バスと電車と足で行くひろしま山日記 第29回 絵下山~天狗城山縦走(広島市安芸区・坂町・呉市)

広島市街地を取り囲む市内の山々のうち、方角別に代表格を挙げるなら、北は白木山(安佐北区 https://hread.home-tv.co.jp/post-130985/)、西は武田山(西区 広島南アルプス㊤https://hread.home-tv.co.jp/post-143882/)、南は似島・安芸小富士(南区 https://hread.home-tv.co.jp/post-102057/)か。では、東はどこか?どっしりとした存在感の呉娑々宇山(https://hread.home-tv.co.jp/post-128519/)も捨てがたいが、メイン登山口が府中町側にあるので見送ることにし、山上の巨大なテレビ塔がどこからみても目立つ絵下山(えげさん 593メートル 広島市安芸区)を推したい。中世の古城跡を経て眺望抜群の山上散歩を楽しみ、南の稜線をたどって呉市の天応地区に下山する縦走ルートをたどってみた。

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ

行き)

①JR山陽線・呉線(おとな片道240円) 横川(10:19)→(10:24)広島(10:30)→矢野(10:40)

②広電バス熊野萩原行き(おとな片道180円) 矢野駅前(11:00)→矢野天神(11:07)*大幅遅れ

帰り)

JR呉線・山陽線(おとな片道330円) 呉ポートピア(16:16)→(16:49)広島(17:00)→新白島(17:02)

 


矢野の町を発展させた国人領主の城跡


スタートはJR矢野駅東口から広電バスで10分弱の矢野天神バス停。数分歩いて右手が登山口だ。細い水路に沿って住宅街を抜け、広島熊野道路をまたぐ赤い色に塗られた鷹野宮歩道橋を渡ると本格的な登山道になる。まずは県の史跡にも指定されている矢野城跡を目指そう。

JR矢野駅南口にある史跡案内図 JR矢野駅南口にある史跡案内図 矢野天神登山口 矢野天神登山口 広島熊野道路を越える歩道橋を渡る 広島熊野道路を越える歩道橋を渡る

歩くこと15分、標高292メートル、絵下山から北に延びる支尾根上にある城跡に着いた。矢野城は南北朝の動乱期に歴史に登場する。1335年、後醍醐天皇方に味方した熊谷蓮覚がこもり、足利尊氏に呼応した安芸国守護武田氏らの軍勢を阻止しようとした。しかし、4日間にわたって攻められて落城、熊谷蓮覚は討ち死にしたが、攻城側にも多数の死者が出たという。

古い墓石の残る矢野城跡 古い墓石の残る矢野城跡 矢野城の歴史を伝える説明板 矢野城の歴史を伝える説明板 低くなっているのは堀切の跡 低くなっているのは堀切の跡

1445年には室町幕府の足利将軍家から矢野の地を与えられた野間重能が尾張(愛知県)から入った。野間氏は安芸国の有力な国人領主として100年余り統治し、矢野を城下町として発展させた。だが、1555年、毛利元就が陶晴賢と敵対した際に陶方についたため毛利方に攻められて敗北。野間一族は殺されて滅亡した。毛利元就はこの戦いの後、厳島合戦で陶方に完勝し、中国地方に覇を唱える戦国大名に駆け上がっていくことになる。

野間神社 野間神社

矢野城跡には供養塔とみられる古い五輪塔や法篋印(ほうきょういん)塔が残されている。ここから急坂の稜線を登った標高約400メートル付近には、発喜(保木)城の遺構がある。城跡には野間氏をまつる野間神社が立ち、毛利氏に敗れて歴史の舞台から消えた国人領主の存在を伝えている。
絵下山は江戸時代、「会下山」と表記していた(広島藩の地誌「芸藩通志」)。「会下」とは禅宗などで師の僧の下で修行する場所を意味しており、山の麓に野間氏の祈願所だった真光寺という寺があったことにちなんで山名がつけられたとみられるという(「角川日本地名大辞典34 広島県」)。
発喜城の空堀跡を越えて歩を進めると発喜山(標高476メートル)のピークを経て最後の上り。整備された林間の道を登ること15分、突然視界が開け、気持ちの良い広場に出た。

発喜山山頂 発喜山山頂 山上の広場までもう少し 山上の広場までもう少し 絵下山展望広場。眺望は抜群 絵下山展望広場。眺望は抜群

ランドマークはテレビ放送の総元締め


絵下山の山頂一帯は絵下山公園となっている。この展望広場は芝生が敷き詰められ、あずまや、ベンチ、トイレが設置されている。広島市街地と広島湾を一望できるロケーションはお弁当タイムに最適だ。この日は好天だったおかげで、西中国山地の吉和冠山や前週に登った十方山の雄大な姿も展望することができた。絶景を楽しみながら、例によってむさしの若鶏むすびの昼食を取った。広い駐車場も整備されており、車で来ることもできる。

南西方向の眺め 南西方向の眺め 広島市街地を眼下に若鶏むすび(むさし)のランチ 広島市街地を眼下に若鶏むすび(むさし)のランチ

この広場は、アナログテレビ放送の時代に広島ホームテレビの放送設備と鉄塔があった場所だ。デジタル放送とアナログ放送の並行放送終了後に施設が撤去され、広島市が公園として整備したものだ。約200メートル南にはテレビ新広島の鉄塔も立っていた。地上波のテレビ放送のデジタル化に先立つ2005年12月、民放4局とNHK(総合・教育)の送信設備を統合した高さ121メートルの巨大な鉄塔を備えた「広島デジタルテレビ放送所」が、約400メートル南に完成した。県内約120万世帯に電波を送出する起点となる、いわば広島のテレビ放送の総元締めだ。遠くから見ても目立ち、この山のランドマークにもなっている。2018年の西日本豪雨災害では、まる3日間送電がストップし、一時テレビ放送が止まる危険性もあった。山頂に通じる市道も大きな被害を受けて2年余り通行止めが続いた。現在は非常用電源設備も強化され、安全度は増したという。

デジタル放送施設とアナログ放送設備が共にあった時期も。一番奥が現在展望広場になっている広島ホームテレビの鉄塔(2010年10月撮影) デジタル放送施設とアナログ放送設備が共にあった時期も。一番奥が現在展望広場になっている広島ホームテレビの鉄塔(2010年10月撮影)

見晴らし抜群の展望広場だが、実は最高地点ではない。車道を歩いて広島デジタルテレビ放送所のゲート前を過ぎると、ほどなく左手に「絵下山遊歩道」の標識が立つ木段が現れる。ここが入口だ。ルートは2つあるが、ちょっと急な近道を選べば10分もかからず標高593メートルの頂上に。絵下頭ともいうそうだ。ちょっと狭いが、岩の上に立つと広島デジタルテレビ放送所の鉄塔越しに厳島や能美島など広島湾の島々が望めた。

絵下山の最高地点(標高593メートル) 絵下山の最高地点(標高593メートル) 絵下山の山頂から広島デジタル放送所を望む 絵下山の山頂から広島デジタル放送所を望む
絵下山山頂からのパノラマ写真 絵下山山頂からのパノラマ写真

快適な稜線歩き、最後は岩稜下り


下山は呉方面に向けて縦走と稜線歩きを楽しもう。本来なら舗装路脇の中国自然歩道の標識から入るのだが、入り口から少し先で登山道が流出している。通れないことはないのだが、安全のため左の展望台を経由する道を迂回しよう。木段をいったん鞍部まで下り、急坂を登り返すと標高504メートルの子ノ岳(ねのたけ)山頂。ここから市光山(438メートル)までの約1キロはアップダウンの少ない快適な稜線歩きを満喫できる。途中の立ち木にかけられた看板には、「北天尾根」という素敵な名前が書かれていた。

子ノ岳山頂 子ノ岳山頂 子ノ岳から市光山までは快適な縦走路。「北天尾根」というのだそうだ 子ノ岳から市光山までは快適な縦走路。「北天尾根」というのだそうだ

市光山から二艘木の峠に下る途中には展望台がある。江田島が眼前に広がるロケーションで、きれいなあずまやもあるので時間が合えばお弁当スポットにもいい。峠からは小屋浦に下るのがメインルートなのだが、豪雨災害の復旧工事が終わっておらず通行止め。標識に従い天狗城山(293メートル)へ向かう。
ここから小松尾山(379.4メートル)、中天狗(325.1メートル)を越えていくのだが、結構なアップダウンがあり体力を削られる。だが、最後の天狗城山はピークの前後で疲れが吹き飛ぶような眺望を楽しめる。絵下山を振り返ると、これまで歩いてきたルートを一望して満足感に浸れる。ピークを越えた巨岩の上からはJR呉線やクレアライン(広島呉道路)、天応の町並みがすぐ近くに見える。高度感は抜群だ。

市光山の頂上。展望はなし 市光山の頂上。展望はなし 市光山から二艘木峠に下る途中にある展望所 市光山から二艘木峠に下る途中にある展望所 小松尾山手前から見た絵下山。右手の高台が頂上 小松尾山手前から見た絵下山。右手の高台が頂上 天狗城山手前から似島方面を望む 天狗城山手前から似島方面を望む 天狗城山のピーク直前。絵下山から歩いてきたルートを振り返る 天狗城山のピーク直前。絵下山から歩いてきたルートを振り返る 天狗城山山頂付近から天応の町並みを見る 天狗城山山頂付近から天応の町並みを見る

天狗城山からの下りは少しスリリングな岩稜を抜けるルートだ。傾斜も結構きついので、要所に張られたロープをつかみながら、赤ペンキの目印を頼りに慎重に下る。20分ほどかけて岩場を抜けるとコンクリートの階段が現れ、クレアライン横に無事下山した。天狗城山を振り返ると、急斜面と岩稜をまとった険しい山容が際立つ。野間氏が見張りのために築いたと思われる城があったというのもうなずけるな、と思いながら帰途についた。

ロープを頼りに岩場を慎重に下る ロープを頼りに岩場を慎重に下る 赤ペンキの目印を見落とさないように 赤ペンキの目印を見落とさないように 最後は階段を下る。天狗城山の登山口を示す標識はなし 最後は階段を下る。天狗城山の登山口を示す標識はなし 天狗城山。麓から見てもなかなかの険しさ

2022.4.30(土)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

ライター えむ
還暦。50代後半になってから本格的に山登りを始めて4年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
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