バスと電車と足で行くひろしま山日記 第44回 雲月山(北広島町)
霜月(11月)も深まり、朝晩の気温もぐっと下がってきた。冬は雪に閉ざされる県北の山々に行くことができる期間もそう長くは残されていない。そこで、車を使わないと登れない北広島町の県境の山々を1日で2ルート巡ってみることにした。歩いたのは①阿佐山(東ドウゲン)→同形山(西ドウゲン)→三ツ石山→天狗石山②雲月山(うんげつざん 911.2メートル)――の順番だったのだが、山上から名残の紅葉を楽しめた雲月山を先に紹介することにしよう。
▼今回のルート(※車を利用)
【行き】広島高速4号線中広出入口→同沼田出入口→広島自動車道・西風新都IC→中国自動車道・千代田JCT→浜田道・大朝IC→県道5号→県道79号→県道40号→大暮(阿佐山~天狗石山縦走)→県道40号→国道186号→県道113・114号→雲月峠登山口
【帰り】雲月峠登山口→県道114・113号→国道186号→県道40号→県道79号→浜田道大朝IC→中国自動車道・千代田JCT→広島自動車道・西風新都IC→広島高速4号線沼田出入口→同中広出入口
大人気の草原の山
雲月山には前々から一度行ってみたかった。古くは「うづつきやま」と呼ばれていた。毛利氏の活躍を描いた軍記物語「陰徳太平記」には、登山口のある雲月峠は南北朝時代の1341年、大朝に本拠を置く吉川氏の家臣だった須藤弥五郎景成が石見の河上孫二郎入道と戦って大勝した宇津々木多和(うづつきたわ)の古戦場だった故事が書かれているという(「角川日本地名大辞典34広島県」)。「宇津々木」が雲月に転じたのだろう。「うづきやま」「うんげつさん」とも呼ばれてきたが、最近は「うんげつざん」と呼ぶのが一般的なようだ。
江戸時代から明治にかけては山腹で砂鉄が盛んに採取され、その後放牧地としても利用された。春には地元の人たちの手で山焼きが行われており、草原の山の景観を保っている。すばらしい景色を楽しみながら2時間ほどで一周できる手軽さから、ハイキングコースとしても大人気の山だ。
最初のピークで振り返ると…
登山口駐車場に着いたのは午後1時40分。「西中国山地国定公園 雲月山」の看板の向こうに一面ススキに覆われた斜面が広がっている。初冬の日は短い。早速登山にかかる。
スタート地点の雲月峠駐車場から岩倉山を見上げるコースは稜線伝いに1周する約3キロ。最初は岩倉山への上りだ。道沿いには黄色のアキノキリンソウや淡い紅色のカワラナデシコ、鮮やかな紫のリンドウなど秋の山野草が名残の花を咲かせている。なかなか登りごたえのある坂だが、標高差は70メートルほどなので10分ほどで登りきった。
振り返ると、駐車場をはさんで反対側の斜面に植林されたスギの木で形作られたマークが浮かび上がっていた。2005年に合併した旧芸北町の町章だ。麓から見たときはただのスギの林にしか見えなかったのでびっくり。「平成の大合併」では県内でも多くの町や村の名が消えたが、この町章は旧町の記憶として何十年も残ることだろう。
前方にはこれから向かう雲月山が見える。眼下にはススキとササの草原の向こうに紅葉した山々が広がり、遠くこの日登った天狗石山(1191.9メートル)やユートピアサイオトスキー場のある高杉山(1148.7メートル)も見渡せる絶景だ。いったん鞍部に下りる。下りの途中で島根県側の斜面を見ると、白骨林が広がっていた。
島根県側の斜面の白骨林雲月山へはショートカットの道もあるが、せっかくなので急坂を上って高山の山頂へ向かう。息を切らしながら登り詰めると、ここもまたすばらしい眺望だ。草原に刻まれた登山道の軌跡も面白い。次々と登山者がやってくる。みなさん一様に感嘆の声を上げ、「登ってきてよかったね」と満足そうに話していた。
高山への道 高山から岩倉山を振り返る 高山から雲月山を望む
快適な稜線歩き
ここから雲月山までは高低差も少ない歩きやすい道だ。眺望を楽しみながら歩けるので気分も上がる。15分ほどで雲月山の山頂に到着。もちろん眺望は抜群だ。広島藩の地誌「芸藩通志」には「頂上より伯雲石長の諸山、西海の渡帆を見るべし」と記されている。この日は見えなかったが、空気の透明度の高い日には大山や三瓶山、日本海まで見渡せるそうだ。
雲月山の頂上から天狗石山、高杉山方面を望む菓子パンでエネルギー補給をして一周コースの後半へ向かう。変わらず快適な道だ。高度が下がってくると遠方は見えないが、歩いてきた岩倉山~高山~雲月山の山々の曲線が美しい。広葉樹に覆われた斜面が傾いてきた日に照らされて名残の紅葉を楽しませてくれた。
縦走路から見た岩倉山 名残の紅葉少し滑りやすい道を下って仲の谷に着いた。ここがコースの最も低い地点だ。群生したススキ越しに雲月山を仰いでから、ちょっとつらい坂を上ると展望台下駐車場。さらに10分ほどロードを歩くとスタート地点に帰着した。総歩行距離は3.3キロだった。
仲ノ谷から雲月山を見上げる 町章を下から見るとただの杉林
《メモ》車さえあれば家族連れのハイキングにもオススメの山。危険な場所はなく、初心者でも楽しめる。これから冬に向かうと天候も厳しくなるので、来年の山焼きが終わって草が生え代わり、全山が緑に覆われる5月以降が適期になる。登山の後は芸北オークガーデン(http://g-oak.jp/)の天然温泉(入浴料おとな600円、こども200円)で疲れを癒すのもいい。
天然温泉が楽しめる芸北オークガーデン
2022.11.12(土)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》
50代後半になってから本格的に山登りを始めて5年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」