは貴重な文化遺産になっているかもしれませんね。
瀬戸内Finder編集部
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