バスと電車と足で行くひろしま山日記 体験的安心対策編「安全に山登りを楽しむためのツールとアイテム」

観測史上最も短い梅雨が終わり、いきなり危険な暑さの夏がやってきた。山登り、とりわけ気温や湿度が高い低山を登るには厳しい季節だ。夏に限る話ではないのだが、1000メートル未満の山であっても熱中症やけが、道迷いによる遭難のリスクは排除できない。ソロ登山となるとなおさらだ。ただ、さまざまなツールやアイテムを使いこなすことでリスクを減らすことは可能だ。今回は先週末の天気がよくなかったこともあり、山行はお休みし、初心者やシニアが安全に日帰り山登りを楽しむための体験的安心対策をまとめてみた。

 

「三種の神器」=登山靴、ザック、レインウエア

ネットを検索すると、最初に揃えるべき道具として登山靴、ザック、レインウエアを「三種の神器」として挙げているサイトが多い。最も基本的な装備であり、万一の事態に遭遇した場合には命にかかわることもある。もちろん、ボトムス(ズボン)やシャツ、風よけのアウターなどは必要だが、これは好みもあるので割愛する。ただし、ジーンズで山に行くのだけは絶対にやめた方がいい(そんな人はいないと思うが…)。動きを制約されるうえ、濡れたら乾きにくいし重くて体力を奪われる。

 

登山靴は機能優先で

まずは登山靴。ショップに行くと、カラフルで多彩なデザイン、多様なメーカーの靴が並んでいて目移りする。しかし、命を預けるアイテムなので、まずは機能、次にデザインだ。基本的には防水機能のあるミドル~ハイカットの足に合ったものを選ぼう。靴のグレードはハイキング→トレッキング→アルパインの順で本格的に、つまり靴底が硬くなる。同じメーカーなら大体値段と比例していると考えていい。お店の人に行き先と自身の技量を相談し、必ず試し履きをして選ぼう。私もそうなのだが、日本人は足幅が広い人が多いので選択肢が限られることもある。ちなみに私の場合は標準を外れた甲高幅広なので、こうした足型に対応した国産メーカー、シリオ(http://www.sirio.co.jp/)一択だ(現在二代目)。

登山靴 登山靴

足元の重要性を考えるなら、インソール(中敷き)も付属品でなく専用品を考えてみてもいい。体重をかけてもつぶれることなく足裏のアーチを支えてくれるので、疲労軽減や安定性の確保に役立つ。個人的にはスーパーフィートのインソール(https://www.superfeet-jp.com/ グリーン)を使っている。決して安くはないが、効果を実感している。

 

【危険な「昔使った」登山靴】昔登山をしていたころに愛用した靴を、「いつか登山を再開するときのために」と大事に持っている人もいるだろう。実はこれを再使用するのは大変危険な行為だ。シューズに使われているポリウレタン素材は使っていなくても経年劣化が進む。限界を超えると、靴底がいきなりはがれて用をなさなくなる。実話なのだが、知り合いが30年以上前の学生時代に使っていた登山靴を、近くの山で足慣らしをしようと履いたところ、靴底がペロリ。ケーブルカーがあったので無事帰れたそうだが、山によっては命にかかわる。保存状態によっても寿命は変わるそうなので、古い靴を引っ張り出して使う時には注意が必要だ。

 

ザックは背中のサイズに合ったものを

これもまた専門店に行くと目移りするくらいたくさんの種類がある。本コラムで主に対象にしている広島県内の山の日帰り登山だと、大体25~30リットルくらいの容量があれば足りる。背面長とよばれる背骨の長さ(首の後ろの出っ張った骨から腰骨まで)に応じて選ぶことになる。背面長に合わせてサイズが用意されているものもあれば、1サイズしかないモデルもある。いずれにしてもお店の人に相談して体に合ったモデルを選びたい。色とデザインは、体に合うことを優先して選択した方がいいと思う。合わないザックだと、肩がすれて痛くなったり、歩きにくくなったりして悲惨なことになる。
ザックは背負うものという印象があるが、登山用の場合、「腰でかつぐ」と考えてもいい。これはショップで教えてもらったのだが、まずは腰ベルトを腰骨の上でしっかりと締め、その後で肩紐(ショルダーストラップ)の長さを調整し、左右を結ぶチェストストラップを止めると安定する。

 

レインウエアは防水+透湿性必須

山中で雨に降られるのはつらい。体が濡れると体温を奪われ、夏でも命にかかわることになりかねないので、レインウエアは死活的に重要だ。日帰り登山の場合は、雨に降られそうだと山に行くのをやめたり目的地を変更したりすることも多いので、大事な割には実は活躍の場はそう多くはない。なのでコストと機能のバランスで悩むことになる。

防水性はもちろん大事だが、汗を外に排出してくれる透湿性も必須だ。透湿機能がないと、雨は避けられても雨具の中は汗でびしょ濡れということになりかねない。性能本位、お金に余裕があるならゴアテックス製のウエアが最高だが、上下で5万円近くするものもあるので日帰り登山者にはちょっとハードルが高い。各メーカーが独自の素材で防水・透湿性を確保した1万円台の製品も多く出ているのでショップで相談するといい。上下セパレートだと、冷えたときに防寒着代わりに羽織ることもできるので便利だ。雨具を着る時は気象条件が良くないわけで、万一の事故の際に発見されやすいよう派手めのカラーがいいと思う。

私はゴアテックス製には手が出ないので、ミズノ・ベルグテックEXストームセイバーVI レインスーツ(https://jpn.mizuno.com/ec/disp/item/675060/)=公式オンラインショップで15,950円=の旧モデルを愛用している。

 

トレッキングポール

恐羅漢山・旧羅漢山編でも紹介したが、山歩きの力強い味方になる。上りでは上半身と腕の力を借りることができるし(この差は意外に大きい)、下りでは膝への衝撃を和らげてくれる。浮石に乗ったり滑ったりしてバランスを崩したときに、支えになって転倒を防ぐ効果もある。伸縮タイプと折りたたみタイプの二種類がある。折りたたみ対応の方が使わないときにコンパクトに収納できるので小さめのザックにも収納できるが、値段は高めだ。私はアルミ製の伸縮タイプを使っている。

 

ヘッドライト

あまり想像したくないことだが、トラブルなどがあって山中で日没を迎えた場合、照明がないと間違いなく行動不能になる。コンパクトで荷物にならないLEDのヘッドライトは必ず携行したい。

LEDヘッドライト LEDヘッドライト

 

手袋

夏でも手袋の装着をお勧めする。4年前に山登りを始めたばかりの頃、大分県の久住山(1786.5メートル)からの下山中に派手に転び、石で左の手のひらを切って9針縫うけがをしたことがある。それ以来、どんなに暑くても手袋は欠かさないようにしている。スマホを操作することが多いので、指先にスマホ対応のファブリックが装着されているタイプがオススメだ。どんなに注意してもけがのリスクはなくならないので、ファーストエイドキットもぜひ。

 

ボトルホルダー

猛暑の(猛暑でなくても)登山ではこまめな水分補給が欠かせない。水筒やペットボトルをどこに入れておくかがポイントになるが、ザックの中や横のポケットでは行動中に取り出すことは難しい。そこでお勧めしたいのがザックのショルダーストラップに取り付けるタイプのボトルホルダーだ。熱中症を防ぐには「のどの渇きを感じる前の水分補給」が大切だといわれるが、これならすぐに取り出せる。

ショップに行けばさまざまな種類が売られている。私はコロンビアのプライスストリームボトルホルダー(https://www.columbiasports.co.jp/shop/g/gPU2126049–OZS000)を使っている。ショルダーストラップも付属しているので、好みと場面に応じて使い分けられる。

ボトルホルダーをショルダーストラップに取り付けた状態 ボトルホルダーをショルダーストラップに取り付けた状態

 

スマホ登山アプリ

安全な山登りに地図は欠かせないのがこれ。以前は紙の地図に頼るしかなく、一定の読図力も必要だった。いま、休日登山者の必需品といってもいいのがスマートフォン(スマホ)とスマホのGPS機能を生かした登山アプリだ。

YAMAP(ヤマップ https://yamap.com/)とヤマレコ(https://www.yamareco.com/)が二大勢力で、機能的にはどちらも充実している。無料のお試し利用もできるので(機能制限あり)使い勝手がいい方を選ぶといい。有料プランでガシガシ使い始めると、個人の登山記録のデータベースができあがって途中で変更することが難しくなるので慎重に選びたい。

私はYAMAPを使っている。本連載の執筆もアプリの機能のお世話になっている面が大きい。本格的な機能紹介を始めるとそれだけで何回かの連載ができるくらいなので、今回はいつもお世話になっている代表的な安全確保機能を紹介したい。

〇道迷い防止をサポート
基本的には事前に目的地の地図をダウンロードしておき、ルートを設定して登山計画を作成。登山開始と同時に作動させる。GPSにより、携帯電話の電波が届かない場所でも地図のどこを歩いているかがリアルタイムで表示され、道迷い防止を強力にサポートしてくれる。
里山や低山では、登山道以外にも里道があったり、分岐がわかりにくかったりするところも少なくない。樹林帯の中の道では地形や方角を見極めることが難しい場面もある。写真Aと写真Bは、灰ヶ峰から縦走中に遭遇した分岐だ。ぱっと見にはどちらも問題なく歩けそうに見える。スマホをそれぞれの道に向けてみると、Aルートは予定した登山道(赤線)を外れていることがわかる(写真C)。Bルートは正しい方向であることが確認できる(写真D)。気付かずにルートを外れると通知が来る機能もあるので心強い。

写真A_分岐。木に◀と文字が彫られている 写真A_分岐。木に◀と文字が彫られている 写真B_分岐。こちらはテープが巻かれている 写真B_分岐。こちらはテープが巻かれている 写真C_A方向の画面 写真C_A方向の画面 写真D_B方向の画面 写真D_B方向の画面

 

〇登山中の位置情報をお知らせ
ソロ登山者にとって、万一の遭難への備えは重要だ。どんなに注意していても、山で不慮の事故に遭うリスクはゼロにはならない。家族や親しい知り合いにとっても、無事下山したという連絡がなかなかこないと心配だろう。「みまもり機能」で通知先を登録しておくと、行動中の位置情報を知らせるメールが定期的に送信される(写真E)。

YAMAPの位置情報通知メール(画像を一部加工しています) 写真E YAMAPの位置情報通知メール(画像を一部加工しています)

メールの位置情報のURLをクリックすると現在地を地上で確認できる。万一遭難して連絡がつかないケースでも、位置を確認できるので救助要請もしやすい。ただし、スマホの電池が切れてしまうとどうにもならないので、予備バッテリーの携行と充電は必須だ。

 

ライター えむ
還暦。50代後半になってから本格的に山登りを始めて4年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
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