バスと電車と足で行くひろしま山日記 第5回 経小屋山(廿日市市)

厳島を眼下に見る絶景の展望所 厳島を眼下に見る絶景の展望所

 

日本三景「安芸の宮島」こと厳島を対岸の山から眺めるとしたら、どこがベストロケーションか。
極楽寺山(ごくらくじやま 693メートル)も捨てがたいが、個人的には今回紹介する経小屋山(きょうごやさん 596メートル)がイチオシだ。名瀑妹背(いもせ)の滝を経て絶景の山頂、下山後に温泉を楽しめるルートを紹介しよう。

 

▼今回利用した交通機関 *時刻は休日ダイヤ
行き)①JR山陽線(おとな片道420円)
横川(7:39)→前空(8:03)
②おおのハートバス(おとな片道150円)
前空駅(08:15)→妹背の滝(08:24)

帰り)①おおのハートバス(おとな片道150円)
べにまんさくの湯(14:40)→大野浦駅北口(14:48)
②JR山陽線(おとな片道420円)
大野浦(14:57)→横川(15:25)

おおのハートバス時刻表・路線図
https://www.city.hatsukaichi.hiroshima.jp/uploaded/attachment/45111.pdf

 

登山口の妹背の滝までは、JR前空駅からおおのハートバスを利用する。地域住民の足として廿日市市が民間企業に委託して自主運行しているコミュニティバスで、距離にかかわらずおとな150円で乗ることができるのはうれしい。白い車体にピンクの花びらをあしらったデザインもかわいらしい。

前空駅北口から玖波駅行きのおおのハートバスに乗り込む 前空駅北口から玖波駅行きのおおのハートバスに乗り込む

 


スタートは名勝妹背の滝


バスを降りて新幹線の高架をくぐるとほどなく大頭(おおがしら)神社に着く。厳島神社の摂社として603年に創祀されたという。
境内に入ると、右手の崖に落差約50メートルの雌滝(めんだき)が望める。水量は少ないが、たおやかな美しさを感じさせる。
本殿の横を抜け、奥に進むと雄滝(おんだき)が現れる。落差30メートル、花崗岩の断崖を流れ落ちる迫力は名勝の名に恥じない。滝つぼのすぐ近くまで近づけるのでマイナスイオン浴には絶好だ。滝を愛でながら朝食を済ませ、登山口に向かう。

スタートは大頭神社。厳島神社の摂社で、603年創建と伝わる スタートは大頭神社。厳島神社の摂社で、603年創建と伝わる

砂防堰堤の上の登山口からは、門山城(かどやまじょう)跡のある城山(265メートル)を経由するルートも選べるが、今回はアップダウンの少ない川沿いを進もう。傾斜はとても緩やかで、ところどころ崩れている個所があるものの、おおむね楽な道だ。水の流れが絶えたあたりから斜面を一気に登れば尾根に出て城山経由の道と合流。標識に従って経小屋山に向かう。

尾根沿いの道は樹林に囲まれて展望もあまりない。時折木の間から大野瀬戸や厳島が見えるとほっとする。高度を上げていくと地図上では次第に等高線の間隔が詰まり、傾斜が増す。滑りやすい岩場にロープが張られているのはありがたい。

ほどなく歩きやすい木段の道に変わり、周囲の視界も開けてくる。登りきると宮浜温泉からの登山道と合流し、頂上へ向かう。さらに分岐があり、文字が読めなくなった木製の標識に、赤地に白文字で「展望台 →→展望台 あずま屋」と書かれた手製の案内がかかっている。ここを見落とさないように。この先に絶景の展望地があるのだ。

両側にシダの生い茂る登山道 両側にシダの生い茂る登山道

 

稜線に到達。正面は城山山頂から続く道 稜線に到達。正面は城山山頂から続く道

 

尾根道は林の中 尾根道は林の中

 

厳島が見えた 厳島が見えた

 

滑りやすい岩場にはロープ。ありがたい 滑りやすい岩場にはロープ。ありがたい

 

木段が現れると頂上は近い 木段が現れると頂上は近い

 

展望地への案内を見逃さないように 展望地への案内を見逃さないように

 


厳島一望の桟敷席


歩くこと数分、視界が開ける。眼下に厳島が、その全容を見せてくれる。北端の聖崎から弥山(535メートル)、駒ヶ林(509メートル)、岩船岳(466メートル)と連なる山々を経て南端の革篭(こうご)崎までが一望だ。広島市や宮島口から見る厳島は神域らしい峻厳さを見せるが、ここから眺める姿はどこか優しげな雰囲気を漂わせる。似島や広島市街地も見渡せ、飽きない景色を楽しめる最高の桟敷席だ。ここでお昼にするのもぜいたくだが、まだ10時半。「野望」があるので先を急ごう。

厳島を眼下に見る絶景の展望所 厳島を眼下に見る絶景の展望所

 

あずまやもあります。休憩におススメ あずまやもあります。休憩におススメ

 

パノラマ写真。厳島の全容が見渡せる パノラマ写真。厳島の全容が見渡せる

 

来た道を引き返して山頂に向かうと、唐突にアスファルト舗装の車道に出た。そう、この山は車で山頂まで来ることができるのだ。妹背の滝の脇を通る県道289号栗谷大野線から経小屋林道が通じており、頂上近くにはかなり広い駐車場もある。駐車場から展望地までは徒歩10分もかからないので、ドライブがてら絶景を見に来るのもよし。
山頂は樹木に囲まれてあまり展望がきかない。北側は巨岩が折り重なっていた。

突然車道に合流 突然車道に合流

 

頂上までマイカーで来れる 頂上までマイカーで来れる

 

標高596メートル、経小屋山頂上。周囲には巨岩が積み重なる 標高596メートル、経小屋山頂上。周囲には巨岩が積み重なる

 

下山開始は10時50分。南斜面を一気に下る。とはいえ、傾斜は相当急でそうそうペースは上げられない。膝への負荷も侮れない。途中で振り返れば、どっしりした山容。登山道近くの巨岩の存在感にも圧倒される。スリップに注意しながら約1時間、宮浜口登山口に下山した。約4時間、7キロの山行。後半は気温が上がり、きつかった。

下山中に振り返るとどっしりした山容 下山中に振り返るとどっしりした山容

 

登山口から舗装路を下り、広島岩国道路の高架をくぐったところに「宮浜温泉 海望の源泉地」の碑があり、足元の手水鉢に源泉が流されていた。1965年に開かれた温泉地だが、もともとの源泉の湧出量が減ってきたため、1993年に地下1400メートルまで掘り抜いて新しい泉源を見つけたとある。泉質は単純弱放射能温泉、低張性弱アルカリ温泉。泉温は25度、ラドンを含んでいると説明板に書かれていた。

宮濱温泉の源泉採取地 宮浜温泉の源泉採取地

 


日帰り温泉の極楽


そう、昼食も取らずにそそくさと下山してきたのは、この温泉を楽しむためだ。
ホテルや旅館はいくつもあるが、登山者が目指すのは日帰り温泉「べにまんさくの湯」だ。
http://benimansaku.jp/

登山の後は日帰り温泉で汗を流す 登山の後は日帰り温泉で汗を流す

おとな料金の750円を払って浴室へ。内風呂もいいが、厳島の岩船岳が眼前に広がる露天風呂は最高。ジャグジーの設備もある。温泉の効能は疲労回復、筋肉痛、関節痛などで、山歩きの疲れを癒してくれる。いくつもの浴槽とサウナを順繰りに楽しんでいるとあっという間に1時間が過ぎる。
風呂から上がると2階のレストランで少し遅めの昼食。目の前の大野瀬戸は牡蠣の産地。お目当ては生ビールでカキフライ、だったが、残念ながら売り切れ。お店の人が「すみませんねえ。今日は午前中からカキフライがたくさん出てしまって」と申し訳なさそうに説明してくれる。
ならば、とカキのチゲ鍋に変更。辛味とカキのうまみが生ビールによく合い、これはこれで大満足だった。下山後のアルコールOKは電車とバスの山歩きのお楽しみだ。
最寄りのJR大野浦駅まで連れて行ってくれるおおのハートバスの停留所名は「べにまんさくの湯」。玄関の真ん前に止まってくれる。往路とは違って秋らしい紅葉カラーのデザインだった。

かわいい色のバスが駅まで送ってくれる かわいい色のバスが駅まで送ってくれる

 

《メモ》現在の宮浜温泉には戦時中、大野陸軍病院があり、原爆投下後には多数の被爆者が収容されていた。1945年9月17日に県内を直撃した枕崎台風により経小屋山から流れる丸石川で大規模な土石流が発生。病院の中央付近の建物を山陽本線の線路を越えて海まで押し流した。入院中の被爆者と病院職員のほか、原爆災害の調査に来ていた京都大学の研究班11人を含む156人もの命が失われたという。温泉街の上にある米山広場には、水害死没者の供養塔と京都大学原爆災害総合研究調査班遭難記念碑があり、悲劇の記憶を伝えている。

1945年9月の枕崎台風による土石流の犠牲になった京都大調査班を悼む石碑 1945年9月の枕崎台風による土石流の犠牲になった京都大調査班を悼む石碑

 

19470327土石流の爪痕が残る現在の宮浜温泉付近 出典:国土地理院 19470327土石流の爪痕が残る現在の宮浜温泉付近 出典:国土地理院

2021.10.9(土)取材 ≪掲載されている情報は取材当時の内容です。ご了承ください≫

ライター えむ
還暦。50代後半になってから本格的に山登りを始めて4年ほど、中四国の低山を中心に日帰りの山歩きを楽しんでいます。できるだけ公共交通機関を利用しますが、やむを得ない場合に時々レンタカーを使うことも。安全のためトレッキングポールは必ず携行。年齢のわりに歩くのは速い方です。
■連載コラムバスと電車と足で行くひろしま山日記
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