バスと電車と足で行くひろしま山日記 第54回 神峰山(大崎上島町)

神峰山の山頂からとびしま海道の島々を望む

今回も島山シリーズ。瀬戸内海の多くの島が次々と橋で本土とつながる中、倉橋島、能美島に次いで県内第3位の面積をもつ大崎上島は、船でしか行けない島だ。その最高峰・神峰山(かんのみねやま 452.3メートル)の頂上からは、明治の元勲・伊藤博文が感嘆したという厳島・弥山(535メートル)山頂の眺望にも匹敵する景色が楽しめると聞いた。海と島が織りなす絶景を求めて大崎上島に渡った。

 

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ
行き)
①JR可部線・呉線(おとな片道1340円)横川(5:41)→(5:46)広島(6:03)→(6:59)広(7:05)→竹原(8:02)
②土生商船(おとな片道900円)竹原港(9:03)→天満港(9:26)

帰り)
①土生商船(おとな片道900円)天満港(14:22)→竹原港(14:46)
②タクシー(660円)竹原港(14:47)→JR竹原駅(14:53)
③JR呉線・山陽線(おとな片道990円)竹原(15:05)→(15:41)三原(15:44)→福山(16:16)

*所用で関西方面に向かったため福山以降は省略

 

 


海の駅でお得なお弁当をゲット


広島から大崎上島に渡るには、少々時間がかかる。まずJRの電車を乗り継いで竹原まで行き(2時間21分かかった)、約20分(1.5キロ)歩いて竹原港へ。ここから高速船かフェリーに乗るのだが、登山口近くの木江(きのえ)・天満港へは高速船を利用することになる。

山日記 フェリーが並ぶ竹原港

港の待合室は「たけはら海の駅」になっており、売店もある。昼食はマイブームのカレーメシを用意してきたのだが、少し時間があるので店をのぞいてみる。

鯛めしにカキフライ4個とサラダがついたお弁当がなんと580円!これはお得、買わない手はない。竹原の地酒・龍勢の酒粕を練りこんだ揚げかまぼこ「たけはら酒かす天」2枚セット(280円)も購入。ちなみに製造元の近末さんのHP(https://www.chikasue.com/)によると、ほかにも竹原の日本酒「誠鏡」「竹鶴」の酒粕を使った製品もあるそうだ。昼食メニューががぜん豪華になって気分もはずむ。

 


広島の「軍艦島」


高速船「かがやき2号」に乗って大崎上島に向かう。数分で右前方に不思議な島が見えてきた。島全体に工場施設が立ち並び、煙突から煙を出している。その姿は、長崎の軍艦島(端島)にも似ている。後で調べてみると、この島は契島(ちぎりしま)といい、全島が国内最大の鉛の精錬所になっているのだそうだ。瀬戸内海にこのような場所があるとはまったく知らなかった。

山日記 今回の島への足は高速船「かがやき2号」

 

山日記 広島の軍艦島?全島が日本最大の鉛精錬所の契島

海は穏やかで、快適な船旅だ。大崎上島の東側、大三島との間を南下し、20分余りで木江の天満港に着いた。ここから登山口までは海沿いの道を700メートルばかり歩く。小さな波に陽光が反射し、きらきらと輝く。穏やかな気分になり、江戸時代の俳人で画家でもあった与謝野蕪村の有名な俳句が自然と口をついた。
「春の海 終日(ひねもす)のたり のたりかな」

山日記 きらめく春の海を見ながら海岸を歩く

 


こんな登山口見たことない


不思議な建物が見えてきた。「かもめ館」だ。7層(に見える)の塔の最上部に連絡橋が接続されている。塔を上り、橋を渡ったところが登山口になっている。こんな意匠を凝らした登山口は初めてだ。

山日記 登山口のかもめ館

竜宮城のような造形とカラーリングの建物に入ると、係の方が塔の入口まで案内してくれた。節電のためか照明が消されているので助かる。

山日記 かもめ館の入り口。竜宮城のよう?

外観も派手だが、内部も派手だ。鉄骨は青、階段は赤、手すりは緑色にカラーリングされている。勇んで上り始めたが、螺旋階段を6周ほど回って最上部へ達した時には息が上がった。山登りの準備運動にはいいのかもしれないが、少しきつかった。

山日記 当の内部は螺旋階段

連絡橋からの眺めも空中浮遊感があって面白い。ただし、かもめ館は月曜日が休館なので入れない。もし月曜日に登山をするならかもめ館の少し木江寄りにある登山口を利用しよう。

山日記 浮遊感を楽しめる連絡橋

 

(動画をご覧ください)

 

 

連絡橋を出ると、そこは高野山真言宗金剛寺の境内。頭を垂れて境内を横切ると登山道が始まる。最初はコンクリートで舗装された急坂だ。

山日記 神峰山を背に立つ高野山真言宗金剛寺

 

山日記 登山道の案内看板

 

山日記 山上の石鎚神社遥拝所前の展望台までの距離を教えてくれる。親切

 


全ルート眺望がすばらしい登山道


道はやがて山道に変わる。木段もあるが、基本的によく整備された歩きやすい道だ。要所に山上の展望台までの距離を記した看板が立てられており、ゴールまでの目安がわかるのはありがたい。標高120メートル付近には、ヤマツツジが鮮やかな朱色の花を咲かせて目を楽しませてくれた。

山日記 登山道脇に咲いていたヤマツツジ。朱色が鮮やか

地図を見てもわかる通り、登山ルートは等高線の間がみっちり詰まった急登が続く。しかし、ジグザグになって上る道になっているので、斜面の傾斜に比べて登山道の斜度はわりと緩やかだ。そのうえ左に上る時は四国方面の、右に向かう時は竹原方面の、それぞれ海と島の景色の変化を楽しめる。道の周囲に背の高い樹木が少ないこともあってすばらしい眺望を楽しみながら歩くことができる。

山日記 登山道からの眺めもすばらしい。高度が上がるにつれて変化も楽しめる

徐々に高度を上げて行くに従って変わっていく風景も楽しい。島の山はいくつも登ったが、ほぼ全ルート渡ってすばらしい眺めを楽しめる山は初めてだ。

山日記 神峰山(左)とよく整備された登山道

 

山日記 ジグザグの登山道のおかげで景色の変化が楽しめる

 


4つの絶景展望台


かもめ館を出発して約1時間、山上の石鎚神社遥拝所に着いた。社殿の前にはコンクリート製の展望台があり、上ってみると眼前には大三島、眼下に大下(おおげ)島。その向こうに来島海峡大橋、四国の高縄半島が見え、うっすらと石鎚山(1982メートル)などの四国連山も望めた。

山日記 石鎚神社遥拝所

楽しい上りだったとはいえ、島の山らしく海抜0メートルからほぼまるまる標高通りの高度差を上ってきただけに結構疲れもあったが、一瞬で吹き飛んだ。霊峰として信仰を集める石鎚山を遠くから拝む場所は広島県内にも各地にあり、これまで登った山の中にも行者山(大竹市)や黒滝山(竹原市)などに「石鎚」の名を冠した社があった。

次は最高地点の山頂に向かう。神峰山には石鎚神社遥拝所前の展望台のほかに、第1~第3の計4つの展望台があり、それぞれに展望エリアが分かれている。第1展望台は北側の竹原方面、第2展望台は生口島から大三島、来島海峡方面、第3展望台は来島海峡から四国・今治方面、下蒲刈島から大崎下島に至るとびしま海道、竹原方面の一部まで最も広い範囲を望むことができる。

山頂の手前の第2展望台までは平坦な道をゆっくり歩いて3分ほど。正面に大三島の最高峰・薬師山(434.9メートル)が端正な姿で鎮座している。生口島・観音山(472.1メートル)は、南側が急斜面になって切れ落ちているのがよくわかる。2月にはあの急斜面の荒れ道を下ったと思うと感慨深い。

山日記 第2展望台から見た大三島・薬師山

 

山日記 南斜面が切れ落ちた山容が特徴的な生口島の観音山。第2展望台から

 


弥山に負けない大展望


第2展望台から標高差にして20メートルばかり上ると本日のハイライト、神峰山山頂と第3展望台だ。鐘撞堂と薬師堂(コンクリートの劣化で堂内立入禁止)の横に立つきれいな施設だ。地図に付したパノラマ写真を見ていただいてもわかるが、掛け値なしにすばらしい眺望だ。

山日記 山頂の鐘撞堂と薬師堂

 

山日記 最高の眺めが楽しめる第3展望台

 

山日記 今治方面を望む。来島海峡大橋の連なりが見えた

 

山日記 左から小大下島、岡村島、大崎下島

 

山日記 大崎下島、豊島、上蒲刈島が連なるとびしま海道の島々

伝説によると、宮島の厳島神社の祭神の市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)が行方不明の我が子を探して瀬戸内海を旅する途中にこの山へやって来て、景色に癒されて一時はこの場所を終の棲家に考えたことから山名がついたのだそうだ。

山日記 神峰山の伝説を記した看板

初代内閣総理大臣の伊藤博文は「日本三景の一の真価は頂上の眺めにあり」と厳島・弥山の山頂からの眺望に賛辞を贈ったが、神峰山の眺めもまったく負けていない。弥山のように360度の眺望という訳にはいかないが、芸予諸島の100を超える島々が見渡せるといわれる景観の雄大さは見ていて飽きない。

展望台にベンチやテーブルがないのは残念だったが、床にクッションを敷いて昼食にすることにした。もちろん、メニューは海の駅で買ったお弁当と酒かす天。風もなく暖かで最高の眺めを楽しみながらのぜいたくな時間を過ごさせてもらった。お宝といってもいいすばらしい山なのだが、なぜか市販の登山ガイド本には掲載がない。町のPRが足らないのかもしれない。

山日記 本日のお弁当。カキフライ4個と鯛めしで580円はお得。酒かす天も美味

 

山日記 マツダスタジアムで買ったカトラリーセット

 


木江の素敵な古民家カフェ


せっかくなので第1展望台にも回って写真を撮影。ここまでは車道が通じているので、車さえあれば第2、第3展望台もそれほど遠くない。ファミリーでも気楽に絶景を楽しむことができるので、フェリーで渡ってくるのもいいだろう。

山日記 第1展望台から竹原方面を望む

 

山日記 NHK、民放、FM局の放送施設

下山は同じ道を下る。30分ほどでかもめ館の連絡橋の入り口に到着し、螺旋階段を下って下山を完了した。帰りの船まで1時間以上あったので、木江の古い街並みを見て回る。

江戸時代から潮待ち、風待ちの港としてにぎわい、近代になると燃料の補給地の役割を担い、造船業や柑橘の栽培で栄えた。だが、交通体系の変容や産業構造の変化でかつてのにぎわいは失われた。空き家が多く、わずかに残る三階建ての木造家屋がかつての隆盛をうかがわせるくらいだ。

山日記 木造三階建ての民家が残る木江の町

商店街だったと思われる通りにもほとんど開いている店はない。残念に思いながら歩いていたら、のれんを出している店を見つけた。「きのえカフェTete」。島外から移住してきた吉岡悦子さんが経営している。15年ほど空き家だったというかつての洋品店だった古民家を改装して2022年9月に開店したそうだ。カフェメニューのほか、クラフトビールも置いている。

山日記 「きのえカフェTete」でおいしいロイヤルミルクティーをいただいた

ロイヤルミルクティーをいただいた。茶葉をミルクで煮出した本格派だ。おいしい。

先客が1人だけだったのでゆっくりしていると、お客さんが次々と入ってあっという間に満席になった。

木江を訪れたらぜひ寄ってほしいスポットだ。ただし、営業日については事前に電話(080-3107-9834)して確認してほしいとのこと。

素晴らしい天気、登りがいがあり抜群の展望を楽しめる山、素敵な古民家カフェでの一服。充実した山行だった。総歩行距離は短めの5.2キロだった。

天満港の桟橋には天然ワカメが生えていた

 

2023.3.19(日)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

 

ライター えむ
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
LINE はてブ Pocket