バスと電車と足で行くひろしま山日記 第25回深入山(しんにゅうざん 安芸太田町)

春本番。桜も散り始め、広島市内では最高気温が20度を超えることも増えてきた。長く雪に閉ざされてきた中国山地の山々も雪融けが進み、山登りが楽しめる環境になってきた。春山シーズン最初の県北の山にどこを選ぶか。公共交通機関の利用が極めて限られる中で、第1回の臥龍山でも使った石見交通バスで足元まで到達できる草原の山・深入山(1152.5メートル)に行ってみることにした。

▼今回利用した交通機関 石見交通新広益線(おとな片道1790円)

行き)広島バスセンター(10:00)→(11:26)いこいの村入口

帰り)いこいの村入口(15:39)→(17:03)広島バスセンター

*石見交通ホームページ・時刻表(http://iwamigroup.jp/publics/index/6/


山焼き直前の入山チャンス


たおやかな姿の深入山は、ほぼ全山が草地になっている。古くからたたら製鉄に使用する薪炭を供給したり、牛馬の放牧場や屋根の葺き替えに使う萱などを得る採草地として利用されたりしてきたためだ。害虫を駆除し、有用な草の生育を促すための山焼きは、18世紀から続けられている記録があり、今年は1週間後の4月10日(日)に実施される(悪天候時には翌週に順延)。当日は全山が炎に包まれるため、当然のことながら登山は禁止。今回は雪が消えた後、山焼きで真っ黒になる直前の入山チャンスだ。


緩やかな遊歩道をのんびりと


広島から約1時間半、いこいの村入口バス停で下車。今回は念のため帰りのバスの時間を停留所の表示で確認する(「第23回岳山」参照)。舗装道路を登り、山裾の周遊道路を20分ほど北に歩くと、多目的グラウンドやグラウンドゴルフ、キャンプ場などを運営する「深入山グリーンシャワー」の管理棟に着く。ここが実質的なスタート地点だ。お手洗いもここで済ませていこう。眼前に広がる草原の山を仰ぎながら、登山者の車でにぎわう駐車場の横を通って南登山口に取り付く。

いこいの村入口バス停。今回は帰りの時間を再確認 いこいの村入口バス停。今回は帰りの時間を再確認 昆虫採集は禁止です 昆虫採集は禁止です 南面から見た深入山の全景 南面から見た深入山の全景 深入山グリーンシャワー管理棟。きれいなトイレと売店あり 深入山グリーンシャワー管理棟。きれいなトイレと売店あり

「予告 『深入山山焼き』開催のため、4月10日(日)は入山禁止とします 安芸太田町」の立て看板。昨年はコロナ禍で中止になったが、ネットで過去の写真を検索してみるとなかなかの迫力だ。時節柄イベントはないそうだが、見学は可能とのことなので、春の風物詩を見に行くのもいいだろう。

南登山口。4月10日は山焼きのため入山禁止 南登山口。4月10日は山焼きのため入山禁止

正面の草尾根ルートと呼ばれる登山道は頂上に向かう最短コースだが、ほぼ直登だけに優しい山容の山とはいえそれなりに疲れる。帰りのバスが15時39分で時間はたっぷりあるので、今回は左の林間ルートを選択。登山道というよりも遊歩道という方がしっくりくるのどかな道を、春の陽気を楽しみながらのんびり歩くことにする。
歩き始めて5分ほどで林の中へ。まだ木々は芽吹いておらず、林内は明るい。さらに5分ほどで西登山口からの道と合流する。ここから右に折れると、少し山登りらしくなる。20分ほどで再び西登山口からの道と合流。快調に高度を稼いでいく。少し汗ばんできたのでフリースを脱いでウールの長袖シャツだけに。今年一番の薄着の山行だ。

森への入り口 森への入り口 林間の登山道を行く 林間の登山道を行く

おいしい「雪融け水」


標高1000メートル付近の山肌の岩からは、清冽な水が流れ出していた。パイプが設置してあるところを見ると常時流れているのかもしれないけれど、この時期なら雪が融けて地面にしみこんだ「雪融け水」に違いない。

豊富な雪解け水が流れる水場 豊富な雪解け水が流れる水場

手ですくって飲んでみる。冷たくて、口当たりの柔らかいおいしい水だ。ガイドブックには載っていないが、個人的には名水の称号を与えたい。(動画もご覧ください)


さらに10分ほど歩くと、見晴らしの良い岩に出た。八畳岩というのだそうだ。(岳山と広島南アルプス・火山にも八畳岩があった)西側の眺望がすばらしく、残雪のスキー場(正式には恐羅漢スノーパーク)と県内最高峰の恐羅漢山(1346.2メートル)、その左には県内3位の十方山(1318.8メートル)が山頂付近にうっすら雪をまとって立っている。右に目を転じると聖湖の青い湖面も見えた。

八畳岩からの眺望。正面遠く残雪が残る恐羅漢スキー場が見える 八畳岩からの眺望。正面遠く残雪が残る恐羅漢スキー場が見える

残雪に触れ、360度展望の頂上へ


ここから山頂までは15~20分ほど、標高差にして80メートルもない。登山道が北側に回り込むと、北斜面には残雪の雪だまりがぽつぽつと。北側から見る山頂は、手前の樹林もあって違う山のようにも見える。9合目休憩小屋を過ぎると、道の右側の木の陰にも雪が残っていた。もちろん触ってみる。手触りは硬いザラメ状。冬の名残の感触を確かめた。

9合目休憩小屋付近から山頂を見上げる 9合目休憩小屋付近から山頂を見上げる 登山道脇に雪が残っていた 登山道脇に雪が残っていた 頂上手前、最後の登り 頂上手前、最後の登り

山頂は掛け値なしの360度の大展望だ。雲一つない青空と相まって西中国山地の山々を一望できる。北側は眼前に臥龍山(1223.2メートル)と峰続きの掛頭山(かけずやま 1125.9メートル)、右に目を転じると陰陽分水嶺をなす阿佐山(1218.3メートル)、遠く三瓶山もうっすらと見えた。南側には八畳岩から見た恐羅漢山や十方山、山口県境の羅漢山(1108.9メートル)も。飽きない眺めだ。昼食は島根県境の山々を堪能しながら楽しんだ。

登頂しました 登頂しました 県内最高峰の恐羅漢山(右)と十方山(左) 県内最高峰の恐羅漢山(右)と十方山(左) 芸北の名峰・臥龍山 芸北の名峰・臥龍山

眺めが良いということは、遮るものがないということでもある。この日は好天で風も弱かったが、それでも食事中はフリースの上にアウターを羽織って体を冷やさないように気を付けた。駐車場からだと1時間ほどで登れるし、標高差も300メートルちょっと。初心者にもファミリーにもおすすめの山だが、天気が良くてもそこは1000メートル級の山、風対策はしっかりしたい。

北斜面に残る大きめの残雪 北斜面に残る大きめの残雪 駐車場には多くのマイカーが並んでいた 駐車場には多くのマイカーが並んでいた

下山後は久々の入浴


下山は南面を下る。まだ13時35分。バスの時間までたっぷりあるので、麓のいこいの村ひろしまに寄ってひと汗流そう。

頂上直下の下山路はガレ場もあり滑りやすいので注意が必要だ。途中までは草尾根コースと同じだが、いこいの村へは左の東登山口へ下る。このルートはほぼすべてが木段になっており、安全ではあるが少しだけ膝にくる。途中残雪が道を埋めているところもあったが、滑らないよう慎重に横切って30分ほどで東登山口に下りた。総歩行距離は4.9キロだった。

少し荒れて滑りやすい下山路 少し荒れて滑りやすい下山路。分岐の右が草尾根コース、左が東登山コース。 百畳岩と深入山 百畳岩と深入山 下山路を塞ぐ残雪。滑らないよう慎重に越える 下山路を塞ぐ残雪。滑らないよう慎重に越える

いこいの村ひろしまの日帰り入浴はおとな500円。天然温泉ではなく、特殊なセラミックを使った人工温泉だ。小さいながらサウナもあり、疲れをいやすには十分。1時間余りゆっくり楽しんで帰途についた。

いこいの村に下山 いこいの村に下山

《メモ》

遠方の山に行くときに一番気になるのがお天気。多くの天気予報サイトでは、登山に適した気象条件かどうかまでは教えてくれない。そんな時にオススメしたいサイトが「てんきとくらす」(https://tenkura.n-kishou.co.jp/tk/index.html)。トップページのメニューから「高原・山の天気」を選択、エリアを選び(広島なら「中国」を選択)、広島県のリストの中から目的の山を探そう。詳細情報のある山なら、3時間ごとに登山指数(登山の快適さをA~Cの三段階で表示)、気温、風速の予想を表示してくれる。今回の深入山は終日「A(登山に適しています)」で風速も3メートルほど(画像参照)。

「てんきとくらす」の画面(深入山の予報) 「てんきとくらす」の画面(深入山の予報)

絶好の登山日和の予報で、まさにその通りだった。他のサイトもいろいろ使ってみたが、経験上一番頼りになると思う。すべての山について詳細情報があるわけではないが、無料プランでも日帰り登山なら十分使えるのでお試しあれ。

 

2022.4.3(日)取材 《掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください》

ライター えむ
還暦。50代後半になってから本格的に山登りを始めて4年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
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