バスと電車と足で行くひろしま山日記 第6回 黒滝山~白滝山周遊(竹原市・三原市)

 


150年以上前、ドイツ人学者に絶賛された瀬戸内の風景


瀬戸内海は、1934年に九州の雲仙や霧島とともに日本で初めて国立公園に指定された。その美しさは古来多くの人の心をとらえた。
東西交易路「シルクロード」の命名者としても知られるドイツの地理学者フェルディナンド・フォン・リヒトホーフェン(1833~1905)は、1868年に米国から中国に向かう途中に船から眺めた瀬戸内海の印象を旅行記に書き残している。

 

「これから内海の最も美しい区域になる。大小無数の島嶼(とうしょ)の間に残された狭い水路を通っていくので、約八十粁(キロメートル)に亘(わた)り両側に種々様々な形をした見事な山々がみられる」
「広い区域に亘る優美な景色で、これ以上のものは世界の何処にもないであらう」(海老原政雄訳)

 

広島の山登りの醍醐味のひとつは、瀬戸内海の多島海の景観を楽しめることだ。前回紹介した経小屋山や前々回の似島・安芸小富士もそうだが、海岸近くから立ち上がる山は絶好の展望台になる。島々と市街地との対比、海上を行き交う船、時間や天気によって表情を変える海面など、見ていて飽きることがない。
今回は、芸予諸島の絶景を楽しめる黒滝山(竹原市)と白滝山(三原市)を周遊してみよう。

 

 

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ
行き)
JR山陽線・呉線(おとな片道1340円)
横川(7:25)→広(8:42)乗り換え
広(8:53)→忠海(9:56)

帰り)
①JR呉線(おとな片道200円)
忠海(13:34)→竹原(13:46)

②芸陽バスかぐや姫号(おとな片道1310円)
竹原駅(15:24)→広島バスセンター(16:31)

*往路にかぐや姫号を利用する事もできる。
時刻表はこちら

 


JR忠海駅からスタート


スタートは竹原市のJR忠海駅。JR呉線は単線のため行き違いの待ち時間もあり、広島から約2時間半かかった。
駅舎を出ると、目の前に黒滝山(270メートル)が立ち上がる。標高は低いが、山までの距離が近く、山頂付近の奇岩群が存在感を際立たせる。
国道185号を渡り、市街地を抜けて登山口に向かう。地蔵院の横に2018年7月6日に発生した西日本豪雨災害之碑が立っている。竹原市内だけで6人の犠牲者を出したという。

忠海市街地から見た黒滝山 忠海市街地から見た黒滝山

 

西日本豪雨災害の碑 西日本豪雨災害の碑

 

墓地を抜け、急坂を上りきると駐車場。ここが登山口だ。晴れて涼しい登山日和のせいか、7、8台の車が止まっている。トレッキングポールを伸ばし、いざ山登り開始。

黒滝山登山口。登山客の車が多数止められていた 黒滝山登山口。登山客の車が多数止められていた

 

登り始めてすぐに「白滝山3Km 黒滝山1.8Km」の分岐標識が現れる。まずは右の道を進んで黒滝山を目指す。道はとてもよく整備されていて歩きやすい。信仰の山でもあり、地元では「くろたきさん」と呼ばれて親しまれているそうだ。この日もたくさんの地域の人たちが登山道を整備したり、沿道の松を剪定したりしていた。愛されている山であることを実感する。

ほどなく視界が開け、海の見える岩場に出た。「乃木将軍腰掛の岩」とある。明治39(1906)年、忠海重砲大隊の検閲に訪れた乃木希典将軍がこの岩に座り、眺望を絶賛したのだという。お約束なので座ってみたが、まあ、普通の眺望。先を急ぐ。

標高170メートルほどの休憩所。かなり眺めはよくなってきたが、まだ風景に奥行きが足りない。

乃木将軍腰掛の岩。眺望を絶賛したという 乃木将軍腰掛の岩。眺望を絶賛したという

 


鳥居くぐりは…


登山道わきに「幸福の鳥居くぐり」の石柱が立っていた。ここのミニ鳥居をくぐると幸せが訪れるという。もちろんチャレンジしてみたが、両肩も入らない。抜けられなくなったら困るのであえなくギブアップ。測ってみたら幅60センチ、高さ55センチほどの空間しかなかった。

稜線に出ると、迫力のある山体が迫ってきた。足を速める。ぐんぐん山頂が近付く。登り始めから約40分で頂上広場に到着した。ここにも展望台はあるが、より眺めのよい山頂に向かおう。

くぐれたら幸せになれるというミニ鳥居。無理でした くぐれたら幸せになれるというミニ鳥居。無理でした

 

幸福の鳥居くぐり 幸福の鳥居くぐり

 

よく整備された登山道 よく整備された登山道

 

展望のよい休憩所 展望のよい休憩所

 

山頂に続く道 山頂に続く道

 


四国まで見渡せる展望台


眼下に忠海の市街地が広がり、その先に旧軍の毒ガス工場があった大久野島。最近はウサギと触れ合える島として人気がある。その向こうには大三島、生口島、伯方島などしまなみ海道の島々が展開する。左手の奥には、完成当時世界最大規模の斜張橋だった多々羅大橋の優美な姿。遠く四国連山も望めた。

この日は少し雲がかかっていたが、雲がなければ西日本最高峰の石鎚山(1982メートル)も見えたはずだ。四国の山々を背景に、海と島々が織りなす立体的な眺望はすばらしい。リヒトホーフェンが船から眺めて感動した瀬戸内海の景観を楽しむ展望台としては個人的に1位に挙げたい。

黒滝山の頂上広場 黒滝山の頂上広場

 

黒滝山頂上から見る忠海市街地と三原瀬戸。眼下に大久野島、大三島を一望 黒滝山頂上から見る忠海市街地と三原瀬戸。眼下に大久野島、大三島を一望

 

黒滝山頂上からの眺望 パノラマ写真。 黒滝山頂上からの眺望

 

多々羅大橋の優美な姿が望める 多々羅大橋の優美な姿が望める

 

続いて白滝山(350メートル)へ向かう。行政区域は三原市に変わる。往路は東回りのコースを選んだが、谷を越えて登りにかかると、少し道は荒れ気味。危険を感じるほどではないのだが、黒滝山登山道があまりに整備が行き届いていたのでそう感じただけかもしれない。

黒滝山から白滝山を望む 黒滝山から白滝山を望む

 

40分ほどで山頂直下の龍泉寺に。説明板には戦国大名の小早川氏の一族・小泉氏の氏寺だとある。本尊の十一面観音像(県指定重要文化財)は、立像が一般的な十一面観音には珍しい座像だそうだ。

龍泉寺山門 龍泉寺山門

 


巨岩に彫られた摩崖仏群


目指すは山頂の八畳岩と呼ばれる巨岩。岩の周囲に半肉彫という技法で彫られた摩崖仏群があるという。
寺の横の坂道を上ること数分。青空を背景に大岩が現れた。雲に乗った釈迦三尊像が刻まれている。中央の釈迦如来像は衆生を見守る穏やかな顔立ちが印象的。脇侍の表情も温かく、見ていると自然に笑顔になれる。
右側に回ると、十六善神像。一部の像は直接触れることもでき、それぞれが個性的な表情を見せてくれる。龍泉寺境内に三原市教委が設置した案内板によれば、江戸時代の初期に作られたと考えられているという。

八畳岩正面に刻まれた釈迦三尊像 八畳岩正面に刻まれた釈迦三尊像

 

十六善神像の一部 十六善神像の一部

 

仏のお顔に寄ってみる 仏のお顔に寄ってみる

 

勇ましい仏。お名前はわかりません 勇ましい仏。お名前はわかりません

 

摩崖仏を堪能した後は頂上へ。こちらからの眺めもすばらしい。
眼下に龍泉寺の山門。谷を隔てて黒滝山のピーク、その向こうに島々と四国連山と瀬戸内海が広がる。黒滝山からの眺望には及ばないかもしれないが、また違った美しさを楽しめる。

山頂の鐘撞堂で鐘をついて下山にかかる。龍泉寺からは西ルートを下る。駐車場までは舗装路、そこからは歩きやすい山道。このルートの途中から黒滝山に通じる道はあまり高度差がないので、三原市側からマイカーで途中の駐車場まで行けば割と楽に黒滝山の展望台にたどり着くことができる。

白滝山頂上から見た瀬戸内海。谷越しに見えるピークが黒滝山 白滝山頂上から見た瀬戸内海。谷越しに見えるピークが黒滝山

 


今回のお楽しみは中華そば


JR忠海駅には13時10分に到着。総歩行距離は6.3キロだった。
お昼はまだだ。今回は竹原で評判の中華そばを楽しもう。

電車で竹原まで移動し、15分ほど歩く。えんじ色ののれんが印象的な「太華園」。メニューはチャーシュー麺と手作り餃子、プラス生ビール。中華そばはしっかりした醤油だれが効いたスープに背脂が浮かぶ尾道ラーメン流。
ラーメンは人によって好みが分かれるが、個人的にはどストライク。宮崎の銘柄豚を使ったというチャーシューもうまい。皮も手作りという餃子はなめらかな食感が楽しい。

バスの発車まで少し時間があったので、町並み保存地区をさっと回ってから駅へ。「かぐや姫号」に乗って帰途についた。天候にも恵まれた、充実の山行を反すうしながら今回もすぐに眠りに落ちた。

太華園 太華園

 

ネギたっぷりのチャーシュー麺 ネギたっぷりのチャーシュー麺

 

《メモ》
忠海町はジャムメーカーのアヲハタの創業の地。同社HPによると、「アヲハタ」ブランドは、大正時代初期、創始者の中島董一郎氏がイギリス滞在中に、ケンブリッジ大学とオックスフォード大学のボートレースをよく見に行っており、その際、両校の校旗がブルー一色で大変印象的だったので、「Blue Flag」”アオハタ”をブランド名にしたのが始まりだという。(その後、昭和3(1928)年に「アオハタ」から「アヲハタ」へ変更)

駅の近くにはジャムづくりを体験できる「アヲハタジャムデッキ」(完全予約制・火曜日~土曜日 問い合わせ先0846-26-1550)がある。黒滝山の登山道には各所にアヲハタが寄贈した案内板があり、登山者をサポートしてくれる。

 

2021.10.17(日)取材 ≪掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください≫

ライター えむ
還暦。50代後半になってから本格的に山登りを始めて4年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
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