バスと電車と足で行くひろしま山日記 遠征編 六甲山(ろっこうさん 兵庫県)

 

六甲山最高峰

6月になって少し時間が開いてしまいましたが、みなさまゴールデンウイークはどこの山に行かれましたか?広島でファミリー登山を楽しまれた方には、本連載の「GWに家族で登りたい広島の山7選」(https://hread.home-tv.co.jp/post-157333/)がお役に立ったならうれしいです。せっかくの大型連休、遠出して普段は行けない山にチャレンジした方も多いのではないでしょうか。筆者は関西で最も親しまれ、登られている山といってもいい六甲山に行ってきました。

▼今回利用した交通機関
行き)JR芦屋駅(芦屋駅までのルートは省略)
帰り)さくらやまなみバス(おとな片道610円)/有馬温泉・太閤橋(14:23)→(15:14)JR西宮駅
*西宮市HPさくらやまなみバス (https://www.nishi.or.jp/kotsu/sakurayamanamibus/index.html

六甲山_地図

 


六甲の大人気コースを行く


神戸市や阪神間の都市の北側に東西約30キロにわたって屏風のように立ち上がる六甲山系には、それこそ数えきれないほどの登山コースがある。その中でも最もポピュラーなのが、芦屋川を遡って高座(こうざ)の滝から入山し、ロックガーデンを経て風吹岩で有馬街道の一つ魚屋道(ととやみち)に合流、六甲最高峰(931メートル)に登り、北麓の有馬温泉に下山する(当然日帰り温泉付き)コースだ。せっかくなのでこの大人気コースを選んだ。
スタートはJR芦屋駅。北口から出て芦屋川沿いを上流に向かう。阪急芦屋川駅を過ぎて住宅街の坂をしばらく歩くと、「高座滝・ロックガーデン方面」と書かれた立派な看板が見えてくる。案内に従って「高座の滝道」を行く。住宅街を抜け、高座川沿いの道を歩いていくと「ロックガーデン」と書かれた建物の中に道が吸い込まれていく。このゲートのような建物が滝の茶屋(写真撮り忘れました)。NHKの番組「にっぽん百低山」で六甲山を紹介した際、ナビゲーター役の酒場詩人こと吉田類氏が、山登り前なのにおでんを食べていたお店だ。
茶屋を抜け、石段を登ると目の前に高座の滝が現れた。
落差10メートルほど、水量はそれほど多くはないが、花崗岩の岸壁を二段になって流れ落ちる様は絵になる。かつては修行の場でもあったそうだ。ほんの数メートル先に流れ落ちている様子をしばし観覧した。

住宅街にある登山口への道案内 住宅街にある登山口への道案内 高座の滝 高座の滝

ロックガーデン、名所を見逃す


高座の滝左手の斜面を登るとロックガーデンのエリアに入る。六甲山は近代登山発祥の地とされ、ロックガーデンは、登山家で国内のロッククライミングの草分けでもあった朝日新聞記者の藤木九三(ふじきくぞう 1887-1970)が命名した。のっけから険しい花崗岩の岩稜が連続し、岩登りのゲレンデだったというのもうなずける。それほど危険な個所はないが、3点支持(手足のうち3肢で体を支え、1肢だけ動かして次の手がかり、足がかりへ移動する岩登りの基本)は意識して登る。
メインルートの中央稜を登ったのだが、下調べが行き届いていなかったため、ロックガーデンのハイライトともいえる「万物相」を見逃してしまった。風雨にさらされて風化した柱状の花崗岩が林立する特異な景観だそうで、朝鮮半島の金剛山に似た地形があることから名付けられたのだという。「ピラーロック(柱石)」ともいわれるが、名前の元になった岩は1995年の阪神大震災で折れてしまったのだとか。下山後にネットで写真を見て後悔したが後の祭り。経験者向けの地獄谷ルート上にあるのだが、中央稜ルートから安全に見に行くこともできるらしい。関心のある方は検索してみて下さい。

ロックガーデン導入部の岩稜 ロックガーデン導入部の岩稜 標高270メートル付近からの眺望 標高270メートル付近からの眺望 滑りやすい岩場を進む 滑りやすい岩場を進む ロックガーデンの説明板 ロックガーデンの説明板

眺望抜群の風吹岩から最高峰へ


ロックガーデンの掉尾を飾るのは標高440メートルの尾根付近にある風吹岩(かざふきいわ)だ。高座の滝から約30分。ピラミダルな形の存在感のある巨岩で、登ってみると大阪湾岸が見渡せ、眺望は抜群だ。神戸市東灘区方面からの登山道との合流点にもなっており、登山者にとっては格好の休息場でいつもにぎわっている。ここをゴールにして下山するライト登山の人たちも多いそうだ。人家からは相当離れているが、なぜか猫も住み着いている。登山者に食事をもらっているのだろうか。今回は遭遇しなかったが、ロックガーデン一帯には野生のイノシシが出没するそうなので注意されたい。

風吹岩。ここで深江方面からの登山道と合流する 風吹岩。ここで深江方面からの登山道と合流する 風吹岩の頂部から大阪湾を望む 風吹岩の頂部から大阪湾を望む 風吹岩から六甲山最高峰方面を遠望する 風吹岩から六甲山最高峰方面を遠望する 岩の横の電力線鉄塔のたもとで猫がくつろいでいた 岩の横の電力線鉄塔のたもとで猫がくつろいでいた

風吹岩を後に頂上を目指す。ここから先は江戸初期から有馬温泉の宿に納める魚を運んだ魚屋が通ったという魚屋道(ととやみち)と重なる。少し先の登山道を下ったところに横池があるのだが、先を急ぐのでパス。登山道に地下水がわくエリアを抜け、ゴルフ場を横切り、約50分で雨ヶ峠へ。ここは東おたふく山(697メートル)との分岐になっており、六甲山系随一の広い草原になっているという頂上部散策にもそそられたたが、こちらも見送った。山頂がゴールだった「にっぽん百低山」では横池も東おたふく山も訪れ、六甲山の多彩な魅力の要素として紹介していたが、昔の魚屋さんと同じく有馬温泉を目指すこちらはそんな余裕はない。

風吹岩から先はかつての魚屋道(ととやみち)をたどる 風吹岩から先はかつての魚屋道(ととやみち)をたどる さすが人気のコース、整備が行き届いている さすが人気のコース、整備が行き届いている 上流にゴルフ場があり飲用不可 上流にゴルフ場があり飲用不可 ゴルフ場のカート道を横切る ゴルフ場のカート道を横切る 雨ヶ峠。東おたふく山との分岐 雨ヶ峠。東おたふく山との分岐

いったん谷筋に下り、住吉川の源流部を何度か渡ると、「七曲り」と呼ばれる山上への結構な登りが始まる。しかも、山上目前で崩壊個所を避ける迂回路が設けられているのだが、これがまた急斜面をかなり登ってから降りなければならない厳しい道。息を切らしながら迂回路を越え、やっと山上の一軒茶屋に出た。江戸時代から続くといわれる古い歴史をもつ茶屋だ。かつて魚屋道を行き交った人たちも一服したのだろう。
最高峰は目前だ。舗装路を歩くこと10分、広々とした平地の真ん中に標柱の立つ標高931.3メートルの最高峰に到達した。

七曲りの途中から山頂方面を見る 七曲りの途中から山頂方面を見る 七曲り途中にある迂回路。急斜面を登降させられるのできつい 七曲り途中にある迂回路。急斜面を登降させられるのできつい 一見茶屋の石碑。いまも元気に営業中 一見茶屋の石碑。茶屋はいまも元気に営業中

米軍施設があった最高峰


ここは戦後米軍の通信施設が置かれ、一般市民は立ち入ることができなかった。最高峰のモニュメントもフェンスの外に作られた。1992年の返還後に施設が撤去され、登山者も自由に入れるようになった。最高峰とはいえ、一帯は周囲とあまり高度差がない広場なのでそれほど見晴らしはよくはないのだが、ちょうど時間もよし、ここでお昼にしよう。コンビニおにぎりを2個食し、30分ほど休憩して下山にかかった。

ちなみに六甲山らしい雄大な眺望を楽しみたいなら直線距離で2キロほど西側にある六甲ガーデンテラスへ。明石海峡から大阪平野、関西国際空港まで広がる大パノラマを満喫できる。

六甲山最高峰。かつては米軍施設があり一般人は立入禁止だった 六甲山最高峰。かつては米軍施設があり一般人は立入禁止だった 六甲山頂広場。後方は自衛隊の通信施設 六甲山頂広場。後方は自衛隊の通信施設

有馬温泉への下山路も良く整備されていて歩きやすい。一部迂回路もあったが、登りに比べれば楽勝だ。射場山(690メートル)の麓を通り、約1時間で温泉街上の虫地獄登山口に楽々下山した。恐ろし気な名前は、かつてこの近くに炭酸ガスを噴出する温泉がわいており、近付いた虫や鳥が死んでいたことからついたそうだ。登山口の標高は380メートルほど。スタートのJR芦屋駅の標高が15メートルだから、上りの標高差916メートルに対して下りは同551メートル。365メートルもの差があるのだから、下山が圧倒的に楽なはずだ。

トンネルの跡らしい トンネルの跡らしい 北側にも迂回路あり 北側にも迂回路あり 有馬温泉側の虫地獄登山口 有馬温泉側の虫地獄登山口

有馬の金泉で疲れを癒す


さて、日帰り温泉だ。有馬温泉には金泉と銀泉の2種類の温泉がある。金泉は90度以上の高温で湧出する鉄分の多い強食塩泉。もともとは無色透明だが、空気に触れると茶褐色になることからこの名がついている。銀泉は無色透明の炭酸泉とラジウム泉だ。温泉街には日帰り入浴施設の「金の湯」(金泉)と「銀の湯」(銀泉、炭酸泉とラジウム泉を混合)があり、入浴料はおとな650円、両方に入れる2館券は850円。両方に入るのは時間的に厳しいので、悩んだ末にやはりここでしか入れない金泉を選択。1時間ゆっくりとつかって疲れを癒すことができた。時間がなければ「金の湯」に無料の足湯が併設されており、これを楽しむのもいい。詳しくは一般財団法人神戸観光局「金の湯・銀の湯」HP(https://arimaspa-kingin.jp/index.html

さて、帰路はいろいろなルートがあるが、阪神間に戻るのなら時間さえ合えば西宮市が運行するさくらやまなみバスが乗り換えもなく便利だ。太閤橋を渡ったところにあるバス停に行くとちょうどいい時間の便に乗ることができた。六甲山越えの道を揺られながら、うとうとしつつ帰途についた。総歩行距離は13キロだった。

炭酸泉の源泉が飲める 炭酸泉の源泉が飲める

《メモ》

有馬温泉街には7つの源泉があるが、ほとんどは金泉。中でも有馬天神社(神戸市北区有馬町1402)の境内にある天神泉源は98.2度と最も温度が高く、湯煙をバックに記念写真も撮れる。銀泉の炭酸泉源は、虫地獄登山口から東に300メートルほど行って少し下ったところの炭酸泉源公園内にある。飲水設備もあり、天然の炭酸水が味わえる。人工的に製造した炭酸水のような強い刺激はないが、きめ細かな泡がはじける感覚が面白い。

 

2022.5.6(金)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

ライター えむ
還暦。50代後半になってから本格的に山登りを始めて4年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
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