バスと電車と足で行くひろしま山日記 第18回白木山(広島市安佐北区)
人気の名山にチャレンジ
広島市内にある山の中で、山登り好きの間では最も有名な山の一つだろう。広島市内から北を見ると屏風のように立ち上がり、存在感は抜群だ。889.3メートルの標高もなかなかのものだが、麓のJR白木山駅からの標高差は実に約830メートルもある。急登が続くため、アルピニストたちが訓練登山に使うことでも知られる。この登山道を1日に2往復、3往復する猛者もいるというのだからすごい。還暦登山者はそんな無茶はできないが、同じ道をピストン(往復)するのも面白くないので、白木町から入山して可部に下山するロングコースを試してみることにした。(最初に申し上げておくが、この可部ルートは正直お勧めしない。山上では林道や無線施設の作業道路と複雑に交差してルートがわかりにくいし、登山道も荒れているところが多い。白木山駅からの道を往復するか、通ったことはないが案内板やガイドブックにも紹介されている上深川へ下山するコースをたどるのが無難だと思う)
▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ
行き)JR可部線・芸備線(おとな片道510円)/横川(7:33)→(7:38)広島(7:53)→(8:43)白木山
帰り)広島交通バス(おとな片道380円)/中島駅口(14:55)→(15:24)横川駅前
ICOCA(イコカ)が使えない!
最寄りの白木山駅に行くため、広島駅で芸備線の三次行きに乗り換える。車両は国鉄時代に製造されたオレンジ色の気動車キハ47。いまではほとんど見なくなった、向かい合わせ4人固定の国鉄型ボックスシートがメインの座席だ。コロナ禍ではあまり好ましくない座席配置だが、1人だったので問題なし。乗り換え時間に余裕があり、4両のうち後ろの2両は途中の下深川駅で切り離されることもアナウンスで確認していたので、先頭車両に乗って準備万端、のはずだった。
ところが、下深川駅での切り離し後にワンマン運転になることを知らせる車内アナウンスで「狩留家から先、ICOCAは使えません」。「ん?横川からICOCAで乗ったんだが」。中深川駅に停車した時に運転士さんに聞いてみると、「白木山駅にはICカード対応の機械がないので、そのまま降りて下さい。後で有人駅にて精算して下さい」。そうだった、JR西日本のすべての駅でICOCAが使えるわけではなかったのだ。(後刻横川駅で事情を話して処理してもらった)白木山駅へ行くときは必ず発駅で切符を買って乗りましょう。
狩留家駅に停車中のキハ47形気動車。ICOCAが使えるのはここまでスタートから急登の連続
駅前には登山者のものと思われるマイカーが10台ほど止められていた。さすが人気の山だ。車道を10分弱歩いて登山口に到着。実は半世紀前、一度だけここから登ったことがあるのだが、とにかくきつかった記憶しかない。見上げると最初から急な階段になっており、ちょっと引き気味になるが、覚悟を決めて歩を進めた。
白木山登山口。いきなり急登 登山口脇に設置されているコース案内図冒頭の国土地理院地図を見ていただくとわかるのだが、この登山道のある東斜面は等高線が詰んでいて、傾斜がきつい。しかも、道は等高線とほぼ直角に交差している。いわゆる直登パターンだ。人気の山だけに道はとてもよく整備されており、決して歩きにくくはないのだが、あっという間に息が上がる。ほとんど展望もきかないのでひたすら修行僧のように歩き続けるしかない。救いは赤い衣を着せられた石仏が一合目から九合目まで安置されていて、現在の位置が大体どのあたりかの目安になってくれることだ。標高250メートル付近には穴地蔵。その名の通り、小さな洞穴の中にお地蔵さんがまつられていた。
一合目は納経ケ段。仏は千手観音 二合目は馬の背。仏はやはり馬頭観世音 穴地蔵。その名の通り洞穴の奥にお地蔵さんが鎮座 序盤はひたすら急登が続くそれにしても、まだ午前9時過ぎだというのに、下山してくる人たちと次々すれ違う。一体何時から登っているのだろう。標高450メートルあたりには、「白木山ハイキングコース」の表示板が立木にかかっていた。息を切らしながらの登り続けているだけに、「どこが『ハイキング』なんだ」とひとり愚痴る。
「ハイキングコース」というにはちょっとハード 三合目は獅子の門。仏は准胝(じゅんてい)観音緩やかな道にほっと一息
四合目。「勢至観音」と書かれた札のある石仏を過ぎると、初めて緩やかな傾斜の道に出会った。標高538メートル(看板の表示)の五合目を越えると平坦な道もあり、少しほっとする。体も慣れてきて、七合目を過ぎた後の直登も難なく登り切り、小広場に出た。ここは湧水を引いてきた水場が作られている。通常ならホースから水が出ているらしいが、このところの寒さで凍結しているようだ。水槽の水も表面は凍りついていた。顔を上げると、樹木の間から頂上の電波塔が見えた。ここまで約1時間20分。もう頂上は遠くない。八合目、九合目の石仏を過ぎ、JR上三田駅方面からの縦走路(ロングコース)と合流し、木段を登りきると、山頂はすぐそこだ。
四合目、勢至観音。少し平坦な道が現れた 五合目。天主の段 六合目は桜馬場 七合目、営門の段 厳しい直登の道 標高690メートルにある水場。氷結していた 九合目、古屋ノ段 (謎)何に注意すればいいんだろう360度の展望は…曇りで残念
登山口から1時間50分、芝生に覆われた頂上に到着した。山上には神社や望遠鏡(残念ながらのぞいても見えなかった)、電波塔があるが、360度ほぼ遮るものがない。ただ、この日は曇り空で透明度も低い(天気予報は晴れ時々曇りだったのだが)。呉娑々宇山や阿武山、堂床山など周囲の山々は見えるが、雪をいただいた西中国山地の山々はぼんやり霞んでいる。厳島もかすかに島の形がわかる程度だ。天気がよければ三瓶山(島根県)や石鎚山(愛媛県)まで見渡せることもあるらしいが、こればかりは残念だが致し方ない。あきらめて少し早めの昼食に。ガスバーナーでお湯をわかし、カップヌードル(今回はBIGにした)を作った。ほとんど風がなく、寒さが厳しくなかったのは幸いだった。レギュラーコーヒーも淹れ、ゆっくり休憩を楽しんだ。
360度の眺望が楽しめる白木山山頂 山頂標識。後方は可部の町 カップヌードルの昼食。今回はBIGにしてみました 南方の稜線を望む。厳島がぼんやり見えていた 東方向の眺望尾根伝いに白木山を半分縦走
さて、下山だ。可部への下山路は、鉄塔の立つ小ピークをたどりながら、白木山の山塊のほぼ半分を縦走することになる。最初はよく整備された尾根道を快調に下る。山の上なのに、電波塔に電力を供給する電線が並行していてちょっと不思議な感じだ。20分ほどで林道に合流。ここからは、最初に紹介した通り、林道や無線施設の作業道路と登山道が交差して道がわかりにくい。登山道の入り口を示す赤やピンクのテープを見逃すとルートを大きく外れてしまうこともある。送電線の工事のため仮設登山道に付け替えられている場所も。スマホの登山アプリYAMAPの地図を確認しがら歩くこと約1時間、電波の反射板がある675メートルピークに到達した。
電線が張られた尾根道を下る 林道脇に立てられていた中深川駅への下山路の標識 送電線の工事現場には仮設の道が作られていた急傾斜の荒れ道を下る
ここからが本格的な下りになるのだが、急傾斜のうえ足元は荒れて滑りやすい道が続く。暗い林間で人にも会わないし、気分が滅入る。370メートル付近で広島市方面の眺望が開ける場所があったのが唯一の救い。あとは膝に負担がかかるのを耐えつつ根の谷川登山口まで下り切った。最寄りのJR可部線中島駅から電車に乗ろうと考えていたが、時間があくので近くの中島駅口から広島バスに乗った。総歩行距離は12.1キロ。結構疲れました。
下山路唯一の見どころ。ようやく天気が回復してきた。右は阿武山2022.1.29(土)取材≪掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください≫
還暦。50代後半になってから本格的に山登りを始めて4年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラム「バスと電車と足で行くひろしま山日記」