海と島を楽しむ広島の山5選/バスと電車と足で行くひろしま山日記 テーマ編Vol.1

瀬戸内海は1934年、雲仙、霧島とともに日本で最初に指定された国立公園だ。その魅力は何といっても海と島が織りなす多島海の美しさ。広島県と愛媛県にまたがる芸予諸島は島の数も多く、潮の流れが速い海峡も多い。古代から船による交通と物流の大動脈で、中世から戦国時代にかけては、能島(のしま)、来島(くるしま)、因島(いんのしま)を本拠とした村上水軍が覇をとなえた海域でもある。この瀬戸内海の景観を味わえるのが広島の山登りの楽しさだ。こればかりは、3000メートル級の山々が連なる日本アルプスや、広島県内からは1座も選ばれなかった深田久弥選「日本百名山」もかなうまい。これまでの連載で登った山々の中から、海と島を楽しめるオススメの山を5座紹介しよう。

 


瀬戸内海国立公園第2の高峰 野呂山(呉市) 


弘法寺の展望台からとびしま海道の島々を望む 弘法寺の展望台からとびしま海道の島々を望む

【登山口のアクセス】 JR呉線安芸川尻駅・安登駅

東は大阪から西は福岡・大分まで1府10県にまたがり、海を含めると90万haを超える瀬戸内海国立公園にあって、兵庫県の六甲山に次ぐ標高を誇る。最高峰は西端の膳棚山(839.1メートル)だが、山頂付近は高原状の台地になっている。安登登山口、安芸川尻登山口のどちらから登っても、相当な距離と標高差がある登りがいのある山だ。中腹の「馬の背展望台」や山頂の「星降る展望台」からは、下蒲刈島から上蒲刈島、豊島、大崎下島を橋で結んだ「とびしま海道」の島々や、大崎上島、三津口湾を眼下に、遠く四国まで望める。山頂までドライブウエーが通っている。

詳しい「野呂山」記事はこちら  https://hread.home-tv.co.jp/post-125581/

星降る展望台から見た蒲刈諸島。手前の吊り橋は安芸灘大橋 星降る展望台から見た蒲刈諸島。手前の吊り橋は安芸灘大橋

 


日本三景・安芸の宮島を愛でる桟敷席 経小屋山(廿日市市)


厳島の対岸にそびえる経小屋山 厳島の対岸にそびえる経小屋山

【登山口のアクセス】JR山陽線前空駅・大野浦駅、おおのハートバス 妹背の滝・べにまんさくの湯

世界遺産にして日本三景でもある厳島(宮島)よりも標高が高く、島全体を見渡すことができる。厳島は宮島口から見ると峻険な印象だが、この山からみるとたおやかな姿。厳島神社祭神の市杵島姫命(いちきしまひめのみこと)・田心姫命(たごりひめのみこと)・湍津姫命(たぎつひめのみこと)の三女神の姿をほうふつとさせてくれる。登山ルートは複数あるが、広島藩の地誌「芸藩通志」にも登場する名瀑妹背(いもせ)の滝から登るのがおすすめだ。宮浜温泉に下山すれば、日帰り温泉の「べにまんさくの湯」もお楽しみ。こちらも山頂まで林道が通じている。

詳しい「経小屋山」記事はこちら  https://hread.home-tv.co.jp/post-104908/

厳島の南側。中央が岩船岳、右端の小さな島は可部島 厳島の南側。中央が岩船岳、右端の小さな島は可部島

 


万葉集につながる倉橋島の名山 倉橋火山(呉市)


倉橋火山山頂から安芸灘を展望する 倉橋火山山頂から安芸灘を展望する

【登山口のアクセス】 広電バス呉倉橋島線 桂浜・温泉館

海と島を楽しむなら島の山は外せない。倉橋島は広島県の最南端に近く、火山(408メートル)の山頂からは広島湾から安芸灘、斎(いつき)灘を見渡し、山口県の周防大島や愛媛県の忽那諸島を望むことができる。四国の山々も指呼の間だ。登山口のある桂浜は古代より朝鮮半島への航路の中継地にあたり、万葉集にも歌われている。登山道はよく整備されており、登り始めから小一時間で山頂に立てるのでファミリー登山にも向く。登山道がつながる後火山のピークは樹林の中で展望はないが、途中の火山展望台はあずまやもあり、昼食休憩に最適だ。こちらも下山後の温泉が楽しめる。

詳しい「倉橋火山」記事はこちら https://hread.home-tv.co.jp/post-121486/

倉橋島と江田島を隔てる早瀬の瀬戸 倉橋島と江田島を隔てる早瀬の瀬戸

 


芸予諸島の多島美としまなみ海道 黒滝山(竹原市)


白滝山からの景観。手前が黒滝山 白滝山からの景観。手前が黒滝山

【登山口のアクセス】 JR呉線忠海駅、芸陽バスかぐや姫号竹原~広島線 忠海駅

忠海の市街地を見下ろす岩峰は、標高こそ270メートルと低いけれども存在感は抜群だ。眼下に「ウサギ島」として観光名所になっている大久野島、その向こうにしまなみ海道の大三島、生口島が展開する。両島を結ぶ多々羅大橋の優美な姿も必見だ。海と島、市街地との距離が近く、瀬戸内らしい景観を存分に楽しめる。登山道がきれいに整備されているので気持ちよく歩けるのもうれしい。時間と体力に余裕があれば北側の白滝山(350メートル)を周回することをぜひおすすめする。山頂付近の岩に彫られた多数の石仏群は一見の価値あり。

詳しい「黒滝山」記事はこちら  https://hread.home-tv.co.jp/post-107883/

白滝山山頂の石仏群 白滝山山頂の石仏群

 


伊藤博文も感嘆した絶景 厳島(宮島)・弥山(廿日市市)


弥山山頂からの眺め。似島、能美島、絵の島、大奈佐美島が見える(2021年1月撮影) 弥山山頂からの眺め。似島、能美島、絵の島、大奈佐美島が見える(2021年1月撮影)

【登山口のアクセス】 JR山陽線宮島口駅、JR宮島フェリー松大汽船

何度登っても飽きることがないすばらしい眺望が楽しめる。明治の元勲にして初代内閣総理大臣の伊藤博文は「日本三景の一の真価は頂上の眺めにあり」と語ったとされ、メイン登山道の大聖院コースは、伊藤が私財も投じて整備したという。標高535メートルの山頂展望台からは吉和冠山(山容が特徴的なので遠くからでもよくわかる)など西中国山地の山々から広島市街地、似島、江田島、能美島、周防大島などまさに360度の眺望を満喫できる。コラムでは2022年の初日の出を拝むための登山で、頂上に人があふれていて景色の写真をあまり撮影できなかったので1年前の写真を載せておきます。

詳しい「厳島(宮島)・弥山」記事はこちら  https://hread.home-tv.co.jp/post-126750/

2022年元日の夜明け前。細い月が浮かぶ 2022年元日の夜明け前。細い月が浮かぶ

 

ライター えむ
還暦。50代後半になってから本格的に山登りを始めて4年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
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